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「判例勉強会の取りまとめ」みたいな感じの本?
『日本をダメにした10の裁判 (日経プレミアシリーズ 4)』['08年] 2008年6月4日 日本経済新聞朝刊
「日経プレミアシリーズ」の創刊ラインアップのうちの1冊。若手の弁護士やロースクール出身者4人による共著で、冒頭に有名な労働裁判2例が出ていたので思わず買ってしまいましたが、何か新しい切り口でもあるのかと思いきや、意外とオーソドックスと言うか、すでに巷で言われていることが書いてあるだけのように思いました。
解雇権濫用法理のリーディングケースとなった「東洋酸素事件」を以って、日本の労働社会における解雇の障壁を高くしたとか、転勤命令についての会社側の裁量権を大幅に認めた「東亜ペイント事件」はワークライフバランスが言われる現代には合わないとか、労働判例の勉強をしたことがある人の多くが以前から感じていることではないでしょうか。
「東洋酸素事件」の解説の終わりにある、正社員の既得権を守り過ぎたがために、非正規社員は冷遇され、「正社員の親とパラサイトの子」という構図が出来上がっていることの問題も、労働法学者がすでに指摘していることであり、「皮肉な結果ではないか」で終わるのではなく、そこから先の展開が欲しかった気がします。
代理母事件や痴漢冤罪、企業と政治の癒着...etc.後に続く判例についても同様で、判例解説としても論考としてもスッキリし過ぎているような...。
個人的に、多少とも我が意を得たのは、国家公務員が事件の加害者になっても、多くの場合、個人が賠償請求の対象にはならず、国家賠償法により国が代償するという「公務員バリア」に疑念を呈した部分で、社会保険庁の職員の懈怠の問題などに関連づけているのもナルホドね、そういうことかと。
ただ、全体としてはやはり、「判例勉強会の取り纏め」みたいな感じが拭いきれなかったなあ。その分、ある程度、勉強(復習)にはなりましたが。