2009年6月 Archives

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データの裏づけが十分にあり、一般にも読みやすいホワイトカラーの現状分析。

貧困化するホワイトカラー.jpg 『貧困化するホワイトカラー (ちくま新書)』 ['09年]   森岡孝二.jpg 森岡 孝二 氏

窒息するオフィス.jpg 労働経済学者による本で、第1章で、ホワイトカラーとは何かその原像をアメリカに探る一方、アメリカにおけるホワイトカラーの置かれている情況を、データを交え分析していますが、著者はジル・A・フレイザー『窒息するオフィス―仕事に強迫されるアメリカ人』('03年/岩波書店)の訳者でもあり、米国労働事情に対する造詣の深さを感じました。

 第2章、第3章では、日本のホワイトカラーの現状を、データを交えながら分析し、ホワイトカラーのこれまで以上に"搾られる"ようになっている現状と(ああ、アメリカと同じことになっているなあ)、過労死・過労自殺事件の判例から、その働かされ過ぎの実態を考察しています。

 第4章では、上場企業を中心に日本のサラリーマン社会における女性差別について考察、賃金差別撤廃などの裁判上のこれまでの女性たちの闘いを追い、第5章では、「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、経済界と政府がいう「自由で自立的な働き方」とした説明の"嘘"を指摘しています。

働きすぎの時代.jpg 前著『働きすぎの時代』('05年/岩波新書)もそうでしたが、この著者の書くものはデータの裏づけが十分にあり、参考文献や資料の読み込みもしっかりして、それでいて、学術書然とせず、一般にも読みやすいものになっている点に感心させられます(ルポルタージュ的視点が織り込まれていることもあるが)。

 個人的には、ホワイトカラーというものの増加傾向が既に止まっていること、管理職の過労死・過労自殺発生率が高いこと、ホワイトカラーの方がブルーカラーより労働時間が長くなっていること、労働時間の性別二極化が進んでいること等々多くのこと知り、収穫がありました。

 「ホワイトカラー・エグゼンプション」については、すでに残業がつかない労働者が2割いて、その中には「名ばかり管理職」として実態適用されている人が相当数おり、裁判になれば企業が負ける―その危険を回避するために、経済界と政府が持ち出したものであると。

 偽装請負などについても同様のことをいつも思うのですが、裁判になれば企業側が負けているのに、法律自体は見直さずにきた(急に規制のみを強めた)立法府(及び行政)にも問題があるのではないかと思った次第です。
 本書では、トヨタ関連企業での過労死を労災認定しなかった豊田労基の例が紹介されていますが(後に行政訴訟で労基側が敗訴)、大企業の中には裏口であの手この手の労基署対策をやっているところもあるのは確か。

 労働側の学者が書いた本ということで、企業側の人にはあまり読まれないかも知れませんが、産業構造・労働実態の変化を俯瞰する上でも参考になり、「賃金労働者とホワイトカラーの際立った違いの一つは、賃金労働者は彼の労働とエネルギーとスキルを売るが、ホワイトカラーは、多数の消費者、顧客、管理者に対して、自己の労働を売るだけでなく自己のパーソナリティを売る」(C・W・ミルズ、1957)といった引用にも、だからホワイトカラーの疲弊度は増すのだなあと納得させられたりしました。

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オムニバス効果が見えず、寄せ集め感だけが印象に残った。

雇用崩壊.jpg 『雇用崩壊 (アスキー新書)』 ['09年]

 '09年4月刊行。未曾有の経済危機で、企業による「派遣切り」が横行し、「正社員リストラ」の兆しも見えるなど、日本の雇用のあり方が問われている中、「第一線の論客たち」7名にこの問題についての提言を求め、解決策を模索した本―と言っても、まあ、それぞれの立場の人がその立場での話を(勝手に?)書いているなあという感じで、あまり目新しさはなく、全体としての寄せ集め感だけが印象に残りました。
 日比谷公園の「年越し派遣村」('09年1月/共同通信)
日比谷公演に並ぶ「年越し派遣村」の失業者たち.jpg 冒頭の民主党国会議員への"SUPECIAL INTERVIEW"は国会答弁みたいだし、次に来る『若者はなぜ3年で辞めるのか?―年功序列が奪う日本の未来次に来る』(光文社新書)の著者・城繁幸氏のものは、これはインタビューに答えたもので、自著の内容のリフレインに過ぎず、その次の(労働側にとっては悪評高い)元「経済財政諮問会議」メンバーの八代尚宏氏の話も論筋があちこち飛んで(これもインタビュー?)、結局、「規制緩和」が雇用悪化の"犯人"ではないという弁解に聞こえなくもありません。

 一方、それに続くユニオンやマスコミの人の話は、事態の深刻さを訴えるばかりで(ちょうど年末年始にかけ「年越し派遣村」が話題になった頃に取材申し込みしたようで、そのことを使用者側も含め多くの人が取り上げている)その先がどうすればいいのかが見えにくく、最後のリクルートの元「とらばーゆ」編集長のものは自助努力論?(城繁幸氏のものもそうだが)

