2009年8月 Archives

「●語学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【281】 ユージン・ランディ/堀内 克明 『アメリカ俗語辞典

『でる単』より役に立った『でる文法』。

試験にでる英文法.jpg試験にでる英文法.jpg試験にでる英文法』['91年改訂版]試験にでる英文解釈.jpg試験にでる英文解釈』['01年改訂版]

 森一郎と言えば累計で1500万部以上売れ、今も改版・増刷を続けている『試験にでる英単語』('67年/青春新書)が有名ですが、参考書としては本書『試験にでる英文法』('71年12月/青春新書)の方が画期的だったのではないでしょうか。

英文法解説 江川 泰一郎.jpg その画期的な点の1つとして、普通の文法書だと、例えば江川泰一郎『英文法解説』('64年/金子書房、'91年第3版)がそうであるように「名詞」から始まり「代名詞」、「形容詞」と来るところを、本書は章立てのトップに「不定詞」が来て次が「動名詞」になっていて、要するに試験に出る順、間違え易い順に並べられているという点が挙げられます(因みに、一般書だが、マーク・ピーターセンの『日本人の英語』('84年/岩波新書)は「冠詞」がトップに来ていて、これは、「日本人の苦手な順」?)。

試験にでる英文法 森一郎.jpg 『試験にでる英単語』にも実は試験に出やすい順に英単語を列挙した章がありますが、文法書でそれをやるとは、大胆と言えば大胆。英文法を体系的に理解する上での良し悪し論はあるかと思いますが、自分には合っていたし、今読んでも、文法書として優れているのではないかと。 

 著者が言うように、『試験にでる英文解釈』('72年/青春新書)と併せて活用すると効果的だと思います(『試験に出る英文法』にある例題の設問形式自体はやや古い。一方、『試験にでる英文解釈』は、目次を見ればわかるが実質的には「英文法の本」であって、こちらの方が練習問題用には使える)。

 森一郎(1923-1991)は日比谷高校の教諭だった人で、同じシリーズの『試験にでる現代国語』『試験にでる古文試験にでる現代国語.jpg単語』の著者試験に出る古文単語.jpg勝山正躬.jpg勝山正躬(1912-1989)は灘高校の校長でしたが、両著者のこのシリーズの本は2人の没後も改訂されています。日比谷・灘両校はかつては東大進学者数を巡ってのライバル校同士でしたが、ここでは今も競い合ってる?


勝山正躬(1912-1989)

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無味乾燥な記憶対象としてではなく、英単語に知的関心を抱かせるという点で親しみ易い本。

岩田 一男 『英単語記憶術5.JPG英単語記憶術2.jpg英語に強くなる本.jpg 岩田 一男.jpg 岩田 一男(1910-1977)
英単語記憶術―語源による必須6000語の征服 (カッパ・ブックス)』['67年] 『英語に強くなる本―教室では学べない秘法の公開 (カッパ・ブックス)』['61年]

 ロングセラーである森一郎 『試験にでる英単語』('67年/青春新書)は、その章立てが、「派生語」がトップに来ていて、「接頭語・接尾辞」が最後に来ていることからも分るように、単語を例えば接頭語・接尾語でグループ分けして覚えていくやり方が特徴の1つで、このスタイルを受験参考書に採り入れたのが画期的だったということかも。

 但し、受験参考書類に限らなければ、この方式は翻訳家や通訳を目指す人向けの本に既にあったように思われ、一般向け(ビジネスパーソン向け?)の新書では、『試験にでる英単語』の少し前に刊行された本書『英単語記憶術』('67年/カッパ・ブックス)があり、章立ても「語根による記憶術」「接頭辞による記憶術」「接尾辞による記憶術」...となっていて、ここで採られている方式がまさにこれに該当します。

 例えば、「語根による記憶術」であれば、「北極と南極から等しい(equal)地点にあるから、赤道(equator)である」と。「接頭辞による記憶術」であれば、「発見する(discover)とはカバー(cover)とる(dis-)」ことである、「接尾辞による記憶術」であれば、「ライバル(rival)とは、川(river)の両側で魚を取り合う人(‐al)である」といった感じで憶えていく要領となります。

 この本、松岡正剛氏も「千夜千冊」で取り上げていています、。

 ―サンフランシスコへ行く飛行機で難波祐介が隣の席でしきりに本を読んでいる。他人が何を読んでいるのか覗くクセはないので、ずうっとほうっておいたのだが、二人旅の飛行機ではそれでは退屈しすぎるか、失礼かのどちらかなので、つい「それ、何?」と聞いてみた。それが本書だった。 難波君は建築出身のプロデューサーで、世界中の空港を出入りした数と頻度ではめったに他人に負けないコスモポリタンである。体力にも民族にも風土にも自信があって、クウェートに石油パイプを引くプロジェクトもタイに300校の小学校をつくるプロジェクトなども、日本人は難波君ひとりが切り盛り役だった。 したがって英語はペラペラ、しかも早口でも喋れる。その難波君がかわいいカッパブックスの英語学習の本を読んでいる。しかも、岩田一男だ。例の大ベストセラー『英語に強くなる本』の姉妹本なのだ。それもこれからサンフランシスコに行こうとしている飛行機で夢中に赤線やら青線を引っぱっている。 「おもしろいの?」と聞くと、「いやあ、これ、よくできてますよ」と言う。(「千夜千冊」第219夜/2001年1月30日より)

 松岡氏自身も読んでみて「中身はなるほどうまくできている。少なくともエティモロジー(語源学)の学術本よりはずっと工夫がしてあるし、ハンディな語源辞典のたぐいの白々しさもない」と感心しています。因みに、上記引用の中に出てくる同著者が最初にカッパ・ブックスとして上梓した『英語に強くなる本―教室では学べない秘法の公開』('61年/カッパ・ブックス)は、発刊後3カ月で100万部を売り上げ、1954年創刊のカッパ・ブックスにとって最初のミリオンセラーとなっています(最終的に147万3000部売り上げた)。

