2009年5月 Archives

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理念的に纏まっていて、且つ、地に足のついた組織変革の実践論・手法論となっている。

I組織を変える「仕掛け」―67.JPG組織を変える「仕掛け」.jpg   リーダーシップの旅.jpg
組織を変える「仕掛け」 (光文社新書)』['08年]『リーダーシップの旅 見えないものを見る (光文社新書)』['07年]

 『組織を変える「仕掛け」-正解なき時代のリーダーシップとは』は経営コンサルタントの高間邦男氏による組織変革並びにリーダーシップに関する本で、同じくAmazon.comのレビューの評価が高かった『リーダーシップの旅-見えないものを見る』(野田智義・金井壽宏著/'07年)と共に読みましたが、『リーダーシップの旅』は、リーダーシップは先天的なものか後天的なものかという論争には意味がなく、後天的な環境がリーダーを育むものであり、「すごいリーダー幻想」に惑わされてはいけないと説きながらも、例に引いてくるのが歴史上の偉人や有名な経営者など「すごい」人物ばかりで、却って「すごいリーダー幻想」を助長しているような気もしました(横文字がやたら多いにも気になった)。

 斬って捨てるような本ではないし、部分部分では共感するのですが、何となく肌に合わなかったというか、自分はこの本向きの読者では無かったのかも。

 一方、高間氏の『組織を変える「仕掛け」』の方にも横文字は少なからず出てきますが、こっちの方がかっちりと理念的に纏まっていて、且つ、より地に足のついた組織変革の実践論となっているように思えました(最後にリーダーシップ論も出てきますが、メインは組織改革の手法を説いた本だった)。

 従来のトップダウンやボトムアップに替わる手法として〈ホールシステム・アプローチ〉という「経営トップから管理者層、メンバー、協力会社まで、ステークホルダーが全員集まり、状況や背景を共有し、全員が話をし、人の話を聴くことで、全員で自分たちのありたい姿を考え、新しいアイディアや施策を生み出していく」方法を提唱していて、更に、このアプローチの背景になる思想は、従来型の問題解決アプローチ(ギャップアプローチ)では限界があり、人の「強み」や「価値」に焦点を当てていく〈ポジティブアプローチ〉であるべきだとしています。

 前半部分だけだとやや抽象的ですが、後半において、「ポジティブアプローチの6つの原則」として、〈ポジティブアプローチ〉を更に具体的な幾つかの手法に落とし込み、研修場面などを想定しながら話を進めていくので、非常にわかり易いし、最後の「組織変革の9つのステップ」もしっくりくるものでした(但し、あまりに多くのことに触れているので、一読して全てを習得するのは難しいかもしれないが、取り敢えず要点と流れだけ掴めば、それだけでも随分違うのでは)。

 『不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか』('08年/講談社現代新書)を読んだ際にも思ったのですが、結局、これからはリーダーシップ研修というよりメンバーシップ研修が大切になってくるのだろうと思わされた1冊でした。

