【1170】 ○ 森戸 英幸 『いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠』 (2009/04 文春新書) ★★★☆

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年齢基準の「定年制」の方が能力基準よりマシという見解自体に異論は無いが...。

いつでもクビ切り社会2.jpgいつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠 (文春新書)』['09年]森戸 英幸.jpg 森戸 英幸 氏

 「年齢差別から能力本位へ」という掛け声の下、「エイジフリー」の美名において「定年制廃止」を理想の雇用形態とするような議論が進んでいる事に対して、気鋭の労働法学者が疑問を呈した本、と言っても、肩肘張らず楽しみながら読める内容です。

企業年金の法と政策.jpg 著者の『企業年金の法と政策』('03年/有斐閣)は良書だったと思いますが、その中にもアメリカと日本の年金制度の違いが詳しく述べられていたように、本書においてもアメリカを始めとする欧米と日本の雇用及びその枠組みとなる社会の違いについて、時折ユーモアを交えて考察しています。

 途中まで「エイジフリー」社会の素晴らしさを讃えていますが、これが逆説的「前振り」であることは本のタイトルから容易に窺え、「いつ落とすか、いつ落とすか」という感じで読んでいました。
 その落としどころも、タイトルから解ってしまう訳で、推理小説ではないので、むしろ最初から著者の考えが解ってこの方がいいかも。

 玄田有史氏も『仕事のなかの曖昧な不安』('01年/中央公論新社)の中で「定年制廃止」に批判的でしたが(本書も参考文献を見る限りでは、慶応義塾大学の新塾長になった清家篤氏の「定年破壊」論がターゲットになっているようだ)、玄田氏はその理由として、定年制廃止が「既に雇われている人々の雇用機会を確保することにはなっても、新しく採用されようとする人から就業機会を奪うこと」になる怖れがあることを挙げており、一方、著者は本書において、定年が無くなれば解雇によってしか従業員を「退職させる」手段が無くなるため、人選の納得性などをどう担保するかが困難である点を指摘しています。

 この考え自体は、著者と同門である労働法学者の大内伸哉氏が『雇用社会の25の疑問』('07年/弘文館)でも言っていたような気がしますが、定年制という「制度」があるから人は納得して会社を去るのであり、「60歳になったらウチの会社ではまあ大体使い物にならないよね」という割り切りが対象者個々人に通じるかどうかという著者の投げかけは、大変解り易いものです。

 その上で、「エイジフリー」社会を目指すにはどうしなければならないか、「エイジフリー」社会が到来した際には働く側はどうしたらよいかといったことまで述べていますが、前半の欧米と日本の比較社会論のところでかなり「遊んだ」という感じ。

 その分楽しく読めたし、「エイジフリー」ということを考え直すという点では良かったのですが、肝心な結論の部分ではやはり、「年齢基準の方が能力基準よりマシである」という消極的選択の域を出ていないため、さほど新味は感じられませんでした(個人的にはその考えというか見通しそのものには異論は無いのだが)。

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