 著者の岩田一男(1910-1977)はは英文学者で、ロバート・ルイス・スティーヴンソン研究の日本における第一人者であるとともに、英語の語源学の権威だった人で、本書『英単語記憶術―語源による必須6000語の征服』は、語源にまつわる話がエッセイ風に取り上げられているのが読み易く、また1ページ1テーマで纏めているので(接頭・接尾辞をグループ化している)、どこからでも読めるという利点がありました。受験英語の参考書として使うにはちょっと悠長な感じもしますが、無味乾燥な記英絵辞典 岩田一男.jpg岩田 一男 『英単語記憶術』『英熟語記憶術』.jpg憶対象としてではなく、英単語に知的関心を抱かせるという意味では、親しみ易い本でした(●2014年にちくま文庫に移植されたが、真鍋博のイラストもそのまま生かされているのがありがたい)。その後、'68年に『英絵(えいえ)辞典―目から覚える6,000単語』、'69年に『英熟語記憶術―重要5,000熟語の体系的征服』を続けて刊行していますが、受験英語の参考書としてよりも、教養書&実践の書として読めるという点ではいずれも同じです。
英絵(えいえ)辞典―目から覚える6,000単語 (1968年) (カッパ・ブックス)
英熟語記憶術 重要5,000熟語の体系的征服 (KAPPA BOOKS)』['69年] 

英単語記憶1.JPG英単語記憶2.JPG英単語記憶術   語源による必須6000語の征服.jpg
   

  
 
英単語記憶術: 語源による必須6000語の征服 (ちくま文庫)』(2014/02 ちくま文庫)

イラスト:真鍋 博

【2014年文庫化[ちくま文庫]】

  

《読書MEMO》
●1961年(昭和36年)ベストセラー
1.『英語に強くなる本』岩田一男(光文社)
2.『記憶術』南博(光文社)
3.『性生活の知恵』謝国権(池田書店)
4.『頭のよくなる本』林髞(光文社)
5.『砂の器』松本清張(光文社)
6.『影の地帯』松本清張(光文社)
7.『何でも見てやろう』小田実(河出書房新社)
8.『日本経済入門』長洲一二(光文社)
9.『日本の会社』坂本藤良(光文社)
10.『虚名の鎖』水上勉(光文社)

●1967年(昭和42年)ベストセラー
1.『頭の体操(1)』多湖 輝(光文社)
2.『人間革命(3)』池田大作(聖教新聞社)
3.『頭の体操(2)』多湖 輝(光文社)
4.『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮社)
5.英単語記憶術』岩田一夫(光文社)
6.『頭の体操(3)』多湖 輝(光文社)
7.『姓名判断』野末陳平(光文社)
8.『捨てて勝つ』御木徳近(大泉書店)
9.『徳川の夫人たち』吉屋信子(朝日新聞社)
10.『道をひらく』松下幸之助(実業之日本社)

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分かり易さが特長。クリニックで行う「復職支援デイケアプログラム」を紹介。

ササッとわかる「うつ病」の職場復帰への治療 図解大安心シリーズ.jpg 『ササッとわかる「うつ病」の職場復帰への治療』 ['09年] ツレがうつになりまして。.jpg 『ツレがうつになりまして。』 ['06年]

 3構成で、第1章で「うつ病」の基礎知識、第2章で職場復帰プログラムの実際、第3章で復職後の心得等について書かれています。
 テーマがテーマだけに「ササッとわかる」などというシリーズに入れていいのかなという思いも無きにしもでしたが、1テーマ見開きで、各左ページがイラストや図解になっていて、100ページ余りの本、実際よく纏まっているなあという印象です。

 そうした分かり易さという"特長"とは別に、本書の最大の"特徴"は、メディカルケア虎ノ門院長である著者が、自らのクリニックで実施している「復職支援デイケアプログラム」を詳細に紹介している点でしょう。
 うつ病で休職し、復職見込みにある者が会社に「馴らし出勤」するパターンは、企業が用意する復職支援プログラムとして一般的ですが、本書で言う「デイケアプログラム」とは、クリニックに"模擬出勤"するとでも言うべきものでしょうか。
 「馴らし出勤」の間に発生した業務遂行上のミスをどう扱うかとか周囲への負荷の問題などを考えると、こうした専門家に"預ける"というのも1つの選択肢のように思えました。

 但し、こうしたデイケアが受けられる施設数も受容人数も現状では限られているし、その間の費用は会社が一部補助したりするべきかとか、いろいろ考えてしまいます(そもそも「治療」とあるが、医療保険の対象になるのだろうか)。
 ただ、本としては、こうしたデイケアに参加できない人には何をどのように行えば良いかが2章から3章にかけて解説されていて、周囲が本人にどう接すればよいかということも含め参考になるように思えました。

ツレがうつになりまして.jpg『ツレがうつになりまして』.bmp NHKで今年('09年)の春に、漫画家・細川貂々氏の『ツレがうつになりまして。』('06年/幻冬舎)をドラマ化したものを放映していましたが、あれなどは家族(配偶者)が、この本で言うところの"デイケア"的な役割を担った例ではないかなと。

「ツレがうつになりまして。」●演出:合津夏枝/佐藤善木●制作:田村文孝●脚本:森岡利行●音楽(主題歌):大貫妙子●原作:細川貂々「ツレがうつになりまして。」「その後のツレがうつになりまして」●出演:藤原紀香/原田泰造/風吹ジュン/濱田マリ/小木茂光/設楽統(バナナマン)/駿河太郎/黒川芽以/田島令子●放映:2009/05~06(全3回)●放送局:NHK

 原作コミックも読みましたが、うつ病の特徴が分かり易く描かれているとともに、作品としても心温まるものに仕上がっていると思えました。

ツレがうつになりまして。2.jpg あのコミックの"ツレ"さんは、メランコリー親和型の典型例ではないでしょうか。社内でも有能とされるSEで責任感が強い。曜日ごとにどのネクタイをするか、どの入浴剤を使うか、弁当に入れるチーズの種類は何かまで決めているなんて、完璧癖の1つの現われ方なんでしょうね。

 また、うつを内因性・外因性で区分するやり方は、現在では治療的観点からはあまり意味がないとされているようですが、細川氏の夫はやや太った体型で、クレッチマーが言うところの、肥満型≒うつ型気質という類型に当てはまるかも(ドラマでその役を演じた原田泰造はやせ型。うつ型と言うより神経症型か。まあ、痩せている人はうつ病にならないというわけではないけれど、演技がうつのそれではなく、神経症のそれになってしまっているような印象を受けた)。

