【1193】 ○ 峰 隆之 『賃金・賞与・退職金Q&A― 労働法実務相談シリーズ1』 (2008/03 労務行政) ★★★★

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「賃金控除・賃金カット」や「休業手当・解雇予告手当」 を独立章とし、実務面への配慮が窺える。

『賃金・賞与・退職金Q&A7.JPG賃金・賞与・退職金Q&A.jpg
賃金・賞与・退職金Q&A (労働法実務相談シリーズ)』['08年]

 労務行政の「労働法相談シリーズ」(Q&Aシリーズ)で、シリーズナンバーが「1」ですが、刊行はやや遅かった...。これも弁護士によって著されたもので、全体としては労務行政らしいカッチリとした内容です。賃金・賞与・退職金を巡る相談事例81件を200ページ強に収めています。

 系列の財団法人「労務行政研究所」刊行の人事専門誌「労政時報」の末尾にある「相談室Q&A」が、ややマニアックなほど難解なテーマを扱っているのに比べると、こちらは基本をしっかり抑えている感じで、それでいて、「賃金控除・賃金カット」や「休業手当・解雇予告手当その他」に各1章を割き、実務面への配慮が窺えます。

賃金・賞与・退職金Q&A2.JPG だだ、弁護士が書いたものにはこの手のものが多いのですが、言い切り調になっているものがあって、例えば、「Q8」の「定期昇給が義務付けられる場合」などの項は、就業規則(本則)に「定期に昇給させる」とあって、「賃金規程」などの具体的な昇給額が確定する仕組みであれば、使用者は昇給させる義務があるという説明で終わってしまっていて、これなどは、実際には、労使交渉による合意とそれに基づく就業規則の改定(労働契約法12条に沿って)により、「据え置き」などの対応は考えられるように思います(そうでないと、「昇給」か「改定」かという何気ない就業規則の記述の違いのために会社が潰れてしまいかねない)。

 「Q8」もそうですが、先に述べたことの判例を挙げるか、補足説明をするかで、どちらかと言えば判例重視といった感じでしょうか。
 基本を抑えるという面ではこれでいいのですが、例えば「Q41」の「通勤手当と高速道路料金負担」などの項目のように、「マイカー通勤者に通勤手当として高速道路使用料金まで含めて払うかどうかは使用者の自由である」で説明が終わってしまっていて、あとは、一旦そうと決めれば、それをやめるのは不利益変更になるとして、「みちのく銀行事件」の判例解説が出てきます。
 ここは、普通だったら、例えば「通勤手当として支払った高速道路の使用料金は課税対象となるか」という所得税法9条(非課税所得)及び所得税法施行令第20条の2(非課税とされる通勤手当)の解説などを持ってくるべきではないかと...(不利益変更の話は他の多くの質問項目に当て嵌まる話で、それをどうしてこの質問に1ページしか割いていないここでわざわざ持ってくるのか?)。

 1つのQ&Aに割けるページ数が1、2ページだと、どうしてもこうなってしまうのは致し方ないところですが、何となく解説の方向性が、こちらが望んでいるものとは違うように思われるものも幾つかありました。
 
 細かいところでケチをつけましたが、やはり「労務行政」というブランドと3,100円という価格ですから...。
 全体としては、シリーズの中でも使い勝手のある方だと思われ、買って損は無かったと思いました。

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