【1259】 ○ 千葉 忠夫 『世界一幸福な国デンマークの暮らし方 (2009/08 PHP新書) ★★★☆

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福祉国家とは何かを思い描く上での思考の"補助線"となる要素はある本。

世界一幸福な国デンマークの暮らし方.jpg 『世界一幸福な国デンマークの暮らし方 (PHP新書)』 ['09年] 

デンマーク.gif 福祉国家の代表格であるデンマークの社会福祉政策や学校教育のあり方、人々のものの考え方などを通して、日本社会が抱える貧困、政治、教育、社会、福祉などの様々な問題を考えるに際しての「補助線」を示した本と言えます。

 生まれた時から亡くなるまで医療費・教育費は無料というデンマークですが、所得税率50%(低所得者には軽減措置あり)、消費税率25%という世界一税金の高い国でもあり、国家財政の土台の部分で日本とはあまりに違い過ぎると見る向きもあるかも知れません。

 しかし、国家予算の75%が教育や福祉に使われているとのことで、税金に嫌悪感を抱きがちな日本人に対し、デンマーク人は「高福祉高負担税」と言うより「高福祉高税」という受け止め方らしいです。
 読んでみると、"連帯"と"共生"を当然のこととするその国民性が、政府の施策と相乗効果となって、この国を「世界一幸福な国」たらしめていることがわかります。

 教育の実態も日本とは随分異なり、高校進学率は約45%で、50%は職業専門学校へ進学するとのこと、大学入試も無いという―、これは、学歴よりも実力を重視する社会であるためとのことですが、試験が無いと言うことが、「他人と競ってでも(他人を蹴落としてでも)」という意識を生ませないのかも。

 この国が何より進んでいるのがノーマリゼーションで、ノーマリゼーションを最初に実施した国であるという自負もあるのでしょうが、本書に紹介されているこの国の障害者福祉などの充実ぶりは、日本と比べても天と地ほどの差があるように思えました。

 社会保障が整っているために離婚が多く、この国の児童虐待で最も多いのは、血の繋がっていない子に対する近親相姦であるという、「負」の部分にも少し触れてはいますが、全体としてはデンマークのいいことばかり書いてあるような気もし、著者がノーマリゼーションの実践提唱者であるパンクミケルセンの業績を後世に伝えるための財団の理事長であるとのことにも関係しているのかも。

 各章の冒頭にあるアンデルセンの童話から本文テーマに繋げていく構成には、ああ、旨いなあと感心させられましたが、1つ1つのテーマの切り込みは、やや浅い部分もあり、老婆心ながら、読者によっては「夢の国」の話で終わってしまいそうな危惧も感じました。

 著者自身は、デンマークの方が住みやすいとしながも、日本の方が好きだと―。
 デンマーク並みの「高福祉高税」が無理であれば、「中福祉中税」を目標としてみるのもいいのではと提言していますが、日本のおける制度をどうこうしたらという具体的なことには触れていません。
 但し、本書の内容自体が、福祉国家とは何かを思い描く上での思考の"補助線"となる要素はあると思います。

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This page contains a single entry by wada published on 2009年10月24日 23:11.

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