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ある意味、丸々1冊、コピー的な手法で書かれた「発想法」の本。
『コピーライターの発想 (講談社現代新書 (724))』['74年]/『土屋耕一全仕事』['84年/マドラ出版]/「A面で恋をして」資生堂CM['81年](アーティスト:ナイアガラ・トライアングル(大滝詠一、佐野元春、杉真理))
'09年3月に亡くなったコピーライター・土屋耕一(1930-2009/享年78)の本で、'74年刊行ですから、40歳代半ば頃の著作ということになります。
伊勢丹とか資生堂の広告コピーは、一時この人の独壇場だったなあ。竹内まりやのデビューシングルにもなった伊勢丹の「戻っておいで・私の時間」、アリスの堀内孝雄によりヒットした資生堂の「君のひとみは10000ボルト」など、CMソングがヒットチャートの上位を占める現象のハシリもこの人の作品でした。
「戻っておいで・私の時間」(竹内まりや/伊勢丹'78年CMテーマソング)
大瀧永一(1948-2013/享年65))の「A面で恋をして」も、この人のコピー(コマーシャル・テーマを歌っている「ナイアガラ・トライアングル」(大滝詠一、佐野元春、杉真理)はまだ全然売れておらず、大瀧永一は逆にCMソングが自分たちの代表曲になってしまうことを危惧して作曲を断ろうとしたが、コピーが"A面で恋をして"で言われたとき曲が「パッとできちゃった」そうな。結局、代表曲になったわけだが)。著者は「軽い機敏な仔猫何匹いるか」などの回文作家としても知られていました(そう言えば、「でっかいどお。北海道。」のコピーライター・眞木準も亡くなった(1948-2009/享年60))。
コピーライターという職業が脚光を浴び始めつつも、1行文章を書いてたんまり報酬を貰うナンダカ羨ましい職業だなあという偏見や誤解が勝っていたような時代に、コピーライターというのが実際にはどういった仕事の仕方をしているのか、その発想はどのようにして生まれるかを(これが結構たいへんな作業)わかり易く、また楽しく書いたものだと言えますが、そうした意味では、コピーライターや広告業界志望者へのガイドブックにとどまらず、「発想術」「ひらめき術」の本とも言え、広くビジネスに応用が利くのでは。
"ひらめき"と"思いつき"はやはり違うわけで、本書によれば、「唐突に、頭の中の風にやってくるものは、浜べに打ち寄せられる、あの、とりとめのない浮遊物と同じであって、すべては単なる思いつきのたぐいにすぎないのだ」と。
「君のひとみは10000ボルト」(堀内孝雄/資生堂'78年秋のキャンペーンソング)
「ひらめきだって結局は頭の中に、ぱっとやってくることは、やってくるのだ。ただ、その現われたものが、ほかの浮遊物とちがうところは、それの到着をこちら側で待ちのぞんでいたものがやってくる、という、このところでありますね。ひらめきとは、じつに、『待っていた人』なのである」とのこと。何となく分る気がします。
口語調に近い文体で書かれているのも、この頃の新書としては珍しかったのではないでしょうか。でも、こうした柔らかい感じで文章を書くというのは、本当は結構難しいのだろうなあと、読み返した今は、そのように思われました。それと、やはり"比喩"表現の豊富さ! ある意味、丸々1冊、コピー的な手法で書かれた「発想法」の本とも言えるかも知れません。