《読書MEMO》
インクルージョン(⇔イクスクルージョン)-境界を外していく(⇔閉じている)
「女性の活用」といい続けるのは、「女性」というラベルを貼って区別していることになる(49p)
●生物学的な統合的(シンセシス)アプローチ(⇔分析的(アナリシス)アプローチ)
私たちを取り囲むシステムの変化や影響関係を、物語や映画のように全体の流れの中でとらえ、感性や皮膚感覚といったもので、察知していきます。自分たちは何者であるのか、一人ひとりがどうありたいのか、自分たちの組織や、社会がどうなったらいいのかを共有するところから、行動を生み出していく(53p)
●ミツバチの生態系の破壊
 アーモンドの需要増→5キロ四方のアーモンド畑→単一の花の蜜ばかり食べる→免疫力低下(70p)
●アポトーシス
 新規プロジェクトが100ぐらい走っているが、その多くが失敗。非効率に見えるが、どうも社内的にアポトーシスを持っているようで、長い時間軸で見るといい結果に(74p)
●ポジティブアプローチの6つの原則
原則1:信頼感のある対話の場をつくる(108p)
組織のメンバーの関係性を徐々に高めながら、メンバーの思いを引き出し、共有できるコミュニケーションの場をつくる。(「怒ってはいけない」「根に持たない」「自分のことは棚に上げてよい」)
原則2:メンバーの「察知力」を高める(129p)
メンバー自身が自己の認知の癖を知り、また、他者のことを自分のことのように捉える力を磨く。そのために自己に向き合うプログラムを取り入れる(内観/トイレ掃除/身体性を高める/瞑想をする)。
原則3:一人ひとりをリスペクトし、強みを認める(138p)
組織の一人ひとりに一人の人間として関心を寄せ、尊重する(問題解決の責任は問題に気づいた人にある/ミーティングで一人ひとりをリスペクトする/必ず全員が話しするようにする/メンバーの強みを引き出す手法―アプリーシアティブ・インクワイアリー(AI)のハイポイント・インタビュー(フロー体験(生きがいや達成感を抱いた体験)を語る)。
原則4:主体性を引き出す(161p)
メンバーが主体的に学習に取り組んだり、ミーティングに参加したりする工夫をする。(プロセス・ガーディナー/ファシリテーターはごみ拾いが理想)
原則5:自他非分離の場を作る(177p)
組織の一体感を高める活動を。組織変革を促すミーティングの場ではディスカッショよりも、メンバーの思いが表出するストーリーテリングが大切(ストーリーを共有する→個々のメンバーに内在するコンテクストが浮き彫りに→共感が生まれる)
原則6:暗在的リーダーシップでサポートする(192p)
組織メンバーの良い面を引き出し、サポートしていくことに徹することができるリーダーが組織変革には不可欠(顕在的リーダー(カリスマ)ではなく、メンバーを励ましていけるリーダーシップ)
組織を変える「仕掛け」6.jpg●組織変革の9つのステップ(214p)
ステップ1:全体観を持ち、状況の共有によって視座の向上を図る
ステップ2:みなのありたい姿、夢を共有する
ステップ3:関係性の向上を図る
ステップ4:目的・ゴールを共有する
ステップ5:否定と創造
ステップ6:新しい意味の創造
ステップ7:アクションプランをつくる
ステップ8:行動する
ステップ9:振り返り、成果を実感する
●「メンバーが好きに目標を立てたら、組織目標が達成できないだろう」と危惧するマネージャーも多いが、それは思い込み。AIミーティングで主体的に売上げ目標を立ててもらったら、組織目標をはるかに上回った(215p)
●魂の入ってないプランをサラサラつくらないようにスピードを落とす。メンバーが本当に考え、腹に落ちている言葉であれば、稚拙な表現でもよい(232p)

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同じような本が無いために、いまだにロングセラーであり続ける...。

プレゼンテーションの説得技法.bmp 『プレゼンテーションの説得技法(テクニック)』 ['89年] レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術.jpg 『レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術 (講談社現代新書)』 ['05年]

 プレゼンテーションにおける効果的なビジュアル・ドキュメントの作り方をわかり易く解説したもので、マニュアル的に使えるせいか、'89年という旧い刊行ながらも、いまだにロングセラーとなっている本です。

 各種グラフやチャートの特徴と有効な使用例を、解説編とサンプル編にわけて多くの事例を用いて指し示すだけでなく、シートのサイズやレイアウト、文字の大きさから始まって、チャートに入れる文字の字数や行数、囲み罫からの距離まで示していて、実際のプレゼン場面でのテクニックや留意点、例えばスライドを映すスクリーンの適切な高さなどということまで記されており、まさに至れり尽くせり。

