【1194】 ◎ 大内 伸哉 『雇用社会の25の疑問―労働法再入門』 (2007/07 弘文堂) ★★★★★

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読み易いが奥が深い。「入門書」というレベルを超えていろいろ考えさせられる良書。

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 大内伸哉.jpg 大内 伸哉 氏
雇用社会の25の疑問―労働法再入門―』 〔'07年〕

 本書のはしがきには「労働と法、ときどきイタリア」とあって(著者のもともとの専門はイタリアの労働法)、「労働と法」について「イタリア風に味付け」した本という、ややくだけた口上がありますが、内容はなかなか濃かったです。

 「労働法再入門」とサブタイトルにあるように、「どうして、労働者は就業規則に従わなければならないのか」といった解りづらい論点について、明快な文体で基本理論を解説し、また、判例解説も懇切丁寧で、全体として"学者言葉"の使用を控え、小説を読むように読みやすいものとなっています。

 しかし、提示する25の疑問には労働法学者としての鋭い視点が窺え、例えば、一般に労働者によかれとしてなされている法改正が、果たして労働者のためになるものなのだろうかという見方を示したり、リーディングケースとされている判例にも、今の社会に置き換えた場合どうかといった疑念を挟むなど、常に、社会のあり方、変化を見据えつつ、原点に立ち返って考える姿勢が見られます。

 その結果、「疑問」に対してすっきりした解答を出し切れていないものもありますが、そうした様々な要素が複雑に絡み合っているのが「雇用社会」というものなのだと改めて感じさせられ、法律の真意を探ることなく金科玉条のごとく盲従することの危うさを指し示しているようにも思えました。

雇用社会.jpg 「答えを出し切れない」という意味においては、著者の師匠筋にあたる労働法の権威・菅野和夫氏の『新・雇用社会の法』('04年/有斐閣)が、Q&A形式をとりながらも、多分に、法のカバーし切れない部分や曖昧な点に対し問題提起をすることを主眼としていたのとよく似ているし、こうしたスタイルの本では『新・雇用社会の法』以来の"読みで"のある本でした。

菅野和夫 『新・雇用社会の法』 〔'04年〕

 さらっと読めるが奥が深く、「就業規則」の話から始まって、少子化や過労死の問題など昨今の労働経済や雇用環境を巡るトピックにも触れ、最後は「働くとはどういうことなのか」という根源的テーマにまで言及しています。
 一方で、判例・用語解説等もよく纏まっていてリファレンス的にも使えるので、手元に置いておき、折々に読み返したい本です(そうしている内に、書評で取り上げるのが少し遅くなってしまったが)。

経済学的思考のセンス.jpg 因みに、帯の「会社は美人だけを採用してはダメなのであろうか?」は、労働経済学者・大竹文雄氏が『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』('05年/中公新書)で示した切り口を本書において引用しているもので、他書からの引用を帯にもってくることもなかろうにとも思うのですが、アイキャッチ効果があるフレーズとみたのかな。

大竹文雄 『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)』 ['05年]


雇用社会の25の疑問第3版.jpg【2017年第3版

《読書MEMO》
●主要目次
第1部 日頃の疑問を解消しよう
第1章 労働者の疑問
 第1話 どうして、労働者は就業規則に従わなければならないのか
 第2話 退職金は、退職後の生活保障としてあてにできるものか
 第3話 労働者は、会社の転勤命令に、どこまで従わなければならないのか
 第4話 女性社員は、夜にキャバクラでアルバイトをしてよいか―会社は、社員の私生活にどこまで介入できるか
 第5話 会社が違法な取引に手を染めていることを知ったとき、社員はどうすべきか
 第6話 労働者には、どうしてストライキ権があるのか
 第7話 女子アナは、裏方業務への異動命令に従わなければならないのか
第2章 会社の疑問
 第8話 会社は、美人だけを採用してはダメなのであろうか―採用の自由は、どこまであるか
 第9話 会社は、試用期間において、本当に雇用を試すことができるか
 第10話 会社は、どんな社員なら辞めさせることができるか
 第11話 会社は、社外の労働組合とどこまで交渉しなければならないのか
 第12話 会社は、社員の電子メールをチェックしてよいのであろうか  
第2部 基本的なことについて深く考えてみよう
 第13話 労働法は、誰に適用されるのか―労働者とは誰か
 第14話 労働組合の組織率は、どうして下がったのか
 第15話 成果主義型賃金は、公正な賃金システムであろうか
 第16話 公務員には、ほんとうに身分保障があるのか
 第17話 正社員とパートとの賃金格差は、あってはならないものか
 第18話 定年制は、年齢による差別といえるであろうか
 第19話 少子化は国の政策によって解決すべきことなのか  
第3部 働くことについて真剣に考えてみよう
 第20話 誰が「強い」労働者か―君は会社に「辞めてやる」と言えるか
 第21話 労働者が自己決定をすることは許されないのか
 第22話 日本の労働者は、どうして過労死するほど働いてしまうのか
 第23話 雇用における男女差別は、本当に法律で禁止すべきことなのであろうか
 第24話 会社は誰のものなのか
 第25話 ニートは、何が問題なのか―人はどうして働かなければならないのか

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