 雇用流動化への認識と、同一労働同一賃金であるべきという方向性については、多くの論者の見方がほぼ一致しているのに、なかなか議論が交わらないという感じを受けるのは、労と使、ミクロとマクロという面で、それぞれが向いている方向がばらばらであるためでしょうか。
 八代氏の話の次に、ユニオンの連合会の事務局長の話が来るので、この2つを読み比べると、そのことが鮮明になります。

雇用はなぜ壊れたのか.jpg 労働法学者の大内伸哉氏が『雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理』 (ちくま新書)の中で、「会社の論理」と「労働者の論理」の調整が難しい時代に今あることを指摘していましたが、お互いに実のところどうしたらいいのか解らないというのが本音であるような気もしないでもなく、八代氏の言うことにしても(個人的にはこの人の論を全否定はしないが)、「差別のない、多様な働き方ができる社会へ」とだけ言われてもねえ、みたいな印象は抱かざるを得ませんでした。

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「味方のように微笑む美女が、じつは悪魔であったということもある」ことを考えさせられた。

雇用はなぜ壊れたのか  .jpg大内 伸哉 『雇用はなぜ壊れたのか』.gif    大内 伸哉.jpg 大内 伸哉 氏(略歴下記)
雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理 (ちくま新書)

 雇用問題の中には、会社が利益を追求する「会社の論理」と、労働者が自らの権利を守る「労働者の論理」の2つの論理があり、経済の激変で両者の調整が一段と難しくなった今、どうすれば両者の論理を比較衡量し、調整が図れるかということを、セクハラ、長時間労働、内定取消、期間工の解雇、正社員リストラなど、雇用社会の根本に関わる11のテーマを取り上げ、それぞれについて対立軸を行き来しながら考察した本です。

 従って、表題の「雇用はなぜ壊れたのか?」というその原因を明らかにする内容ではなく、そのためミスリード気味のタイトルではないかということで、書評ブログなどでも評価が割れているようですが、個人的には、本書から、多くのことを考えさせられる契機を得られました(ブログなどでは、結論が明確でない、或いは立場が「会社の論理」に偏っているといった批判もあったようだが、そう簡単に結論が出せるような問題でもないし、考察の進め方は至極まっとうなものだと思う)。

 法学者らしくない柔らかめの文体で、但し、内容は労働法と雇用社会の関係を考察して深く、例えば、解雇規制を強めることや最低賃金を引き上げることは、それが労働者の権利を守ること繋がると言い切れるのか、といったことを解り易く問題提起しています。

 自分個人がかつて経験したこととして、ハローワークに営業職の求人を出したものの同業種経験者の採用はならず、異業種の若手営業経験者を採用内定した際に、内定後に、「示された給与額が求人票の額より下回っているのは違法だ」と言ってこられたことがありましたが、ハローワークに出した労働条件と実際の労働条件が異なることは必ずしも違法ではないと考え、本人に提示額の根拠説明をし、額の変更は行わなかったということがありました。
 もし、法規制が強化されて、こうしたことが即違法となるならば、企業は低い給与額の(給与額に幅のある)求人を出して対処するかも知れませんが、むしろこうしたケースでは、本命筋の採用は出来なかったということで諦める可能性が高く、仮に当時からそうだったとすれば、この営業職(今もその会社で正社員として元気に働いている)の入社は無かったでしょう。

 先述のように「会社の論理」に立っているとの批判もありますが、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」という労基法3条の「社会的身分」とはどこまでをいうのか、パートタイマーや非正社員の給与が正社員より低い場合は「均等待遇」原則に反しないかという問題について、「社会的身分」とは、自らの意志では離れることのできない「生来の身分」をいい(通達)、パートタイマーや非正社員といった雇用形態の違いは該当しないと解されていることに対し、これは詰まるところ「自己責任論」であり、疑問の余地があるとしています。

 本書では、「会社の論理」「労働者の論理」に加えてもう1つ「生活者の論理」というものを取り上げていて、著者によれば、日本人は少しでも豊かな生活をしたいという「生活者の論理」が「労働者の論理」に優先するという選択をしているとのことで(イタリア人などは逆)、但し「生活者の論理」が一方的に「労働者の論理」に優先するのではなく、その両者の均衡が日本的経営の強みだった(長時間労働もするが雇用は確保されている)とのこと。

 (著者自身は格差社会を是認しているわけでもないし、正社員と大きな賃金格差のある非正社員がいることは社会正義に反するとしている。その上で、)例えば、正社員と非正社員との均衡をとるということは、格差問題(貧困問題)の一時的な処方箋とはなり得るかもしれないが(実際、最低賃金法やパート労働法の改正はその流れに沿って行われてきた)、この「生活者の論理」と「労働者の論理」の間のバランスを壊すことになりかねないとしています。
 この辺りは、実際に本書を手にして読み込み、それぞれの読者が自ら考えていただきたいところですが、「味方のように微笑む美女が、じつは悪魔であったということもあるのである」(219p)と。
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大内 伸哉 (オオウチ シンヤ)
1963年生まれ。法学博士。専攻は労働法。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在、神戸大学大学院法学研究科教授。主な著書に『労働条件変更法理の再構成』『労働者代表法制に関する研究』(以上、有斐閣)、『雇用社会の25の疑問』『労働法学習帳』(以上、弘文堂)、『労働法実務講義』『就業規則からみた労働法』(以上、日本法令)、『どこまでやったらクビになるか』(新潮新書)など。

