【1233】 ◎ 木村 駿 『暗示と催眠の世界―現代人の臨床社会心理学』 (1969/10 講談社現代新書) ★★★★☆

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催眠について新書で科学的な観点から取り上げた点は先駆的だったと言える。

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暗示と催眠の世界―現代人の臨床社会心理学 (1969年) (講談社現代新書)』『日本人の対人恐怖 (Keiso c books―社会心理学選書)
暗示と催眠の世界22.JPG暗示と催眠の世界5.JPG 『日本人の深層心理』『日本人の対人恐怖』などの著書のある臨床心理学者・木村駿(1930-2002/享年72)の著書。

 「暗示」と「催眠」について分り易く解説した本で、とりわけ催眠については、それまで学術書以外では、実用書のようなもので「催眠術」としてしか扱われてなかったものを、「講談社現代新書」というエスタブリッシュな新書で科学的な観点から取り上げたのは先駆的だったかも。メスメルから始まる催眠の歴史から説き起こし、催眠時における脳波の測定結果などを示して催眠状態とは如何なるものかを解説したうえで、その技法についても、著者の実演写真入りで紹介しています(簡潔ではあるけれども、一応、技法書としても使える)。

 さらに、自動車交通事故の誘因の1つともされるハイウェイ催眠など、日常に見られる催眠現象及びその類似現象について解説し、自律訓練法や脳性麻痺のリハビリテーションなどの催眠法による治療を紹介すると共に、後半は、学生運動における群集心理や政治における大衆操作などの「社会現象」としての催眠(暗示)を扱っています。

1暗示と催眠の世界 石原.jpg1暗示と催眠の世界 美濃部.jpg 「政治家のイメージも暗示で作られる」としているのは、最近言われる「ポピュリズム政治」をある意味先取りしており、リーダーを「父親型」と「母親型」に分類していて、"最近のわが国の政治家"の例としてそれぞれ、'68年の参議院議員選挙の全国区でトップ当選した石原慎太郎と、'67年に東京都知事選挙で勝利した美濃部亮吉を挙げているのが興味深く、また、時代を感じさせます(宗教界の父親型リーダーに創価学会の池田大作、母親型リーダーとして立正佼成会の庭野日敬を挙げており、集団の性格は、リーダーのタイプによって象徴されるとしている)。

 最後に、広告・宣伝における大衆暗示について述べていて、ビールはイメージ商品であり、キリン、サッポロ、アサヒの3社のビールの味の違いは、ビール会社の技師でも分らないと言っていたとあり、当時ビール市場に参入して間もないサントリーのテレビCMを巧妙と絶賛する一方、ビール市場からの撤退を余儀なくされた「タカラビール」を、味は他社にひけを取らないのに焼酎のイメージから脱却できなかった「悲劇的な例」としています。

 社会心理にまで言及したことで、1冊にやや盛り込み過ぎになったきらいもありますが、入門書としては読み易く、読み直すことでまた新たな興味が湧く部分もありました。

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