【1252】 ◎ 阿奈井 文彦 『名画座時代―消えた映画館を探して』 (2006/03 岩波書店) ★★★★☆

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楽しく読め、資料的価値も高い。こうした本が出せる最後のタイミングだったかも。

名画座時代.jpg 『名画座時代―消えた映画館を探して』 ['06年]  阿奈井文彦.jpg 阿奈井 文彦 氏

 昭和30年代の映画黄金時代に最盛期を迎え、ビデオ・DVDの普及、シネコンの登場などで衰退していった「消えた映画館」のあった地を訪ね歩き、その関係者に取材して、映画への偏愛を聞き書きした本で、季刊誌「通販生活」(カタログハウス)の'02年から'05年までの連載に加筆して単行本化したもの。

 取り上げているのは、東京の映画館は、人世坐、日活名画座、佳作座、東急名画座の4館で、地方は、前橋、門司、松山、沖縄、福岡、浦河、広島、京都、倉敷の9つの町の名画座。

飯田橋佳作座.jpg 飯田橋の佳作座('88年閉館)は個人的に懐かしいですが(渋谷の東急名画座は、自分が初めて行った80年代前半頃にはもうロードショー館になっていた)、東京で「伝説の名画座」と言えば、やはり文芸坐の前身の人世坐('68年閉館)と新宿の日活名画座('72年閉館)なのでしょう。それぞれの当時の建物、パンフレットやプログラムの写真のほか、元支配人だった人への取材、日活名画座のポスターを描いていた和田誠氏へのインタヴューなどもあります。

 地方の映画館は殆ど知りませんが、この著者はかつていろいろな土地に住んだことがあるようで、著者にとっては紹介されている町の多くが想い出の地でもあり、旧支配人など、著者のインタヴューを受けた関係者の想いだけでなく、著者自身の思い入れも伝わってきます。
 また、映写技師や看板の描き屋さんだった人、当地の映画(館)ファンだった人などにも取材していて、沖縄のお医者さんで13床のベッドを潰して院内に患者向けの映写室を作ってしまった人とかもいて、スゴイなあと。

 「消えた映画館」が殆どですが、全部無くなってしまっているわけでもなく、浦河(北海道・日高管内)の大黒座みたいに、4代目の人がミニシアターとして復活させている例もあり、頑張っているなあという感じ。

 でも、当時現場にいた人の多くは既に高齢で、まさか今更取材を受けるとは思わなかったという感じで(但し、訊かれると昔のことをよく覚えている)、支配人だった人が亡くなって、その息子さんから話を伝え聞くような場面も多く、著者自身は年齢(昭和13年生まれ)の割にはフットワークはいいようですが、相手がいなければ仕方が無い・・・こうした本が出せる最後のタイミングだったかも。

 掲載されている当時の写真やポスター、オリジナルのパンフレットやチラシの数も多く(ある時期の年間の上映作品一覧などもある)、それだけでも資料としての価値はあるかと思いますが、こうした関係者の肉声が盛り込まれているのが貴重ではないかと(残念ながら生の声を聞けなかった人も多くいたわけだが)。

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阿奈井 文彦(あない ふみひこ、1938年10月19日 - 2015年3月7日)ノンフィクション作家、エッセイスト。2015年3月7日、誤嚥性肺炎のため死去。76歳没。

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