【1195】 △ 佐藤 博樹/武石 恵美子 『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』 (2008/11 勁草書房) ★★★

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学術書、調査リポート的体裁。両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であると。

人を活かす企業が伸びる.jpg 人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg 『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』 (2008/11 勁草書房)

 「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けて企業が取り組む際には、従業員の多様なニーズを前提とした柔軟な施策展開が重要になりますが、多様な施策を展開することは、企業にとってコストとなり、コスト削減を要請する経営戦略と従業員の意欲を引き出す人事戦略がぶつかり合うことになり、企業は「ワーク・ライフ・バランス」の重要性を頭ではわかっていても、実際にやるとなると及び腰になってしまう―。

男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg 本書は「従業員のワーク・ライフ・バランスを支援することが企業にとってどのようなメリットがあるか」という課題設定のもとに、データ分析により実証的にそのことを明らかにしようとしたもので、ニッセイ基礎研究書が行った、両立支援を含むワーク・ライフ・バランスに関する企業調査を基に、主に大学教授らが分析を行っています(全体の編集は、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』('04年/中公新書)佐藤博樹・武石恵美子の両氏)。

wlb1.png その分析結果として、先ず、女性の活躍の場を拡大するためには、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であることが明らかにされ、両立支援策を充実させている企業は、女性の活用に熱心であり、また、従業員のキャリア支援にも力を入れているということになるようです。
 更に、こうした企業の施策は、人材確保においても効果を及ぼし、従業員の定着率も高く、但し、20代前半で採用した大卒正社員については、両立支援の利用程度はそれほどでもないとのことです。

 後半では、均等施策や両立支援が企業収益に結びついているかという分析を行っていますが、結論としては、均等も両立支援(ファミフレ)も共に活用度が高い企業は、好業績を上げているが、両立支援を単独で入れた企業は、企業業績はかえってマイナスになっていると...。

 全体として、学術書のような感じも。結論的には、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるということになるのでしょうが、だったら均等施策だけでも良いのではという気もしなくもありません。

 両立支援の企業に与える効果を検証しようとした意図そのものは評価すべきであるし、こうした検証は実際に必要だと思います。
 但し、両立支援策と均等施策のそれぞれの効果を因子分析するのは、均等施策を行っている企業は両立支援も行っているという相関が高いため、結構、難しい作業になっているような印象を受けました(そうした中では、第6章の脇坂明・学習院大学教授による「均等度とファミフレ度の関係からみた企業業績」は、よく分析・整理されている方ではあると思うが)。

 分析中心で、人事戦略の具体策にまで必ずしも落とし込めていないのは、本書が元々、調査リポート的性格のものであったということでしょうか。
 但し、両立支援策を効果的なものにするには、均等待遇との並立が肝要であるという、これはこれで、1つポイントを絞った指摘がなされている本ではあると思います。

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