ツレがうつになりまして 映画.jpgツレがうつになりまして 映画2.jpg2011年映画化「ツレがうつになりまして。」(主演:堺雅人・宮崎あおい)

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現代型うつ病(ディスチミア親和型うつ病など)への企業内での現実的対応法を示した良書。

それってホントに「うつ」? .jpgそれってホントに「うつ」?.jpg
それってホントに「うつ」?──間違いだらけの企業の「職場うつ」対策 (講談社+α新書)』['09年]

 精神科医であると同時に産業医でもある著者によるもので、若者を中心に増えつつあり、企業の人事担当者を惑わせる「職場うつ」に対する対応の在り方について書かれたものですが、それ以前に、「うつ」とは何かが簡潔に解説されているため、「うつ」の入門書としても読めます。

それは、うつ病ではありません.jpg 同じ頃に刊行された林公一(きみかず)氏の『それは、うつ病ではありません!』('09年/宝島社新書)が、事例から入って、これは「うつ病」でありこれは「擬態うつ」だとして後付で解説しているのに比べると、最初に体系を示しているためより解り易かったです。
 そして何よりも、『それは、うつ病ではありません!』が「気分変調性障害」などを「擬態うつ」として排斥しているのに対し、本書は、「現代型うつ病」としているのが大きな違いで、DSM-Ⅳに対しては批判も多いものの、とりあえずは現行の診断基準になっているのだから、それに沿って解説するのが筋でしょう。そうした意味では本書の方がオーソドックス。

 その上で、巷に氾濫している「職場うつ」という概念を、①従来型うつ病(大うつ病障害)、②現代型うつ病(気分変調性障害)、③パーソナリティ障害、④内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)に区分し、それぞれの特徴を述べるとともに、治療方法や周囲の接し方、職場復帰プログラムの在り方などをタイプ別に解説しています(③、④など「うつ病」の診断基準を満たさないものを「排除」するのではなく、それらも含めて、産業医の立場から人事担当者と共に現実対応を考えていこうという姿勢がいい)。

 とりわけ、著者が「現代型うつ病」と呼ぶところの気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)に対する見分け方や対応方法が類書に比べて解り易く書かれていて、例えば、「現代型うつ病」であっても敢えて「従来型うつ病」と同じ職場復帰プログラムを用いればよいことをその理由と共に書いている部分には、ナルホドと共感しました。

 「職場うつ」への企業内での対応について、産業医としての現場での経験を踏まえた上で(もちろん著者は、主治医としても患者を診ている)、精神科医としての専門家の立場から、現実的な対応法、実践的な示唆やアドバイスが分かり易く書かれた良書だと思います。

 惜しむらくはタイトルで、林公一氏の『それは、うつ病ではありません!』と同じようなニュアンスになってしまっているため、これもまた「擬態うつ」を告発するような内容かと錯覚する読者もいるのではないでしょうか。
 更に、「職場うつ」という言葉が混乱を招いているとしながら、「企業の『職場うつ』対策」というサブタイトルを用いているのもどうかと(「職場うつ」には"非うつ"も含まれると断り、また、そのことを"悲劇"としてはいるが)。
 
 著者の最近のセミナーの1つに、「傲慢なのに打たれ弱い『現代型うつ病』への職場対応」という演題ものがありましたが、本書では、「現代型うつ病」に当たる気分変調性障害(ディスチミア親和型うつ病)だけでなく、非うつ病である「パーソナリティ障害」や「内因性精神障害」についても触れているので、このサブタイトルは止むを得ない(「職場うつ」という言葉を条件付きで使わざるを得ない)のかも知れませんが、メインタイトルの方はちょっと...。

 林公一氏の著書とのタイトルの類似を個人的に意識し過ぎたかも知れませんが、中身的には、こちらの方が圧倒的に良書です。

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1人の精神科医の1つの考え。入門書と言うより「意見書」として読んだ方がいい。

『それは、うつ病ではありません!』.JPG林 公一 『それは、うつ病ではありません!』.jpg  擬態うつ病.jpg擬態うつ病 (宝島社新書)』['01年]
それは、うつ病ではありません! (宝島社新書)』['09年]

「Dr 林のこころと脳の相談室」(http://kokoro.squares.net)というサイトを運営し、人事担当者の間でも評判の高い精神科医である著者の『擬態うつ病』('01年/宝島社新書)に続く第2弾で、それぞれのタイトルからも解るように、うつ病と外見は似ているが本質は異なる「擬態うつ病」(=うつ病もどき)というものをテーマにしています。

 実際、著者が言うところの「擬態うつ病」というのは社会に、また企業の内に蔓延していて、人事担当者を大いに惑わせるものであり、『擬態うつ病』はタイムリーな刊行であったと思いますが、但し、当時それを読んでやや個人的には引っ掛かるものがあり、精神医学やうつ病の本を何冊か読んだ後に今回の続編を読んで、ああ、これも1人の精神科医の1つの見方に過ぎないなあという思いを強くしました。

 20のケースを挙げ、「これはうつ病でしょうか?」というQ&A形式で解説を進めていますが、最初の方は結構わかりやすい事例のように思え、但し、では「うつ病」でなければ何なのかということで、例えば境界性人格障害や統合失調症であるといった具合に言い切っていますが、果たしてこれだけでそうと言えるのか。著者が描いている事例のイメージの中ではそうかも知れませんが、一般の読者がこれだけを読んで、こうしたケースは境界性人格障害や統合失調症であると(それら自体の解説はあまりされていないのに)決め込んでしまう恐れがあるように思いました。

 また、「うつ病」の定義に著者独自の考えがかなり入っているように思え、実際、著者自身、後半の方では、医学界が「カオスの時代」にあり、「現代の診断基準では、うつ病ということになります」、「こうしたケースはうつ病と呼ぶべきではない、と私は思います」といった物言いになっていたりします。

 決定的なのは、"「ディスチミア親和型うつ病」などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、社会に「擬態うつ病」が蔓延しているのは困ったものだという一般感情にかこつけて、現代のメジャーな診断基準および「うつ病(うつ病性障害)」の概念範囲を否定していることで、うつ病の入門書として本書を読んでしまった読者がいたら、その前後に読む真っ当な本に書かれている内容との齟齬のために相当混乱させられるのではないでしょうか。