《読書MEMO》
●「ちくま 458号」 (筑摩書房)の一部を転載((神戸大学のサイトより)
「拙著『雇用はなぜ壊れたのか?-会社の論理vs.労働者の論理』は、実は、雇用が壊れた原因を明らかにしようとした本ではない。 むしろ、本書で描きかったのは、雇用が壊れる過程における、会社の論理と労働者の論理の関わり合いについてである。 これらの論理の関わり合いを明らかにすることを通して、筋の通った正しい政策はどのようなものかを模索していきたかったのである。 それは、必ずしも会社にも労働者にも「甘い」ものばかりではない。正義の女神は、剣をもっている。母のように「甘える」ことは危険なのである。」

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ちくま新書というより「日経文庫」的。もっとコンサルタント的視点や提言を入れてもよかった。

日本の賃金9.jpg日本の賃金.jpg 『日本の賃金―年功序列賃金と成果主義賃金のゆくえ (ちくま新書)』 ['08年]

 人事・賃金コンサルタントによる本で、日本の賃金の歴史、日本の賃金が抱えている問題点、日本企業にとって望ましい賃金制度とはどのようなものか、基本給や諸手当は今後どうなっていくか、賞与制度の方向性や賃金格差の今後、退職金制度の将来などについて書かれていますが、あまりに網羅的・教科書的で、「日経文庫」を読んでいるよう錯覚を感じました。

 「日経文庫」でもコンサルタントが書いているものがありますが(例えば、『職務・役割主義の人事』('06年/長谷川直紀 著)は外資系コンサルティング会社マーサー・ヒューマンリソース・コンサルティングのコンサルタントによるもの)、あちらは最初から入門書であることを意図したものであり、結果的に網羅的・教科書的であることがままあるのも仕方ないとして、本書については「ちくま新書」に収めるのにこの内容は如何なものかと思ってしまいました。

パートタイマーのトータル人事制度.jpg 実務書としては分かり易い良い本も書いている著者なので、もう少しコンサルタント的視点や提言を入れてもいいのではないかという気がしながら読んでいましたが(タイトルだけでは本書の企図が見えにくいのも難点)、そうしたものは終わりの方の賞与制度や賃金格差について述べたところで少し出てきたかなという感じで、個人的には肩透かしを喰った感じでした。

パートタイマーのトータル人事制度―資格・考課・賃金制度構築のすすめ方

 最初から「教科書」だと割り切って、勉強のつもりで読めばそれほど悪い本でもないと思うのですが、そうした「お勉強」志向で「ちくま新書」を手にする読者がどれぐらいの割合でいるだろうかとか、賃金制度の業務に携わったことの無い人には字面(じづら)だけではイメージしにくい部分があるのではないかとか、要らぬ気を揉んでしまいました(文章自体が読みにくいわけではないが)。

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雇用労働問題の先駆的ルポ。「製造業復活」が非正規雇用により支えられていたということがよく解る。

雇用融解.jpg 『雇用融解―これが新しい「日本型雇用」なのか』 ['07年] 風間直樹氏.jpg 風間 直樹 氏 (週刊「東洋経済」記者)

 '07年の刊行。東洋経済新報社の記者が'02年から足掛け5年に渡って「新しい日本の雇用」の実態に関する取材をし、それを取り纏めたもので、この本の後に刊行された「偽装請負」や「ワーキングプア」等の労働・雇用を巡る諸問題を扱ったルポルタージュと比べても、カバーしている範囲とその切り込み度合いの深さにおいて出色のルポだったのではないでしょうか。

 まず第Ⅰ部では、「製造業復活」と言われる裏側で、現場ではどういったことが行われているかを取材しており、序章では、シャープ亀山工場「アクオス」製造現場における非正規雇用の実態(外国人労働者の優先的受け入れにより、企業誘致が地元の雇用創生に繋がっていないという“亀山パラドックス”)を、第1章では、業務請負業「クリスタル」の実像とグッドウィルによる買収劇を、第2章では、松下プラズマディスプレイ(MPDP)茨木工場「VIERA」製造現場に派遣される請負労働者の実態と、MPDP社員の請負会社への出向(偽装請負)などを、第3章では、「外国人研修生」という名の下に奴隷のような労働条件を強いられる外国人労働者たちとその背後にある彼ら・彼女らをコーディネートする組織機構が取り上げられています。