 そう、この頃はまだ、切り張りして図や資料を作り(網目模様やカラーのセロファンをカッターで切って棒グラフの枠内に糊で貼り付けていたりしていた)、OHPシートにコピーするなどしてスライド化し、それをOHPで映すということがまだまだ一般に行われていたなあと(これ、藤城清治か?というような、凝ったプレゼンを見たことがある)。

 でも、この本が地味ながらも売れ続けているのは、結局、ビジュアル・ドキュメントの作成の基本は変わっていないということと、網羅している範囲の広さやサンプルの多さ、ワンポイントのアドバイスの的確さなどにおいて、同じような本がその後、手頃なところでは殆ど出ていないということもあるのではないでしょうか。

 近年の同系統のものでは、大学でプログラミングを教えている先生が書いた『レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術』('05年/講談社現代新書)がありますが、その本にしても、エクセルの使用をベースに書かれている分、グラフの作り方だけで1冊終わってしまっていて、知っていることは既に知っているし、知らないものは、あまり使いそうもないものだったりし、確かにアプリケーションのマニュアル本よりは実戦的ですが、本書ほどの"至れり尽くせり"感はありませんでした。
 ハンドブックとして役立つかもしれませんが、「新書」(横書き)という体裁が目新しいだけで、「新書」に限らなければ(新書にもあるが)、類書はいくらでもあるように思えました(評価★★☆)

 『プレゼンテーションの説得技法』は、富士ゼロックス内のプロジェクトが編纂したもので、アプリケーションのマニュアル本の範囲を超えた、こうしたビジュアル・ドキュメント作成に関する分野というのは、オブジェクトの作成とプレゼンの実施の間にある、ある意味"隙間"であり、意外とそれ自体を専門としている人がいないのかも。

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内容が経年により陳腐化しているというよりは、むしろ著者の試行錯誤が却って新鮮。

知的生産の技術5.JPG知的生産の技術.jpg 梅棹 忠夫.jpg 梅棹 忠夫 氏 知的生産者たちの現場.jpg 
知的生産の技術 (岩波新書)』['69年]    藤本ひとみ『知的生産者たちの現場』['84年]  

 本書は「情報整理術」の元祖的な本で、著者は文化人類学者としてよりもこっちの分野で有名になり、今で言えば、経済学者の野口悠紀雄氏が一般には〈「超」整理法〉の方でより知られているのと似ているかもしれません。

 知的生産の「技術」について書かれたものですが、著者も断っているように、本書はその「技術」の体系的な解説書ではなく、自らの経験を通じての提言であり問題提起であって、ハウ・ツーものと違って、読者が自ら考え、選び、また試すことを願って書かれています。

 従って押し付けがましさがなく、また文章も平易で、天才ダ・ヴィンチがメモ魔だったという話から始まって、それに倣って「手帳」を持ち歩くようになり、更に「ノート」「カード」と変遷していく自らの情報整理術の遍歴の語り口は、まるでエッセイを読むようです(個人的にハマったなあ、「京大カード」。結構デカいので、途中からハーフサイズのものに切り替え、収納用の木箱まで買ったのを中身と共に今も持っている)。
 その後に出てくるファイリング・システムの話などは、野口悠紀雄氏の考えに連なるものがあり、〈「超」整理法〉もいきなり誕生したわけではないということかと思った次第。

 本書の後半では、「読書」「書く」「手紙」「日記と記録」「原稿」「文章」といったことにまで触れ、カバーしている範囲も幅広く、何れも示唆に富むものですが、文化人類学者らしく文化論的な論考も織り込まれていたりするのも本書の特徴でしょうか。

 再読して改めて興味深かったのは第7章の「ペンからタイプライターへ」で、著者は英文タイプライターにハマった時期があり、手紙などもローマ字で打ち、その後カナ・タイプライターが出るとそれも使っているという点で、ワープロの無い時代に既にこの人はそうしたものを志向していたのだなあと(更にカーボン紙を使って現在のコピーに当たる機能をも担わせている)。

