【1221】 △ 林 公一 『それは、うつ病ではありません! (2009/02 宝島社新書) ★★☆

「●「うつ」病」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1222】 吉野 聡 『それってホントに「うつ」?
「●メンタルヘルス」の インデックッスへ

1人の精神科医の1つの考え。入門書と言うより「意見書」として読んだ方がいい。

『それは、うつ病ではありません!』.JPG林 公一 『それは、うつ病ではありません!』.jpg  擬態うつ病.jpg擬態うつ病 (宝島社新書)』['01年]
それは、うつ病ではありません! (宝島社新書)』['09年]

「Dr 林のこころと脳の相談室」(http://kokoro.squares.net)というサイトを運営し、人事担当者の間でも評判の高い精神科医である著者の『擬態うつ病』('01年/宝島社新書)に続く第2弾で、それぞれのタイトルからも解るように、うつ病と外見は似ているが本質は異なる「擬態うつ病」(=うつ病もどき)というものをテーマにしています。

 実際、著者が言うところの「擬態うつ病」というのは社会に、また企業の内に蔓延していて、人事担当者を大いに惑わせるものであり、『擬態うつ病』はタイムリーな刊行であったと思いますが、但し、当時それを読んでやや個人的には引っ掛かるものがあり、精神医学やうつ病の本を何冊か読んだ後に今回の続編を読んで、ああ、これも1人の精神科医の1つの見方に過ぎないなあという思いを強くしました。

 20のケースを挙げ、「これはうつ病でしょうか?」というQ&A形式で解説を進めていますが、最初の方は結構わかりやすい事例のように思え、但し、では「うつ病」でなければ何なのかということで、例えば境界性人格障害や統合失調症であるといった具合に言い切っていますが、果たしてこれだけでそうと言えるのか。著者が描いている事例のイメージの中ではそうかも知れませんが、一般の読者がこれだけを読んで、こうしたケースは境界性人格障害や統合失調症であると(それら自体の解説はあまりされていないのに)決め込んでしまう恐れがあるように思いました。

 また、「うつ病」の定義に著者独自の考えがかなり入っているように思え、実際、著者自身、後半の方では、医学界が「カオスの時代」にあり、「現代の診断基準では、うつ病ということになります」、「こうしたケースはうつ病と呼ぶべきではない、と私は思います」といった物言いになっていたりします。

 決定的なのは、"「ディスチミア親和型うつ病」などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、社会に「擬態うつ病」が蔓延しているのは困ったものだという一般感情にかこつけて、現代のメジャーな診断基準および「うつ病(うつ病性障害)」の概念範囲を否定していることで、うつ病の入門書として本書を読んでしまった読者がいたら、その前後に読む真っ当な本に書かれている内容との齟齬のために相当混乱させられるのではないでしょうか。

 入門書と言うより、1つの「意見書」として読んだ方がいいと思います。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1