 更に、第Ⅱ部では、「働き方の多様化」と言われるなか、フリーター、パートタイマー、個人請負といった人たちがどういった情況に置かれているかを、それぞれ第4、第5、第6章で取り上げており、統計分析から見えてくるもの、改正パート労働法の問題点、或いは、労働法“番外地”とでもいう情況にある業務委託社員の問題に触れながら、こちらも多くの企業とそこに働く労働者及び業務委託社員の置かれた苦境を現場取材しています。

 「雇用融解」と題した第Ⅲ部では、第7章でホワイトカラー・エグゼンプション問題、第8章で、医師(勤務医)・教師・介護士を蝕んでいる雇用環境の劣化を取り上げ、終章で、小泉内閣の構造改革・規制緩和路線が「雇用融解」を招いたことを分析・糾弾しています。

 著者は本書刊行時30歳、ということは25,6から雇用労働問題を追っていたということでしょうか、取材開始当時はどの新聞や雑誌にも「クリスタルグループ」や「偽装請負」に触れた記事は無かったそうで、暗中模索での取材に関わらず(東洋経済の多くの記者のサポートを受けたとしても、基本的には、取材対象ごとにアルパイン・スタイル=単独登頂スタイルが取られている)、内容的にはよく纏まっており、新聞社が掲載済みの連載を書籍化した際によく見られるような継ぎ接ぎ感、バラバラ感がありません。

 結局、製造業の復活などと言われたものが、劣悪な労働条件の非正規雇用の労働者によって支えられていたということが本書を読み直すとよく解り、章の終わりに、折口雅博グッドウィル会長(当時)や奥谷禮子ザ・アール社長などへのインタービューが挿入されていて、折口氏は「クリスタル」のオーナーとは一度も会うことなくその会社を買収したと言い、奥谷氏は、過労死は自己責任、労働省・労基署は要らないと言っている―これらも今読むとまた興味深いというか、改めてゲンナリさせられるものでした。

 因みに、奥谷禮子氏は、「規制改革会議」の元委員で、最近('09年6月時点)西川善文社長の留任人事で揺れている日本郵政の社外取締役でもあり('06年1月〜)、郵政公社から受注した「職員のマナー講習」の売上げは、これまでに7億円前後になるそうな。

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「働き方」を今一度考えさせられると共に、「仕事術」の体験的指南書でもある。

働き方革命.jpg   駒崎 弘樹.jpg 駒崎 弘樹 氏(略歴下記) NPO法人フローレンス.jpg http://www.florence.or.jp
働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)』 ['09年] 

 著者は、学生時代に起業したITベンチャー出身の人で、今は、自らが立ち上げた会社を共同経営者に譲渡し、子供が病気になり普通の保育園などで預かってもらず、そのために仕事を休まねばならないようなワーキングマザーのために、そうした子供を預かる所謂"病児保育"専門の託児所のネットワーク作りをしているNPO法人「フローレンス」の代表、と言っても、まだ29歳の若さです。

 今までの日本人の働き方、人生を会社に捧げるような仕事中心の人生観、その割には低い生産性、といったことに対する疑問からスタートし、ITベンチャーの経営者として、それこそ身を粉にして仕事をしてきた自分を振り返り、そこから脱却していく思考過程が1つ1つ内省的に綴られていて、「働く」ということに対する根源的な思索となっている上に、新たに自分が描いたライフビジョンをどう行動に移していったかが、ユーモアを交えて語られています。

 自分だけが自己実現やワークライフバランスの実現をすればいいというのではなく、社会実現(あるべき社会像の実現)を通しての自己実現ということを念頭に置き、社員、パートナーや親・家族、社会が豊かな人生を享受できるようにするためには自分がどうしたらよいかということを具体的に行動に移しています。

 その手始めとして、自らが経営者である会社の「働き方」(仕事のやり方)をどう変えていったか、どう仕事の「スマート化」していったかということが、論理的・実践的に紹介されていて(いきなり「とりあえず定時に帰れ、話はそれからだ」というのも凄いといえば凄いけれど)、仕事術(メール術・会議術・報告術・残業しない術...etc.)の指南書にもなっています。

 ここで言う「スマート化」が、例えば「『長時間がむしゃら労働』から『決められた時間で成果を出す』」ということとして表されているように、個人的にはこの著者に対して、やはり何事においても徹底してやる「モーレツ」ぶりを感じなくもないし、著者の抱く家族観や人生観も、新たなことを提唱しているのではなく、ある種"原点回帰"的なものに過ぎないような気もしなくもありませんでした。

 でも、「働く」とは「傍」を「楽」にすることであり、その「傍」とは家族だけなく地域や社会に及ぶという発想や、「『成功』ではなく『成長』」、「『目指せ年収1000万円』ではなく『目指せありたい自分』」、「『キャリアアップ』ではなく『ビジョンの追求』」、「『金持ち父さん』ではなく『父親であることを楽しむ父さん』」といったキーワードの整理の仕方などに、通常の啓蒙書(著者は啓蒙書が好きでないみたいだが)には無い視座が感じられました。