 今でこそ我々はワープロやコピー機を、そうしたものがあって当然の如く使っているだけに、内容が技術面で経年により陳腐化しているというよりは、むしろ著者の試行錯誤が却って新鮮に感じられ、「より効率的、生産的な方法」を模索する飽くなき姿勢には感服させられます。

 自分は本をあまり読まないとか文章を書くのが得意ではないとかサラっと書いていますが、本当はスゴイ人であり、著者の秘書をしていた藤本ひとみ氏の『知的生産者たちの現場』('84年/講談社、'87年/講談社文庫)などを読むと、本書にある「技術」が現場でどのように応用されたのかということと併せて、著者の精力的な仕事ぶりが窺えます。

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「●新潮新書」の インデックッスへ

「博報堂生活総研」×「人材コンサル」? サラッと読めて、新たな視点を提供してくれる。

ネコ型社員の時代.jpgネコ型社員の時代―自己実現幻想を超えて (新潮新書)』 ['09年] 山本直人.jpg 山本 直人 氏(略歴下記)

 かつて大手広告代理店・博報堂の人事部門に在籍し、現在は人材開発コンサルタントをしている人が書いた本で、新潮新書らしいサラッと読めてしまうビジネス本。
 著者の言う「ネコ型社員」とは、「『自己実現』に幻想を持たず、出世のためにあくせくせず、滅私奉公に背を向けつつも、得意分野では爪を磨ぐ」タイプとのことで、そんな「ネコ型社員」が増殖しているそうな。

 著者が挙げる「ネコ型社員」の特徴は、「1.滅私奉公より、自分を大切にする、2.アクセクするのは嫌だが、やる時はやる、3.自分のできることは徹底的に腕を磨く、4.隙あらば遊ぶつもりで暮らしている、5.大目標よりも毎日の幸せを大切にする」ということだそうで、ちょっぴり「犬型」的要素も入っているような気がしないでもないですが、本書では、名犬・忠犬・警察犬はいるけれど名猫・忠猫・警察猫はいないよねという話は冒頭あるものの、「犬型」の特徴を挙げて対比するようなやり方はしておらず、あくまで「ネコ型」について述べるのみ、これ、戦略的かも。

 ネコ型社員の信条は、「『忠誠』よりも『信義』、『上昇』よりも『向上』、『一人前』よりも『一流』」ということで、博報堂のR&D部門にもいた人らしく、こうした分類にはマーケティング的というか「博報堂生活総合研究所」的な匂いを感じなくもありません(「生活総研」×「人材コンサル」といったところか)。

 「ネコ型社員」であることを勧める共に、企業としての「ネコ型社員」の活かし方にも触れていて、「1.砂場を作る、2.見返りを求めない、3.自信を持って甘やかす」ということになるようで、それぞれについては中身を読んでいただければと思いますが、「ネコ型社員」になることよりこっちの方が難しいかも知れないとも思ったりしました。

 個人的に感性が一致したのは、転職支援の「あなたの可能性はまだまだそんなものじゃない」といった"眩しい"コピーを「自己実現熱」を煽るものとして批判している点で、元コピーライターが言うだけに説得力があったりして(「粘土上司」なども言い得て妙)。

 「ワーク・ライフ・バランス」という言葉の流行に対しても、経営側は「結局ワークを中心として、ライフとのバランスをとろうというように聞こえる」と言っているのには素直に共感しました。

 実践面でそんなに旨くいくかなという部分もありましたが、"目から鱗"とまでは行かないでも、働き方や物事への取り組み方、部下の扱い方などを少し違った角度から考察してみるには悪くない本でした。
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山本 直人 (やまもと なおと)
1964(昭和39)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。博報堂に入社後、コピーライター、研究開発、人事局での若手育成などを経て、2004年退職、独立。著書に『売れないのは誰のせい?』など。青山学院大学講師。

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'07-'09年にかけての労働者の置かれている現場の状況を改めて俯瞰する。

