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消え行く映画館を追った写文集。写真があるというのは、それだけで資料的価値はあるかと。
『映画館物語―映画館に行こう!』['02年] 『想い出の映画館』['04年]
『映画館物語-映画館に行こう』('02年12月刊行)は、全国の映画館を旅歩いてカメラに収めてきた著者が、その中から数百点の写真を厳選し、その映画館に纏わるエピソードを添えた写文集で、札幌から始まって沖縄まで273館を紹介して終わっていますが、今は閉館になったものを重点的に拾っています。
1枚1枚の写真が大判なのが良く(すべてモノクロ写真)、こうして見ると、東京の今は無き映画館も懐かしいですが、地方の行ったこともない映画館で今は閉館になっているものの写真も、どことなく郷愁をそそります(地方の映画館などは、街の過疎化を象徴しているようでもあり、侘びしさも感じる)。
消え行くものは美しい―必ずしも、そういうコンセプトのみで作られた本ではないとは思いますが、表紙に'98年オープンの「ラピュタ阿佐ヶ谷」をもってきているのは、全体のトーンからして少しずれているような気も。
『想い出の映画館』('04年9月刊行)も同趣の本で(こちらもすべてモノクロ写真)、概ね関東と関西に分けて紹介していて、東京地区だけで見ても、新宿、渋谷、池袋、浅草、錦糸町、亀有、大井・蒲田、銀座、有楽町、中野、吉祥寺・三鷹、高田馬場、早稲田と街ごとに、閉館となった名画座をより詳しく紹介しているため、自分としては親近感がありました。
それでも結構漏れていると思われるものもあり(『映画館物語』にあった「目黒シネマ」や「三軒茶屋中劇」の写真が『想い出の映画館』にはない)、紙数上、これは仕方がないことか。「三鷹」などは紹介文が3行しかなく「三鷹オスカー」の写真が1枚あるだけ。
でも、やはり、写真が載っているというのは、それだけで資料的価値はあるかなあと。
個人的には、古色蒼然とした写真よりもちょっと古め程度の写真、例えば「下高井戸シネマ」のリニューアル前の写真に「下高井戸京王」という看板が見えるのとか(『映画館物語』)、西友の地下にあった高田馬場「パール座」の入口の写真(『想い出の映画館』)などに懐かしさを覚えました。
『映画館物語』の中で、「中野武蔵野ホール」で頑張っている女性スタッフが紹介されていますが、1年半後に刊行の『想い出の映画館』では閉館となったと紹介されており('04年5月閉館)、「シネ・ラ・セット」(旧有楽シネマ)もそう('04年1月閉館)、どちらの本にも出てこないけれども、「自由が丘武蔵野館」もそうなんだよなあ('04年2月閉館)。
このように、本書刊行後に閉館となった映画館も多いですが、「早稲田松竹」や「目黒シネマ」みたいに頑張っているところもあり、但し、レンタルビデオによって名画座が衰退し、更にデジタル録画時代に入り、昔ほどの"値ごろ"感がないのは事実。
著者は、シネコンを味気ないとして嫌っているようですが、渋谷は既にそうだし、新宿も大方がシネコン化していくのでしょう。
個人的には、シネコンであろうと、昔の名画座のようなその映画館独自の色合いがあればそれでいいのではとも思いますが、実際にはどれもこれも均質化してきているのが何とかならないものかと。