 「働き方革命」をしたら、会社でトラブルがあって倒産の危機に見舞われる、こうなったのも「働き方革命」したせいだと、今までやってきたことを全否定するような心境になった、というその話の落とし処も旨い、とにかく全体に読むものを引き込んで離さない文章の巧みさ(自分を3枚目キャラとした小説のように描いている)、もしかしたら、その点に一番感服したかも。

 ただ、そうした文章テクニックはともかく、「働くということ」「働き方」について今一度考させられると共に、「仕事術」の体験的指南書としても、一読して損は無い本でした。
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駒崎 弘樹 (コマザキ ヒロキ)
1979年生まれ。99年慶応義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡し、「フローレンス・プロジェクト」をスタート。04年内閣府のNPO認証を取得、代表理事に。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)がある。2012年までに東京全土の働く家庭をサポートすることを志す。

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ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つ本。

新しい人事戦略 ワークライフバランス.jpg             キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方.jpg 
新しい人事戦略 ワークライフバランスー考え方と導入法』['07年]/『超人気ワークライフバランスコンサルタントが教える キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』['08年]

 著者は、最近では『キャリアも恋も手に入れる、あなたが輝く働き方』('08年/ダイヤモンド社)などという本が好評の(その本のサブタイトルによると)"超人気ワークライフバランスコンサルタント"だそうですが、主に働く女性向けに自らの体験を綴ったその本に比べると、本書の方は、ワークライフバランス施策を体系的に論じているもので、具体的な制度にまで落とし込んでいるため、企業の人事部の人が読んで参考になる部分は多いのではないかと思います。

wlb.gif 前半の1・2章がワークライフバランスについての概説と先進企業の導入事例、後半の3・4章が、ワークライフバランス導入のステップと、「育児休業」「介護休業」「短時間勤務制度」などの各制度メニューの解説となっています(最終章(第5章)はデータ編)。

 前半部分では、脇坂明・学習院大学教授の「ファミリーフレンドリーな企業・職場とは」という研究成果が、〈ファミリーフレンドリー度〉と〈男女均等推進度〉との掛け合わせによる4象限で、「A.本物先進ワークライフバランス企業、B.モーレツ均等企業、C.見せかけのワークライフバランス企業、D.20世紀の遺物企業」というネーミングで括られているのが、個人的にはたいへん解り易かったです。

 先進各企業の施策を見ると、複数の施策を何年かもかけて実施していることがわかり、じゃあ今からという企業はどうすればよいかといことで、第3章に「変革の8ステップ」が示されていますが、最初に「プロジェクトチームを作る」というのがきて、「2人以上」で「専任者がいる」ことが望ましいと。
 確かにそうに違いないですが、大企業で人事部だけで何人も社員がいるような場合はともかく、中小企業にとってはこの辺りが1つのハードルになるかも。

wlb.jpg 但し、第4章で紹介されている「ワークライフバランスの各種制度とメニュー」の中には、中小企業でも出来なくはないと思われるものもあるし、中小企業向けの助成金なども紹介されています。

 「育児休業」といった基本的な制度も紹介されていますが、本書にもあるように、「育休」などは、法定の規定を超えて期間の延長などの独自の制度を設けることで、はじめてワークライフバランス施策を講じたと言えるのであって、その点は要注意、「介護休業」や「子の看護休暇」も然りです。

 また、休業期間中の人事評価をどうすれば、休業を取った社員のモチベーションを下げずに済むか、短時間勤務社員の評価はどうするかといった問題や、人事規定に盛り込むことが難しい「転勤配慮」にもキメ細かく触れられていて、ここでも先進企業の事例を紹介しているため、たいへん解りよいものとなっています。

『新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法』.JPG 個人的には、休業者の仕事の補填策として、「ドミノ人事制度」というものを提唱しているのが興味深く、これは、休業者の1つ下のランクの役職や経験の社員を代替要員として抜擢する方法で、代替要員となった社員の業務は、同様に1つ下のランクの社員に順次任せていくというものです。
 代替要員となった社員は一定期間1つ上位の業務を担当することが出来るので、ステップアップのためのOJT(実務による訓練)となり、若手社員にとってのチャンス、職場全体のモチベーションアップになるという―ナルホド。

 全体に読み易い中身で、ワークライフバランス施策としての人事諸制度を企画・立案する(その前にまずイメージする)上で役立つという点でお薦めです。

 しかし、この著者は1年に何冊本を出しているのだろう("第2の勝間和代"と化しつつある)。
 この人自身の現時点でのワークライフバランスが気にならなくもない...。