ルポ雇用劣化不況.jpg 『ルポ 雇用劣化不況 (岩波新書)』 ['09年] 竹信 三恵子.jpg 竹信 三恵子 氏(朝日新聞編集委員)

 著者は朝日新聞の編集委員で、長年にわたり労働問題を追い続けている人ですが、本書は規制緩和の後押しを受け悪化する非正社員・正社員の労働環境の現場をルポルタージュしたもの。
 '08年3月から5月にかけて朝日新聞に9回に渡って連載された「現場が壊れる」という企画記事がベースになっていますが、1年後の'09年4月の刊行ということで、'08年9月に起きたリーマン・ブラザーズの破綻に端を発する金融恐慌と世界経済の衰退に伴う国内の雇用情勢の悪化に関することも加筆修正の際に織り込まれ、結果としてタイムリーな出版となっています。

 序章・終章を除いて6章の構成で、第1章にある「派遣切り」と言われる問題などは、まさにリーマン・ショック以降、顕著なものとして注目された問題ですが、本書によれば、以前から自動車メーカーにとって派遣労働は「人間のカンバン方式」と呼ばれていたとか。
 派遣労働者には携帯メールで登録した人も多く、派遣会社の所在地も知らず、雇用保険の手続きもままならない、それでいて住居を追い出されてホームレスになれば、住所不定で再就職も出来ないという情況を伝えています。

現場が壊れる.jpg 第2章で派遣・請負に伴ってありがちな「労災隠し」(労災飛ばし)の問題を、第3章で正社員の削減等により様々なしわ寄せを受けるパート・派遣労働者の労働環境の問題を扱っていますが、この辺りは以前からマスコミなどでよく報道されており、但し、旅行業界の添乗員は「美空ひばり」タイプより「モーニング娘。」タイプ-要するに細かいサービスが出来るベテランよりも入れ替え可能な臨時雇用が求められているという現況は新たに知りました(この部分は内容的にはほぼ新聞記事の再掲のようだが...)。

2008.3.21朝日新聞(朝刊)

 結局、こうしたことのツケは利用者に回っているのだとういうこの章での著者の指摘は、考えさせられるものがありました。

 第4章で扱っている非常勤公務員などの「官製ワーキングプア」問題や第5章の「名ばかり正社員」問題は多くの人にとって目新しいかも。 
 「名ばかり正社員」の問題は「名ばかり管理職」とパラレルなのですが、「非正社員=ワーキングプア」というイメージから逃れるため若年社員の間で広がっており、かつて正社員と言われた人ほどに雇用保障があるわけでもなく、一方で非正社員のリーダー役として利用されているという...ひどい話。

 第6章では労働組合の現況を取材していますが、企業内組合の中には「御用組合」化しているものもやはりあるのだなあと。これからは個人加入のユニオンなどが本来の組合的役割を担っていくのかなあという気がしました。

 同じ岩波新書の『ルポ解雇』(島本慈子著/'03年)、『働きすぎの時代』(森岡孝二著/'05年)、『労働ダンピング』(中野麻美著/'06年)、『反貧困』(湯浅誠著/'08年)などの流れにある本ですが、解決策を提示するよりもルポそのものに重点が置かれているため、'07-'09年にかけての労働問題、労働者の置かれている現場の状況などを改めて俯瞰するうえでは悪くないものの、新聞をまとめ読みしているような感じも。

 本書『ルポ雇用劣化不況』は、労働ジャーナリストらが選ぶ「2010年日本労働ペンクラブ賞」を受賞しました。

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「●講談社現代新書」の インデックッスへ

さほど目新しさが感じらず、むしろ、テレビって簡単には変われないのかも、とも。

テレビ進化論.jpg 『テレビ進化論 (講談社現代新書 1938)』 ['08年]

 梅田望夫氏の『ウェブ進化論』('06年/ちくま新書)を模したようなタイトルで、本書の方もそれなりに売れたようですが、内容的にはさほど目新しさが感じられませんでした。