 入門書と言うより、1つの「意見書」として読んだ方がいいと思います。

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職能主義との対比での役割主義に基づく解説。実務者の要求に応えて余りある内容。

目標管理と人事考課15.JPG目標管理と人事考課.jpg        役割業績主義人事システム.jpg
目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』['07年] 『役割業績主義人事システム

 タイトル通り、目標管理と人事考課がテーマの実務書ですが、全3章構成の第1章で人事制度の基本から運用形態までを解説していて、職能制度の限界を説くとともに「役割業績制度」というものを提唱しており、この部分は著者の前著『役割業績主義人事システム』('05年/生産性出版)の"復習"であるとも言えますが、前著を読んでいない読者にも分かり易い(同時に詳しい)ものとなっています。

 「役割主義」「役割等級制度」と一般にと呼ばれる人事・等級制度に基づく目標管理の在り方や人事考課の実際について書かれた本としては最も明解かつ精緻に書かれたものであるばかりでなく、他の社員格付け制度をベースに書かれたものを含めても最上位の内容レベルであるように思われました。

 とりわけ第2章の「目標管理」に関しては、その本質、目標設定のポイント、目標達成度の把握と評価のポイント、目標管理の推進の実際、運用の実際といった順で丁寧に解説されていて、例えば、「職種による目標設定のポイント」として、営業職、生産職、調達職から研究開発職、企画管理職、一般事務スタッフまで6つの職種に分けて、それぞれにおいて効果的だと考えられる目標管理のポイントを多く掲げ、人事部を常に悩ます間接部門の目標管理と人事考課の問題に対する解決への選択肢乃至はヒントを示しています。

 第3章の「人事考課」についても、まずその本質論を分かり易く丁寧に解説し、その上で実際論に入っていて、フィードバックのポイント解説も丁寧です。
 考課表のサンプルをずらずら並べるような類書とは異なり、どこを見るのか、何を見るのか、何で見るのか、どう見るのかということが、ひとつひとつ言葉と概念図でもってきっちり解説されています。

 全体を通して、例えば職能主義と役割主義の考課体系の違いを図に示すなど、役割主義に対する理解を促すために職能主義を引き合いにし、まず職能主義だとどうなるか、それが役割主義だとこうなるかといったパターンでの解説の仕方が多くされているため、「役割(業績)主義」というものの本質を目標管理や人事考課の在り方から再確認できる本でもあり、その意味では実務者の要求に応えて余りある内容と言えるかも。

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ほぼオーソドックスだが、大企業、メーカーにやや偏っている。誰と比べて「プロ」なのか?。

人事のプロ.gif 『人事のプロ (THEORY BOOKS)』 ['09年]  人事はどこまで知っているのか.jpg 岩瀬達哉 『人事はどこまで知っているのか (セオリーブックス)』 ['08年]

 著者は企業の人事部を経て今は人事コンサルタントをしている人、企業における人事評価や出向・転籍、採用や昇格、賃金制度、労務問題への対応などについて、人事部の中でどのようなことが行われているか、また、それらの今あるべき姿というものがどのようなものであるかを書いていて、人事の内実を明かしたという点では、同じ講談社セオリーブックスの『人事はどこまで知っているのか』(岩瀬達哉著/'08年)と似てなくも無いですが、あちらはジャーナリストが書いたもので、一方のこちらは「人事のプロ」が書いたもの (とのことで、ある程度期待して読み始めたのだが...)。

 事例を入れて読み物風にわかり易く書いていますが、書かれていることの趣旨自体はオーソドックスである分、尤もであっても特に目新しさは無く、気になったのは、それぞれのテーマや話の背景として想定されているのが、大企業、生産部門を持つメーカー企業に限られていると思われる部分がある点と、人材教育・育成的な話にウェイトが置かれていて、制度的な話になるとそれほど専門的なことが書かれているわけではなく、運用論などで啓蒙的方面に逃げてしまっていること。
 また、全体として、社内コミュニケーションの大切さなどは説くが、企業も従業員も成長していくにはどうしたら良いかという大きな視点がやや希薄な印象を受けました。

 「人事のプロ」というのは、一般の人事部員に対して「プロ」なのか、一般の社員に対して「プロ」なのか、「セオリーブックス」(ビジネスパーソン全般がターゲット?)の1冊ということで、後者ともとれるわけで...。

 実際、著者の経歴を見ると、大手自動車部品メーカー(トヨタ系)の人材開発部出身で、そこに10年いたとのことですが、企業規模が大きいだけに、10年では経験できる業務領域は限定されるのではないかと思われ(本書に書かれているような人事が外からどう見られているかということは、人事部長まで経験しなくとも、人事に数年いれば分かる)、独立後も"メーカーを中心に"人事制度構築と浸透に関するコンサルティングを行っているとのこと、中小企業にいる人や非製造業にいる人が読んでも、ややぴんとこない部分があるのはいたし方ないかも。

 一般の人が「読み物」としてざっと読むにはまあまあですが、人事部に何年かいる人が読んでも、それほど多くのものが得られるようには思えませんでした。

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「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

人材登用のトレンドを探るが、人事専門誌に書かれていることの域を出ない。

人事と出世の方程式.jpg人事と出世の方程式.jpg 『人事と出世の方程式 (日経プレミアシリーズ)』 ['08年]

 ジャーナリストである著者が日本のトップ企業の人事の基本方針、主に幹部社員の登用のあり方について取材していて、新書のわりには取材量は豊富ですが、タイトルにあるような「出世の方程式」がそれらから導き出されるというものではなく、結局、人材登用を決める側は決める側で自社適合の仕組みを考えなければならないし、社員は社員で企業に寄りかかるのではなく自立した職業人として、或いはリーダーとして成長していかなければならないということでしょうか。

 社長に上り詰めた人、一旦置かれた苦境から立ち直ってヒット商品を生み出した人など華々しい例も出てきますが、そうしたこと以外に、最近の企業の人事・人材育成の動向などが、具体的な選抜方法や評価、研修制度、賃金制度なども含めて広く紹介されていて、その部分については参考になったと言えば参考になったし、オーソドックスと言えばオーソドックス。