【2010年改訂版】

《読書MEMO》
●ワークライフバランス導入の8ステップ(108p-173p)
1 プロジェクトチームを作る
2 スケジュールを組む
3 社内ニーズを把握する アンケート実施。フィードバックは早めに。
4 導入プランを策定する
5 経営層の理解と承認を得る 中小企業こそ、ワークライフバランス施策にはコストがかからないものが多いこと、中小企業向け助成金などが整備されていること、機動性が高く、トップの意識次第で素早く大きな動きが起こせて、採用でも他者との差別化が図れる。
6 計画を実行し、告知する
7 マネジメント層の協力を得る
 ・短時間で高い付加価値をつけるアイデアと、広い視野や人脈を持つ社員が求められる
 ・社員が私生活を充実させ、会社以外のフィールドを持って活動することで、付加価値の高い仕事ができる
 ・個人の私生活を大切にできる職場環境は、うつ病や過労死の予防にもつながる
 ・そのための戦略がワークライフバランスである。という流れを確認する 
 「朝メールフォーマット」 今日の予定、今日の優先事項、今日の帰社予定
8 チェック&フォローを行う

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学術書、調査リポート的体裁。両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であると。

人を活かす企業が伸びる.jpg 人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg 『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』 (2008/11 勁草書房)

 「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けて企業が取り組む際には、従業員の多様なニーズを前提とした柔軟な施策展開が重要になりますが、多様な施策を展開することは、企業にとってコストとなり、コスト削減を要請する経営戦略と従業員の意欲を引き出す人事戦略がぶつかり合うことになり、企業は「ワーク・ライフ・バランス」の重要性を頭ではわかっていても、実際にやるとなると及び腰になってしまう―。

男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg 本書は「従業員のワーク・ライフ・バランスを支援することが企業にとってどのようなメリットがあるか」という課題設定のもとに、データ分析により実証的にそのことを明らかにしようとしたもので、ニッセイ基礎研究書が行った、両立支援を含むワーク・ライフ・バランスに関する企業調査を基に、主に大学教授らが分析を行っています(全体の編集は、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』('04年/中公新書)佐藤博樹・武石恵美子の両氏)。

wlb1.png その分析結果として、先ず、女性の活躍の場を拡大するためには、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であることが明らかにされ、両立支援策を充実させている企業は、女性の活用に熱心であり、また、従業員のキャリア支援にも力を入れているということになるようです。
 更に、こうした企業の施策は、人材確保においても効果を及ぼし、従業員の定着率も高く、但し、20代前半で採用した大卒正社員については、両立支援の利用程度はそれほどでもないとのことです。

 後半では、均等施策や両立支援が企業収益に結びついているかという分析を行っていますが、結論としては、均等も両立支援(ファミフレ)も共に活用度が高い企業は、好業績を上げているが、両立支援を単独で入れた企業は、企業業績はかえってマイナスになっていると...。

 全体として、学術書のような感じも。結論的には、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるということになるのでしょうが、だったら均等施策だけでも良いのではという気もしなくもありません。

 両立支援の企業に与える効果を検証しようとした意図そのものは評価すべきであるし、こうした検証は実際に必要だと思います。
 但し、両立支援策と均等施策のそれぞれの効果を因子分析するのは、均等施策を行っている企業は両立支援も行っているという相関が高いため、結構、難しい作業になっているような印象を受けました(そうした中では、第6章の脇坂明・学習院大学教授による「均等度とファミフレ度の関係からみた企業業績」は、よく分析・整理されている方ではあると思うが)。

 分析中心で、人事戦略の具体策にまで必ずしも落とし込めていないのは、本書が元々、調査リポート的性格のものであったということでしょうか。
 但し、両立支援策を効果的なものにするには、均等待遇との並立が肝要であるという、これはこれで、1つポイントを絞った指摘がなされている本ではあると思います。

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読み易いが奥が深い。「入門書」というレベルを超えていろいろ考えさせられる良書。

雇用社会の25の疑問52.jpg
雇用社会の25の疑問.jpg
 大内伸哉.jpg 大内 伸哉 氏
雇用社会の25の疑問―労働法再入門―』 〔'07年〕

 本書のはしがきには「労働と法、ときどきイタリア」とあって(著者のもともとの専門はイタリアの労働法)、「労働と法」について「イタリア風に味付け」した本という、ややくだけた口上がありますが、内容はなかなか濃かったです。

 「労働法再入門」とサブタイトルにあるように、「どうして、労働者は就業規則に従わなければならないのか」といった解りづらい論点について、明快な文体で基本理論を解説し、また、判例解説も懇切丁寧で、全体として"学者言葉"の使用を控え、小説を読むように読みやすいものとなっています。

 しかし、提示する25の疑問には労働法学者としての鋭い視点が窺え、例えば、一般に労働者によかれとしてなされている法改正が、果たして労働者のためになるものなのだろうかという見方を示したり、リーディングケースとされている判例にも、今の社会に置き換えた場合どうかといった疑念を挟むなど、常に、社会のあり方、変化を見据えつつ、原点に立ち返って考える姿勢が見られます。

 その結果、「疑問」に対してすっきりした解答を出し切れていないものもありますが、そうした様々な要素が複雑に絡み合っているのが「雇用社会」というものなのだと改めて感じさせられ、法律の真意を探ることなく金科玉条のごとく盲従することの危うさを指し示しているようにも思えました。

