【1222】 ◎ 吉野 聡 『それってホントに「うつ」?―間違いだらけの企業の「職場うつ」対策』 (2009/03 講談社+α新書) ★★★★☆

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現代型うつ病(ディスチミア親和型うつ病など)への企業内での現実的対応法を示した良書。

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それってホントに「うつ」?──間違いだらけの企業の「職場うつ」対策 (講談社+α新書)』['09年]

 精神科医であると同時に産業医でもある著者によるもので、若者を中心に増えつつあり、企業の人事担当者を惑わせる「職場うつ」に対する対応の在り方について書かれたものですが、それ以前に、「うつ」とは何かが簡潔に解説されているため、「うつ」の入門書としても読めます。

それは、うつ病ではありません.jpg 同じ頃に刊行された林公一(きみかず)氏の『それは、うつ病ではありません!』('09年/宝島社新書)が、事例から入って、これは「うつ病」でありこれは「擬態うつ」だとして後付で解説しているのに比べると、最初に体系を示しているためより解り易かったです。
 そして何よりも、『それは、うつ病ではありません!』が「気分変調性障害」などを「擬態うつ」として排斥しているのに対し、本書は、「現代型うつ病」としているのが大きな違いで、DSM-Ⅳに対しては批判も多いものの、とりあえずは現行の診断基準になっているのだから、それに沿って解説するのが筋でしょう。そうした意味では本書の方がオーソドックス。

 その上で、巷に氾濫している「職場うつ」という概念を、①従来型うつ病(大うつ病障害)、②現代型うつ病(気分変調性障害)、③パーソナリティ障害、④内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)に区分し、それぞれの特徴を述べるとともに、治療方法や周囲の接し方、職場復帰プログラムの在り方などをタイプ別に解説しています(③、④など「うつ病」の診断基準を満たさないものを「排除」するのではなく、それらも含めて、産業医の立場から人事担当者と共に現実対応を考えていこうという姿勢がいい)。

 とりわけ、著者が「現代型うつ病」と呼ぶところの気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)に対する見分け方や対応方法が類書に比べて解り易く書かれていて、例えば、「現代型うつ病」であっても敢えて「従来型うつ病」と同じ職場復帰プログラムを用いればよいことをその理由と共に書いている部分には、ナルホドと共感しました。

 「職場うつ」への企業内での対応について、産業医としての現場での経験を踏まえた上で(もちろん著者は、主治医としても患者を診ている)、精神科医としての専門家の立場から、現実的な対応法、実践的な示唆やアドバイスが分かり易く書かれた良書だと思います。

 惜しむらくはタイトルで、林公一氏の『それは、うつ病ではありません!』と同じようなニュアンスになってしまっているため、これもまた「擬態うつ」を告発するような内容かと錯覚する読者もいるのではないでしょうか。
 更に、「職場うつ」という言葉が混乱を招いているとしながら、「企業の『職場うつ』対策」というサブタイトルを用いているのもどうかと(「職場うつ」には"非うつ"も含まれると断り、また、そのことを"悲劇"としてはいるが)。
 
 著者の最近のセミナーの1つに、「傲慢なのに打たれ弱い『現代型うつ病』への職場対応」という演題ものがありましたが、本書では、「現代型うつ病」に当たる気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)だけでなく、非うつ病である「パーソナリティ障害」や「内因性精神障害」についても触れているので、このサブタイトルは止むを得ない(「職場うつ」という言葉を条件付きで使わざるを得ない)のかも知れませんが、メインタイトルの方はちょっと...。

 林公一氏の著書とのタイトルの類似を個人的に意識し過ぎたかも知れませんが、中身的には、こちらの方が圧倒的に良書です。

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