 参考になった点は、成果主義の弊害ということが昨今言われるものの(経営トップの外向けの発言はともかくとして)企業の人事部は成果主義というものをさほどに否定していないように思えたこと、但し、仕事の結果だけでなく資質的なものを見る傾向にあること、また、大企業では幹部候補社員の選抜時期を早める傾向が近年見られるということなどでしょうか。

 更に、管理職への道がこれまで閉ざされていた女性や外国人などに対する処遇をダイバーシティマネジメントの観点から見直す傾向にもあるということですが、人事専門誌などにある近年の動向情報や今後の人事マネジメントの展開予測の域を出るものでは無く、まあ、再確認できたというぐらいでしょうか(この新書の"プレミア"の意味は実は"プライマリー"ではないかと、時々思う)。

 気になったのは、各社の人材登用の事例がいまだに人材の「選抜」という観点で紹介されていることで、人材にゆとりのある大企業ならともかく、中小企業では人材の「確保」そのものが大きな課題になっていて、少子高齢化社会の到来を考えれば、今後は限られた人材をどう生かすかということの方が、企業規模を問わず課題になってくるのではないかと思われたこと(大企業の方がすべてにおいて進んでいるとは限らない)。

 女性の活用だけでなく、コースに乗れなかったため目標を喪失している人、会社や仕事に対してコミットメントしきれていない人を、どう活性化し再生していくかということも、広い意味でのダイバーシティマネジメントだと思うのですが。

2008年06月19日 日経朝刊.jpg 2008年6月19日 日経朝刊

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「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

「プレミア(最高級)」と言うより「プライマリー(初心者向け、基礎編)」という感じかも。

ダメ上司論.jpg 『ダメ上司論 (日経プレミアシリーズ 49)』 ['09年] バカ社長論.jpg 『バカ社長論 (日経プレミアシリーズ 5)』 ['08年] 

 大手監査法人を経て独立し、現在は自ら会計事務所を経営する公認会計士が書いた本で、日経プレミアシリーズの同著者の『バカ社長論』('08年)に続くもの。

組織を壊す」(第1章)とか「会社も恐い、すぐキレる上司」(第3章)とかいったことを、リアルな具体例を挙げて説いていて、若い読者が読むと、大いに「ある、ある」感を満たすのではないのでしょうか。

 そうした事例を通して、上司と部下のコミュニケーションが組織の効率を決めることを全体としては説いており、また、「すべては内省から始まる」(第5章)とあるように、最後には部下の側に対しても謙虚さを求めています。

 この著者の本、「バカ社長」とか「ダメ上司」とかきつい言葉を使っている割には、二宮尊徳を"偉大な先哲"としているように、書いてあることは読者の想定内のことと言うか、比較的クラシカルな感じがしました。

 書かれていることそのものに異を唱えるようなものではないですが、本のべースになっているのが「メルマガ」であるためか、日々の部下に向かう姿勢、上司に対する対応の心構えを説いているような感じで、どちらかと言うと後者(部下向け)だろうなあと。

 「日経文庫」とは別に「日経プレミアシリーズ」というのが創刊されたのが'08年5月で、実務書としての「日経文庫」に対し、同じビジネス関係でも読み物的なものを考えて、「ビジネスにも役に立つような内容だったり、オフの過ごし方だったり、ビジネスパーソンが興味のありそうなテーマを選んでいる」(野澤靖宏編集長)とのこと(元々は「新書にこだわった創刊ではなかった」とも)。

 「プレミア」というのは、「最高級の好奇心」というこの新書のコンセプトに呼応したネーミングのようですが、本書に関して言えば、「プレミア」と言うより「プライマリー」(初心者向け、基礎編)という感じかも。

2009年05月14日 日経朝刊.jpg 2009年5月14日 日経朝刊

「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2753】 マーシャル・ゴールドスミス 『コーチングの神様が教える後継者の育て方

「技術」以前にコーチングの本質とは何かということが読み易く書かれている。

『人の力を引き出すコーチング術』s.jpg人の力を引き出すコーチング術2.jpg    原口 佳典.jpg 原口 佳典 氏(コーチングバンク代表/略歴下記)
人の力を引き出すコーチング術 (平凡社新書)』['08年]

 全5章の構成で、まず第1章で、コーチングとは「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」ものであるということを、アメリカにおけるコーチングの誕生と発展の歴史的経緯から辿り、それが日本にどのような形で入ってきて現状はどうであるかを解説、第2章では、ビジネス現場へコーチングを導入する際の留意点は何かを成功例・失敗例を挙げて解説するとともに、以上を通して、コーチングとはコミュニケーションを改善させる媒体(手段)であってコンテンツ(目的)ではないこと、人を操る手段ではなくてモチベーションをアップさせるものであることを述べています。

 第3章では、「聴く」「語る」「質問する」というコーチングの3つの基本スキルについて解説し、第4章では、コーチングによって「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」には、この3つに加えて「想像する/想像させる」「提案する/提案させる」「決定する/決定させる」ということが大切であり、それはどのようなことを指すのかを会話例などで解り易く解説、第5章では「コーチングが効果的な10の分野」を挙げ、コーチングがビジネスのためだけのものではないことを示しています。

インナーテニス.jpg 著者も述べているように、本書はコーチングの個々のスキルについて書いたノウハウ本ではなく、「技術」以前のコーチングの本質とは何かということを中心に体系的に書かれていて、それでいて読み易く、また一読した後にどこからでも再読できるという"優れもの"、とりわけ冒頭の、コーチングの起源とされるテニスプレイヤーのW・ティモシー・ガルウェイ(W.Timothy Gallway)の書いた『インナーテニス』('72年)に関する記述は詳しく、この本の中でガルウェイが述べている「自然習得力を向上させ」「自己成長を促す」というコーチングの概念は、本書全体を通して繰り返されています。

Tiger Woods.bmp 事例やエピソードも豊富で、最終状態を「想像する/想像させる」ことが目標達成を早めることになることをゴルフを例とし、殆どのゴルファーが良いバックスウィング、良いダウンスウィングをすれば良いショットができると考えるのに対し、タイガー・ウッズは、どういうインパクトをすれば良いかから考え始めるといい、彼の父親のアール・ウッズは、息子にゴルフを教えるに際して、ドライバーから練習を始めるのが通常であるのに対し、「ゴール」であるパットから練習させたとのこと。ゴルフの目的はカップにボールを沈めることであり、上手にスウィングすることではないからであると。

