【1205】 ○ 稲垣 重雄 『法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由』 (2008/04 講談社現代新書) ★★★☆

「●企業倫理・企業責任」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1661】 佐々木 政幸 『不祥事でバッシングされる会社にはワケがある
「●講談社現代新書」の インデックッスへ

会社組織の日本的特質に関する考察は鋭いが、タイトルがちょっと...。
法律より怖い「会社の掟」.jpg 法律より怖い「会社の掟」,200_.jpg
法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)』 ['08年]

 本書は全3章の構成で、第1章で、企業不祥事が無くならないのは何故かということについて、日本人の法意識や自我の問題、日本人によって構成される組織の原理と行動について分析し、日本人は伝統的な徳目など「見えない規範」によって行動するが、そこにはキリスト教の聖書やイスラム教のコーランのような絶対的契約文書が存在しないため、その時々で禁忌される行動が変わってしまうという深刻な問題を孕んでおり、共同体的な組織は共同体の存続、対面を保つための「会社の掟」が不文律として浸透しがちで、組織の構成員は無意識的にそれに従ってしまう傾向があるのが、不祥事が無くならない理由であるとしています。
 この部分は明快な文化論、日本人論にもなっているようにも思えました。

 第2章では、企業不祥事を、「不正利得獲得」傾向が強い不祥事と、「共同体維持」傾向が強い不祥事に大別し、多くの事例を挙げてそれらを細分化し(この部分が本書のユニークポイントであり白眉かも)、第3章では、近江商人の「三方よし」という理念とその根底にある経済活動の社会性や共生・協働、勤勉・努力を尊ぶ考え方に着目して、それが今で言うCSR(企業の社会的責任)に近似することを指摘し、そこから、企業不祥事が無くすにはどうすれば良いかを考察しています。
 個人的には、やはり、「共同体維持」傾向が強い不祥事に日本人組織の特質を感じました(「不正利得獲得」傾向が強い不祥事と言うのは、エンロン事件とか海外でも多くあったのでは)。

 全体に鋭い考察と含蓄に富む指摘の詰まった内容ですが、読みながらずっと心に引っ掛かったのは、「会社の掟」をネガティブな意味合いで捉えていることで、それはそれで論旨の流れの上ではいいのですが、そうであるならば「法律より怖い『会社の掟』」という表題は、ミスリードを生じさせやすいのではないかと(日本企業の"現状"であって、"あるべき状態"へ向けてのベクトルが無いタイトル)。

 テキサス・インスツルメント社の「エシックス(倫理)・カード」が紹介されていますが、IBMのBCG(ビジネス・コンダクト・ガイドライン)などは、これの比ではないスゴさでしょう(ウェブで公開されているので、多くの人に見て欲しい)。
 こうした独自に倫理基準を持っている外資系企業では、抜群に高い業績を上げ、いずれは役員になること間違いなしと言われていた人が、いつの間にか急にいなくなっていたりする―その殆どは、こうした「社内の倫理基準」に反する行為がどこかであったためであり、刑事訴追されるわけでもなければ懲戒発令されるわけでもない、でも、もうその人はその会社にはいない―これこそ、「法律より怖い『会社の掟』」であり、また、そうあるべきだろうと思った次第です。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1