 コンテンツ・ビジネスの現状を、最近のトピックス(かなり瑣末なものも含まれているように思える)を織り交ぜ、「再確認」的な意味でわかり易く取り纏めてはいるものの、最近の動向や現状分析が主体で、主テーマであるはずのテレビの「今後」ということに関してはやや漠としており、角川が昔やったメディアミックス戦略(出版・TVと広告と芸能キャラクターの複合戦略)に注目していたりしますが、これって、多かれ少なかれ今はどこの局でも(NHKですら)やっていることではないかと。

 一見、「ギョーカイ」人が語るメディアの未来像みたいなムードを漂わせていますが、著者は最近まで経済産業省の官僚であった人で、TV局や映画会社など映像メディアの流通・配信に関わる産業が、いかに過去の因習やインフラ整備に係る法的な規制に縛られているかという「業界」内の産業構造の問題点が重点的に指摘されており、電波事業は郵政省の許認可及び監督事業であるわけですが、経済産業省にもメディアコンテンツ課というのがあり(著者はかつてここに勤務していた)、やはり人は自分の得意分野のことしか書けないということか、とも思ったりしました。

 但し、グーグルのビジネス技法の特徴を「直接収益のように単一の受益者に金銭対価を要求するのではなく、複数の受益者を想定し、ある受益者には無償で利益を与え、そこから、獲得した情報と引き換えに別の受益者から金銭を回収するというやり方」だとし(これも言わば"再確認"事項に過ぎないが)、こうした「情報の三角貿易」を映像ビジネス世界でも模索する動きがあるというのには関心を持ちました。

 ただ全体としては、ウェブの世界でアルゴリズム化されたOne To Oneマーケティングが進む中、テレビの方はそう簡単には変われないのではないか(「地デジ」にしても、郵政族議員の利権の上に進められているのであって、そうした双方向効果が具体的に見えているわけではない)という思いを、本書を読むことで更に強くしました。

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「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「HEROES」)

「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ。

パラダイス鎖国.jpgパラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書)』['08年]海部 美知.jpg 海部 美知 氏(帯の写真は梅田望夫氏と池田信夫氏)

 「日本人は海外に行きたくなくなったし、海外のことに興味がなくなった」のではというのは、確かに言えているかも。
 本田技研に総合職一期生として就職後、米国に留学し、現在シリコンバレーで通信・IT事業に関するコンサルタントをしている著者は、こうした「自国が住みやすくなりすぎ、外国のことに興味を持つ必要がなくなってしまった状態」を「パラダイス鎖国」と呼び、これは個人レベルに止まらず、産業レベル、例えば自らが携わった携帯端末事業などにおいても、ほどほどに大きい日本市場に安住して囲い込み競争を続けているうちに世界市場にとり残されることになったような状況が見られるとしています。

 著者は、'05年の日本での夏休みの後、米国に戻った際に、日本人は「誰も強制していないけれど、住み心地のいい自国に自発的に閉じこもる」ようになったのではないかと感じ、そのことを自らのブログ「Tech Mom from Silicon Valley」に綴った際に用いた言葉が、この「パラダイス鎖国」。
 これが、翌年「月刊アスキー」編集部の目にとまり、更に2年を経て、新書として刊行されることになったという点では「ブログ本」だとも言えますが、「パラダイス鎖国を、国家とか全産業とかのレベルでどうすべきだ、なんぞという大きな話は私にはよくわからない」とブログで述べていた当初に比べると、本書では「パラダイス鎖国・産業編」という章を設け、産業統計を用いて自己の考えを検証するなどし、「ブログ本」によく見られるブログ記事を引き写しただけのような安直さ、読みにくさはありませんでした。