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原口 佳典 (はらぐち・よしのり)
1971年福岡県生まれ。愛知県立旭丘高等学校卒。早稲田大学第一文学部社会学専修(宗教社会学・物語社会学) 卒業後、株式会社三省堂書店に入社。医学書販売を担当。その後、店舗設計に携わり新店を開発した後、1999年2月、インターネットの世界に魅力を感じ転身。ビズナレッジ(株)・(株)コーチングバンク代表。(財)生涯学習開発財団認定コーチ、経営品質協議会認定セルフアセッサー。

《読書MEMO》
●「相手の価値観を尊重すれば、よりよいコミュニケーションをとることができる」(W・ティモシー・ガルウェイ)(33p)
●コーチングが目指すのは、純粋に「自然習得力」を持った、自立した人間である。コーチはあくまで援助者であって、先生やトレーナーではない(51p)
●コーチングはあくまでコミュニケーションの改善を行うだけのもの(95p)
●コーチングをビジネスに活かす方法(103p)
1.M&Aや経営改革を強烈なリーダーシップで引っ張りたいとき(コーチング型のマネジメントは変革で生じるストレスを緩和させる方法として有効)
2.コーチングの導入目的を単にコミュニケーションスキルの向上と捉える(チームや部署内の空気を良くするために、或いは、コミュニケーションスキルを向上させるためにためにコーチングを研修の一環として取り入れる)
●クライアントは語ることによって、自分の行動や感情、体験や気持ちをはっきりと認識する。その語りを未来につなげ、次のステップを明らかにする。(131p)
●最終状態をイメージすることで、自ずとその方向に向かおうとする。この「想像させる」ことが、目標達成を早めることになる(146p)

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日米の「働きがいのある会社」の比較は大いに参考に。調査の今後に期待できる。
 
働きがいのある会社65.JPG働きがいのある会社1.jpg 日本におけるベスト25.jpg 『働きがいのある会社―日本におけるベスト25』 (2008/06 労務行政)

 米フォーチュン誌がヘイグループと共同で毎年発表している「世界で最も賞賛される企業(The World's Most Admired Companies)」ランキングというのがありますが、これとは別に同誌は、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)がサーベイしている「最も働きがいのある会社ベスト100(100 Best Companies to Work For)」というのを'98年からから発表しています。

 本書は冒頭で、この「働きがいのある会社ベスト100」がどのような経緯で始まり、何を基準としてそのように選ばれるか、過去にどのような企業が選ばれ、それらにはどのような特徴があるかが詳しく書かれていますが、やはり上位に来る企業はどれも、経営理念、人材育成理念がしっかりしている一方、ワーク・ライフ・バランス施策が充実しているのがわかります(アメリカのベスト100に選ばれた会社の29%は、社内託児所があるという)。

 '08年のランキングを見てみると、Googleが2年連続で1位で、以下、Quicken Loans、Wegmans Food Markets、Edward Jones、Genentech、Cisco Systems、Starbucks、Qualcommと続きますが(因みに、本書刊行後に発表されている'09年のサーベイではGoogleは4位。'09年の1位は'08年14位だったNetwork Appliance)、「世界で最も賞賛される企業」(こちらは'08年、'09年と連続してAppleが1位)と顔ぶれがかなり異なるように思え、また、1年間でかなり順位が変動するのも興味深いです(過去11年間全てランクインし、平均順位が最も高いのはSAS Instituteだが、'07年は48位、'08年は25位)。

 これと同趣の調査をGPTWが'07年から日本でも始め、本書はその'08年版の調査結果の取り纏めでもあるわけですが、「働きがいのある会社」の日本版の'08年のトップはマイクロソフトで、以下、ソニーマーケティング、モルガン・スタンレー証券、リクルートエージェント、アサヒビール、堀場製作所、日本郵船、キッコーマン、日本ヒューレット・パッカード・・・と続き、ただ野次馬的に見ていっても興味深いです。

 但し、本来注目すべきはこの調査の特徴で、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」というGPTWの評価分類別要素を日本企業にも適用し、人材理念の質的な検証すると共に、「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行っていて、これらはそれぞれの企業で従業員がどのような気持ちで働いているかを知るうえで大いに参考になります。

 その上で更に、労働時間(年間所定労働時間、年間総労働時間、フレックスタイム制度、在宅勤務制度)や年次有給休暇(日数・平均取得率)、育児・介護等の休暇の有無(法定期間を超える育児・介護・子の看護休暇、育児・介護のための短時間勤務制度・始業就業時間の繰上げ繰り下げ・時間外休日労働の免除など)といった客観数値、制度の有無も評価対象としていて(育児・介護については国の次世代育成支援推進策のガイドラインに沿っている感じ)、社風や経営理念など定性的なものから諸指標、具体的な制度の有無など定量的なものまでトータルで評価しランキングされていることが分ります。

 フォーチュン誌の「最も働きがいのある会社ベスト100」と比べると、「日本企業のベスト25」においてさえもまだまだ改善の余地があることを本書は物語っていますが、日本の企業が今後こうしたワーク・ライフ・バランス施策面における充実度を競い合っていくことは、その動機が企業PRのためであったとしても、日本人全体の働き方を変えていく契機になるのではないかと、個人的には、この調査の(まだ3年目だが)今後に期待を寄せる次第です。

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グローバル優良企業の何れもがバリューとコンピテンシーを大変重視していることが窺える。

世界で最も賞賛される人事  .jpg世界で最も賞賛される人事.jpg 『世界で最も賞賛される人事』 (2007/10 日本実業出版社)

 ヘイグループとフォーチュン誌が共同で毎年調査・公表する世界で最も賞賛される企業」(The World's Most Admired Companies)ランキングで常連で上位に位置するグローバル優良企業のヴァイスプレジデントやアジアの人事・組織戦略の責任者に、自社の人づくり・組織づくりの考え方や戦略を取材したものです。

 メインで取り上げられているのは、GE、ジョンソン&ジョンソン、アメリカン・エキスプレス、P&G、フェデックス、ネスレの6社で(その他、IBM、マイクロソフト、BMW、ノキアにも言及)、とりわけ担当者自身がレポートしている前半の3社は1社当り約50ページを割いてその企業の人材戦略が詳説されています(後半の3社はインタビュー形式)。