雇用社会.jpg 「答えを出し切れない」という意味においては、著者の師匠筋にあたる労働法の権威・菅野和夫氏の『新・雇用社会の法』('04年/有斐閣)が、Q&A形式をとりながらも、多分に、法のカバーし切れない部分や曖昧な点に対し問題提起をすることを主眼としていたのとよく似ているし、こうしたスタイルの本では『新・雇用社会の法』以来の"読みで"のある本でした。

菅野和夫 『新・雇用社会の法』 〔'04年〕

 さらっと読めるが奥が深く、「就業規則」の話から始まって、少子化や過労死の問題など昨今の労働経済や雇用環境を巡るトピックにも触れ、最後は「働くとはどういうことなのか」という根源的テーマにまで言及しています。
 一方で、判例・用語解説等もよく纏まっていてリファレンス的にも使えるので、手元に置いておき、折々に読み返したい本です(そうしている内に、書評で取り上げるのが少し遅くなってしまったが)。

経済学的思考のセンス.jpg 因みに、帯の「会社は美人だけを採用してはダメなのであろうか?」は、労働経済学者・大竹文雄氏が『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』('05年/中公新書)で示した切り口を本書において引用しているもので、他書からの引用を帯にもってくることもなかろうにとも思うのですが、アイキャッチ効果があるフレーズとみたのかな。

大竹文雄 『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)』 ['05年]


雇用社会の25の疑問第3版.jpg【2017年第3版

《読書MEMO》
●主要目次
第1部 日頃の疑問を解消しよう
第1章 労働者の疑問
 第1話 どうして、労働者は就業規則に従わなければならないのか
 第2話 退職金は、退職後の生活保障としてあてにできるものか
 第3話 労働者は、会社の転勤命令に、どこまで従わなければならないのか
 第4話 女性社員は、夜にキャバクラでアルバイトをしてよいか―会社は、社員の私生活にどこまで介入できるか
 第5話 会社が違法な取引に手を染めていることを知ったとき、社員はどうすべきか
 第6話 労働者には、どうしてストライキ権があるのか
 第7話 女子アナは、裏方業務への異動命令に従わなければならないのか
第2章 会社の疑問
 第8話 会社は、美人だけを採用してはダメなのであろうか―採用の自由は、どこまであるか
 第9話 会社は、試用期間において、本当に雇用を試すことができるか
 第10話 会社は、どんな社員なら辞めさせることができるか
 第11話 会社は、社外の労働組合とどこまで交渉しなければならないのか
 第12話 会社は、社員の電子メールをチェックしてよいのであろうか  
第2部 基本的なことについて深く考えてみよう
 第13話 労働法は、誰に適用されるのか―労働者とは誰か
 第14話 労働組合の組織率は、どうして下がったのか
 第15話 成果主義型賃金は、公正な賃金システムであろうか
 第16話 公務員には、ほんとうに身分保障があるのか
 第17話 正社員とパートとの賃金格差は、あってはならないものか
 第18話 定年制は、年齢による差別といえるであろうか
 第19話 少子化は国の政策によって解決すべきことなのか  
第3部 働くことについて真剣に考えてみよう
 第20話 誰が「強い」労働者か―君は会社に「辞めてやる」と言えるか
 第21話 労働者が自己決定をすることは許されないのか
 第22話 日本の労働者は、どうして過労死するほど働いてしまうのか
 第23話 雇用における男女差別は、本当に法律で禁止すべきことなのであろうか
 第24話 会社は誰のものなのか
 第25話 ニートは、何が問題なのか―人はどうして働かなければならないのか

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「賃金控除・賃金カット」や「休業手当・解雇予告手当」 を独立章とし、実務面への配慮が窺える。

『賃金・賞与・退職金Q&A7.JPG賃金・賞与・退職金Q&A.jpg
賃金・賞与・退職金Q&A (労働法実務相談シリーズ)』['08年]

 労務行政の「労働法相談シリーズ」(Q&Aシリーズ)で、シリーズナンバーが「1」ですが、刊行はやや遅かった...。これも弁護士によって著されたもので、全体としては労務行政らしいカッチリとした内容です。賃金・賞与・退職金を巡る相談事例81件を200ページ強に収めています。

 系列の財団法人「労務行政研究所」刊行の人事専門誌「労政時報」の末尾にある「相談室Q&A」が、ややマニアックなほど難解なテーマを扱っているのに比べると、こちらは基本をしっかり抑えている感じで、それでいて、「賃金控除・賃金カット」や「休業手当・解雇予告手当その他」に各1章を割き、実務面への配慮が窺えます。

賃金・賞与・退職金Q&A2.JPG だだ、弁護士が書いたものにはこの手のものが多いのですが、言い切り調になっているものがあって、例えば、「Q8」の「定期昇給が義務付けられる場合」などの項は、就業規則(本則)に「定期に昇給させる」とあって、「賃金規程」などの具体的な昇給額が確定する仕組みであれば、使用者は昇給させる義務があるという説明で終わってしまっていて、これなどは、実際には、労使交渉による合意とそれに基づく就業規則の改定(労働契約法12条に沿って)により、「据え置き」などの対応は考えられるように思います(そうでないと、「昇給」か「改定」かという何気ない就業規則の記述の違いのために会社が潰れてしまいかねない)。