 著者は自らのブログで、携帯端末に関して日本の企業は、いかに大きいといっても日本市場しか相手にしておらず、特に日本ではメーカーの数が多すぎて世界で売っているメーカーと比べてスケールも違いすぎ、一方海外の安い端末は日本のあまりに進んだ市場に合わず、そのため日本で普及している製品は皆コスト高となっている、こうした状況がユーザーに割高な使用料を強いていることを指摘していましたが、すでに料金システムの見直しや端末メーカーの撤退が始まっている...。
 こうした著者の経験分野に近いところの話は(ブログと内容は重複するものの)シズル感を持って読むことができましたが、統計数字を用いた貿易収支の話などは、経済白書を読まされているような印象も。

 「パラダイス鎖国」を脱するための問題解決の提言が抽象レベルに止まっているのもやや不満で、最後は、まだキャリアの入り口にいるような人に向けての"もっと視野を拡げよう"的「啓蒙書」になった感じ。
 但し、そのことを割り引いても、個人の意識レベルの問題と産業レベルの問題を「パラダイス鎖国」という概念で貫いて示した点は評価できると思いました(「目からウロコ」と言うより、もやっと感じていたものをスッキリと表現したという感じ)。

ヒロ・ナカムラ.jpg 個人的には、「HEROES/ヒーローズ」のマシ・オカ演ずるヒロ・ナカムラの描き方について、「日本人の記号」を装飾しているが、中身は「普通の人」として描かれているとし、「パラダイス鎖国」の裏側で、アメリカ人から見た日本人の姿もまた変化してきているとしている点などはナルホドと思わされました(但し、ヒロ・ナカムラ像は、英語を母国語としながらも、流暢な日本語とブロークンの英語を操るマシ・オカこと岡政偉(おか まさのり)の異才に依るところ大のように思う。彼は頑張っているのだが、ドラマ自体は、共同脚本の常でストーリーが破綻気味であり、観ているうちにだんだん訳がわからなくなってきた)。

HEROES ヒーローズ.jpg「HEROES」HEROES (NBC 2006~2010) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2007/10~2011/10)/日本テレビ

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またまたタイトルずれ? 特殊な人だけ拾っても...。

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 
若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]

 『若者はなぜ3年で辞めるのか』('06年/光文社新書)の続編と思われますが、今度は〈ちくま新書〉からの刊行で、〈webちくま〉の連載に加筆修正して新書化したものとのこと。

 前著では、「年功序列」を日本企業に未だにのさばる「昭和的価値観」としていて、そこから企業のとるべき施策が語られるのかと思いきや、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけて終わっていましたが、本書では、実際にそうして企業を辞め、独立なり転職なりした、著者が言うところの「平成的価値観」で自らのキャリアを切り拓いた人達を取材しています。

 ですから、タイトルからすると労働問題の分析・指摘型の内容かと思われたのですが、後から書き加えたと思われる部分にそうした要素はあったものの、実際には、どちらかというと働き方、キャリアの問題を扱っていると言えるかも知れず、こちらも少しずつタイトルずれしているような気が...。

 紹介されている人の全てがそうだとも言えないけれど、(著者同様に)高学歴でもって世で一流と言われる企業に勤め、業界のトップの雰囲気や先端のノウハウに触れた上で起業なり独立なりを果たした人が中心的に取り上げられているような気がし、同じ「若者」といっても産業社会の下層で最初からそうしたものに触れる機会の無かった人のことは最初から眼中にないような印象を受けました。

 こうした特殊な人ばかり取り上げて(その方向性の散漫さも目につく)、「辞めた若者」の一般的な実態には迫っていないんじゃないかなという気がしますが、転職に失敗した人に対しては、前著『若者はなぜ3年で辞めるのか』にある"羊 vs.狼"論で、「彼ら"転職後悔組"に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも『組織から与えられる役割』である点だ。言葉を換えるなら、『もっとマシな義務を与えてくれ』ということになる。動機の根元が内部ではなく外部に存在するという点で、彼らは狼たちと決定的に異なるのだ」と既にバッサリ斬ってしまっていたわけです。