 読んで分かるのは、それぞれの企業が何れもバリューやコンピテンシーを大変重視していることで、とりわけ興味深かったのはGEでした。
 CEOがジャック・ウェルチからジェフ・イメルトになって更に様々な概念や手法が精緻化しており、例えば「評価」の仕組みについても、まずコミットメント以上の結果を出した人(エクセプショナル=優秀)、コミットメントどおりだった人(サティスファクトリー=満足)、コミットメントを達成できなかった人(ニーズ・インプルーブメント=要改善)の3グループに分け、次に各グループの中でGEバリューを非常に高く持っている人、普通の人と、改善が必要な人の3種類に分け、その結果、9つのブロックに分かれる「9(ナイン)ブロック」になっているほか、そうして選別されたトップ20%の中で更に競争をさせていくとうのがGEの人材育成の手法であるというイメージがあったものの、実は、ボトム10%の「レス・エグゼクティブ」とされた社員にも改善プログラムが用意されていること、ミドル70%の「ハイリー・バリュード」も大切にしなければならないというのが最近の考え方であること(この考え方はトヨタ、キャノンなどの日本企業から学んだとのこと)など、ウェルチの『わが経営』には見られなかった記述もありました。

 ジョンソン&ジョンソンの「クレドー」(「我が信条」)は有名ですが、アメックスなども評価の半分はコンピテンシーで決まるというから、人材評価においてバリューやコンピテンシーを重視しているのはGEだけではないということが窺え(アメックスの事例からは、コンピテンシーが一度定めたら不変というものではなく、時代の変化とともにブラッシュアップしていくものであるということも汲み取れる)、また、いくつかの企業がダイバーシティを重視しているのも興味深いです(P&Gは「5つの主要な行動目標」の第一が「多様性を確保する」)。

 何れにせよ、人材戦略の無い企業に発展は無いということ、グローバル優良企業におけるそれは極めて具体的なものであること、それらの企業はリーダー育成のための様々な仕組みを持っていることなどを実感させられる内容でした(当事者が書いている分、総花的で"手前味噌"感も無きにしも非ずだが)。

《読書MEMO》
●GE
・4つのアクション(イマジン(imagine創造する)・ソルブ(solve解決する)・ビルド(build築く)・リード(leadリードする))を支える8つのバリュー(情熱・工夫に富む・チームワーク・開かれた・好奇心・責任を持つ・コミットメント・鼓舞する)
・2年間で4つのビジネス課題を解決する「リーダーシップ・プログラム」―あえて異なるビジネス領域を転々とさせて「苦しい状況の中で短期間に打開する能力」を養わせる
・リーダーに求められる3つの要素(GEバリュー、専門知識・能力、経営への精通)
・大多数の70%にも目を向け、潜在能力を引き出す
・多様性(ダイバーシティ)のないところにイマジネーションはない
●ジョンソン&ジョンソン
・すべては「クレドー」(「我が信条」)のもとに―4つのパラグラフ、21のセンテンスから成るクレドー
・「我が信条」では、第1は医者や患者に対する責任、2番目に社員に対する責任、3番目に社会に対する責任、最後に株主に対する責任をあげている
・「任せる」ことで顧客への責任を実現できる―信頼されて任されるほど、人のやる気を喚起するものはない
・人事は全社的タレントへの責任を持つ
・ダイバーシティの進展は業績につながる
●アメリカン・エキスプレス
・コンピテンシーの変更に先立ちコーポレート・バリューを見直す―36項目あったコンピテンシーを(8つのバリューと)8つのコンピテンシーに
・評価の半分はコンピテンシーで決まる
●P&G
・PVP(Purpose, Values, Principles)
・5つの主要な行動目標(1.多様性を確保する、2.企業理念に基づく行動を徹底させる、3.社員の意欲と向上心を引き出す、4.人材は内部で育てる、
5.変化への適応力と生産性の高い組織をつくる)

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図説が解り易い。初学者が手に取り易く、実務経験者も満足させるバランスの取れた内容。

「労働時間管理」の基本と実務対応.jpg
「労働時間管理」の基本と実務対応3.jpg

「労働時間管理」の基本と実務対応』(2009/03 労務行政)

 労働基準法で定める労働時間の諸制度を中心に弁護士(中町誠法律事務所に所属)が解説をしたもので、タイトル通り「労働時間管理」に的を絞っての1冊であるため、変形労働時間制やみなし労働時間制、時間外労働・休日労働、割増賃金などについて、基本から実務対応までQ&Aや協定・規程例を交えながら丁寧に解説されています(年次有給休暇、母性保護・育児介護休業・罰則等の解説を含む)。

「労働時間管理」の基本と実務対応 図.jpg 各論に入る前に労働時間制度の全体像について1章を割いて解説されているのが良く、何よりも、全編2色刷りで図説が多用されていて、それらが大変見易いものであるのが長所、初学者にとっても手に取り易いテキストとなっていますが、実務経験者がおさらい用に読むのにも適した本だと思います。

 一応は、平成21年4月1日施行の法改正(時間外労働の割増賃金率の引き上げ、時間単位の年休制度)についても解説されていますが、こちらは平成21年5月29日付の厚労省通達(基発第0529001号)が出される前の刊行であったため、さらっと触れている程度。ただ、全体に、あくまでも「解り易さ」と「実務対応」を主眼とし、あまり個々の解説がマニアックにならないようバランスを配慮している感じです。

 但し、例えばQ&Aにおいて、「事業場外において、一部内勤がある場合の労働時間はどのように取り扱えばよいでしょうか」という問いに対する回答として、「事業場内の労働時間も含めてみなし労働時間である」としている行政通達(昭63.1.1基発第1号)に対し、「労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、みなし労働時間制によって算定される事業場内で業務に従事した時間と、別途把握した事業場内における時間とを加えた時間となる」としている別の行政通達(昭63.3.14基発150号)を挙げ、「この二つの通達の関係は、前者から後者に変わったものととらえ、後者に従うべきです」と述べるなど、必要に応じては行政通達の捉え方にまで解説が及んでいますし、勿論、それらは実務に大いに関係してくることでもあります。

【2009年改訂版】

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まさに「早わかり」。直近通達(基発第0529001号)を反映。本の出来より、改正法そのものに疑問を感じる。