 「Q8」もそうですが、先に述べたことの判例を挙げるか、補足説明をするかで、どちらかと言えば判例重視といった感じでしょうか。
 基本を抑えるという面ではこれでいいのですが、例えば「Q41」の「通勤手当と高速道路料金負担」などの項目のように、「マイカー通勤者に通勤手当として高速道路使用料金まで含めて払うかどうかは使用者の自由である」で説明が終わってしまっていて、あとは、一旦そうと決めれば、それをやめるのは不利益変更になるとして、「みちのく銀行事件」の判例解説が出てきます。
 ここは、普通だったら、例えば「通勤手当として支払った高速道路の使用料金は課税対象となるか」という所得税法9条(非課税所得)及び所得税法施行令第20条の2(非課税とされる通勤手当)の解説などを持ってくるべきではないかと...(不利益変更の話は他の多くの質問項目に当て嵌まる話で、それをどうしてこの質問に1ページしか割いていないここでわざわざ持ってくるのか?)。

 1つのQ&Aに割けるページ数が1、2ページだと、どうしてもこうなってしまうのは致し方ないところですが、何となく解説の方向性が、こちらが望んでいるものとは違うように思われるものも幾つかありました。
 
 細かいところでケチをつけましたが、やはり「労務行政」というブランドと3,100円という価格ですから...。
 全体としては、シリーズの中でも使い勝手のある方だと思われ、買って損は無かったと思いました。

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参考にならないわけではないが、あまりに「リクルート」回顧調。
  
職場活性化の「すごい!」手法.png職場活性化の「すごい!」手法2.png         組織を変える「仕掛け」.jpg
職場活性化の「すごい!」手法 (PHPビジネス新書)』['09年]  高間 邦男『組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』['08年]
 
 『組織を変える「仕掛け」-リーダーシップとは』(高間邦男著/'08年/光文社新書)を読んだ後に、実際の"テクニカル編"に当たるような本かなと思い本書を読みましたが、う〜ん、この著者はリクルートのトップ営業だったそうで、「やまびこあいさつ」、「寄せ書き」「社員図鑑」「社内パーティ」等々、いかにも「リクルート」という印象を受けました(他社の事例も多少はあるが)。

 職場を活性化するための手法が具体的に幾つも紹介されていて、その背後にある著者の考え方には異を唱えるわけではないですが、実際この本に書かれているようなことをやって効を奏す会社(職場)とそうでもない会社(職場)があるのではないかとも。

 著者自身、重厚長大で伝統的な企業には、「リクルートのようなイケイケ・ドンドンの社風は異次元のものに映るに違いない」、「工場や研究所の活性化のために太鼓や鳴り物で鼓舞激励するような手を使うというのは、TPOがずれているだろう」と最初に断りながらも、紹介されている例の多くは、リクルートで著者自身が経験したものです。

 著者がいた頃のリクルートは、単一または少数の自社メディアを掲げ皆で一斉にセールスにかける、そうした営業スタイルが主体だったのではないでしょうか。
 一見、最近のベンチャー企業と似てなくもないですが、例えばITベンチャーでも回線リセールのような業務を主体とする会社と、コンテンツ・ビジネスを主体とする会社では大きく業態が異なり、後者の方は、下手すると社員数だけの職種があったりするわけで、そうした意味では「研究所」的な要素もあって、ベンチャーだからと言って、本書にあるような手法が向いているとも限らないのでは。

 但し、社風や職場風土に似つかわしくないかなと思われることでも、職場のムードを変えるために、ある時期、思い切ってやってみた方が良いというようなこともあるでしょう。
 ナレッジ・マネジメントにおける「場」の考え方にあるように、インフォーマル・コミュニケーションの充実が図られるならば、それが人と人の関係や職場の活性化に寄与するところは大きいと思います。

 「社内報」や「社内イベント」などは、かつて企業業績が好況だった時期には、別にそうした意図のもとでなくても、自然発生的にあったように思います。
 今は、入社以来そうしたことを経験したこともなく、日々の業務に追われている人が、企業の若手社員には結構多いのでは。

 本書に紹介されている活性化事例が参考にならないわけではないですが、「リクルートではこうしていた」的な話ばかりで、冒頭の断り書きを除いては、その方式がどの会社や職場でも通用するような感じで書かれているのがやはり気になりました。
 著者が若手社員だった頃と今とでは社会情勢も就労意識も異なるし、また、その中でも当時のリクルートは特殊な会社だったわけです。
 帯にある「これだけあればどれかは効く!」というのは確かかもしれないけれど、どれが自社に効くかというのが難しいわけであって、その辺りを冒頭の一言で済ませているのはちょっと乱暴な感じも。

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