Q&A 改正労基法早わかり88.JPGQ&A 改正労基法早わかり.jpgQ&A改正労基法早わかり』(2009/07 日本経団連出版)

残業60時間超.jpg 日本経団連は日経連の時代から労基法に大きな改正があるごとに、「改正労基法早わかり」というのを刊行していて、前回の'03年の時の主な改正内容は、「有期労働契約の上限見直し」、「解雇法制」、「裁量労働制の見直し」などでしたが(所謂「平成15年改正」)、今回の平成21年4月施行の改正法の核は、「時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金を50%にすること」(併せて、代替休暇制度の創設」、「時間限度を超えた時間外労働の割増賃金率に関する努力義務」)と、「時間単位の年次有給休暇の創設」です。

 本書はQ&A方式になっていて全30問、解り易くコンパクトに纏まっていて、まさに「早わかり」と言え、それなり解説も突っ込んで書かれている上に、後半は資料編になっていて、関連する施行規則や指針などが掲載されており、最後に平成21年5月29日付の厚労省通達(基発第0529001号)が掲載されていて、Q&Aの内容もそれに沿ったものになっているため、21年7月刊行というのはタイムリーと言えばタイムリー、1000円という価格も手頃(難点を言えば、解説図とそれに付された文字がちょっと小さくて見づらいことか)。

 本の出来よりも改正法そのものに対して思うのですが、本書でもQ&A30問のうち後半の約半分が「時間単位の年次有給休暇の創設」についてのものとなっていて、ホントにこんな面倒なことを労使協定結んでわざわざやるのかなあという感じも(小数点単位で繰越し休暇を管理するなんて)。

 もっと言えば、60時間超の時間外労働について割増賃金を50%にすることの代わりとなる「代替休暇制度」で、当初は労使協定で多くの企業がこちらを選ぶのではないかと思いましたが、21年5月29日通達にあるように、労使協定を結んでも本人に代替休暇を取るか取らないかを確認し、2ヵ月後までに実際に取得したかどうかを確認して、取得出来ていなければ翌月の賃金に反映させなければならないという(この2ヵ月間が「全額払いの原則」の適用除外になるというのも解せないが)その管理の面倒くささ(労務コスト)。
 時間単位の年休はシステムの問題で解決される部分も多いかと思われますが、こちらは個々人の意思確認ですから、ヒューマンアクセスが頻繁に求められることになります(中小企業で、担当が1人で総務・経理・人事やっているような会社はどうするのだろうか)。

 中小企業は適用が一定期間猶予されているとしても、その間、大企業に勤める労働者と中小企業に勤める労働者の割増賃金率が異なるのはおかしいし、そもそも、賃金を払えば長時間残業させてもいいというやり方が、本当に労働者(特にホワイトカラー)の生産性向上やワーク・ライフ・バランスに寄与するのでしょうか。

 アメリカでは既に週40時間以上の労働について5割以上の割増賃金を課していますが、その代わり、ホワイトカラー・エグゼンプション等でこの割増賃金の対象外となる労働者が40%もいるのに対し、日本はホワイトカラー・エグゼンプションはやらないで5割増しだけ導入ということで、果たしてどちらが労働者のためになるのか簡単には言い切れないものの、個人的には疑問の多い法改正だと思われます。

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この本そのものも、「心理屋さん」が書いた成功本。

成功本はムチャを言う.png成功本はムチャを言う 青春新書INTELLIGENCE.jpg            本は10冊同時に読め.png
成功本はムチャを言う!? (青春新書INTELLIGENCE)』['08年]  成毛 眞 本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術 (知的生きかた文庫)』['08年]

 タイトルから「成功本」を斬って捨てる本かと思いきや、「成功本の著者が説く成功ノウハウや成功法則と、それをなかなか自分に生かし切れない読者のギャップを埋めることを目的に」書かれた本であるとのことで、著者は、小学校教師から出版社の編集者、取締役を経て、今は、コーチングやカウンセリングを行う心理カウンセラー(乃至コンサルタント)―と言うか、そうしたことを商売とする事業者と言った方がいいかも。

 本書では、成功本そのものを否定しているのではなく、成功本が説く法則(ノウハウ)を、「目標を明確にする」「期日を決める、スケジュールを立てる」「好きな仕事をする」「ポジティブ思考をする」「人に感謝する、人に与える」「自分に投資する」「いい人と付き合う、人脈を広げる」「潜在意識を活用する」の8つ類型に分け、これらの法則を読んでも実行できない読者の心理的障壁について、つまり読者が読んでどこに無理が生じる原因があるかを分析しています。

 更に、人の行動価値基準を「目標達成的傾向(「勇」:行動を重視する人)」「親和的傾向(「親」:調和することを重視する人)」「献身的傾向(「愛」:愛し愛されることを重視する人)」「評価的傾向(「智」:考えることを重視する人)」の4つの性格傾向に分け、これらに沿って成功本を"自分流"に読み替えるコツを伝授していますが、いかにも「心理屋さん」が書いた本といった印象も受けなくもなく、気づいてみれば、この本そのものも「成功本」の1種だったのかと...(この著者には『異性を思いどおりに動かす!』('93年/橘出版)なんて著書もある)。

 「成功本」というのがどこまでを指すのかよくわかりませんが、個人的にはあまりそうした本は読まない方だと思います。
 元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が『本は10冊同時に読め!』('08年/知的生きかた文庫)の中で、「家にある成功者うんぬんといった本を捨てるべきである」とし(こっちの方がスッキリしている)、「ビジネスハウツー書ばかり読む人も、私から見れば信じられない人種である。まず、『金持ち父さん、貧乏父さん』系の本を読んでいる人、こうすれば儲かるという投資本や、年収1500万円を稼げるといった本を読んでいる人は、間違いなく『庶民』のまま終わるだろう。できる社員系の本を読んでいる人も同じである。なぜならば、他人のノウハウをマネしているかぎり、その他大勢から抜け出すことはできないからだ」と書いていますが、庶民のままで終わって何が良くないのかとは思うものの、「成功本」に対するスタンスは自分も成毛氏に近いかも知れません。この本は"ムチャ本"ではありません(但し、古典や文学作品は読む価値が無いというのはやや乱暴)。

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