 元々著者自身が、企業の中で学習機会に恵まれた環境のもと大事に育てられた人なわけで、この人が「キャリア塾」的な活動をするとすれば、対象としては大企業に今いて一応レールに乗っかっている人に限られるのではないかと思われ、個人的にはそうした活動よりも、企業向けのコンサルティング的提言をしていく方がこの人には向いているのではないかと、老婆心ながらも思いました(『内側から見た富士通-「成果主義」の崩壊』('04年/光文社ペーパーバックス)は悪い本ではなかった。むしろ、大いに勉強になった)。

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タイトルずれしている。分析・批判はともかく、著者の"立ち位置"がわかりにくい。

若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg 
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]

 『日本型「成果主義」の可能性』('05年/東洋経済新報社)に続く著者の本でこのタイトルであったために、企業がとるべき人材引き止め策(リテンション戦略)について書かれたものだと思ってしまったのですが、「年功序列」を未だに日本企業の根底にのさばる「昭和的価値観」と規定したところで終わってしまっていて、何かそれに対する改善策が提示されているわけでないため、人材マネジメントに関する本ではなく、労働経済問題を社会学的な見地から指摘した類の本だったのかなと。

 それにしてはデータ的な裏付けがさほど無いままに著者の主観ばかりが先行しているようで、終わりの方では若者に向けて、そうした「昭和的価値観」に捉われている企業から脱出するように呼びかけているような内容であるため、著者の"立ち位置"というか、本書を通して何を言わんとしているのかが今ひとつ分りにくく、少なくともタイトルからは"肩透かし"的印象を抱かざるを得ませんでした。

 著者の言うように、年功序列のレールは90年代前半の時点で大方の企業で崩壊の兆しを見せており、成果主義の導入によってより顕著になったわけで、分析・批判そのものは必ずしも的を射ていないわけではないですが、平成不況下でも年功序列の負の遺産だけが残り、若者達にとっては企業に勤め続けても明るい未来は約束されていないというある種の閉塞状況があるという指摘や(それが本書ではやや端的に語られ過ぎている気がするが)、或いは「"席を譲らない老人"と"席に座れない若者"」といった世代間格差的な捉え方は、玄田有史氏の『仕事の中の曖昧な不安―揺れる若年の現在』('01年/中央公論新社)などとほぼ重なるように思えます(5年前に他の人が指摘済みのこととなると新味は薄い)。

 繰り返しになりますが、本書ではそこからの企業のとるべき施策が語られているわけではなく、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけていて、そのためには自分なりの確固たる価値観を持たねばならないとかいった感じで、ああ、「キャリア塾」みたいなこと、やろうとしているのかな、この人は、と思った次第。
 続編の『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』('08年/ちくま新書)は、そんな感じの内容らしいし...。

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パート労働法の改正を見越したような内容。効果的人材活用を制度として推進するという考え方。

I「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!8.jpg「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!.jpg 『「パート・アルバイト・派遣の使い方」ここが間違いです!』 ['06年/かんき出版]

 パート・アルバイト・派遣社員の雇用・労務管理について社会保険労務士がQ&A方式に纏めたもので(全81問)、社会保険に関しても解り易く解説されていますが、それだけでなく、むしろ1:2ぐらいの比率で労働基準法を中心に労働法全般に関わることに重点が置かれていて、採用から退職までの労務管理から賃金その他処遇等の人事管理全般にまでトータルに解説されているのが特長です。

 '08年4月施行の改正パート労働法の2年前に刊行された本ですが、パート・アルバイト・派遣社員の効果的な人材の活用に繋がる雇用改善を社内制度として推し進めるという考え方が全般を通して貫かれていて、具体的な施策の提示も含めたQ&Aも幾つか用意されており、まるで予めパート労働法の法改正を見込んだような内容になっています。

 法的な義務があるものについてはそのように明記する一方、「法的な義務ではないが、労使トラブルを回避するためにはこうした方が望ましい」、更に、パート・アルバイト等のモチベーションを喚起するためにはこうしたことが「望まれます」といった言い方が多くされているのが、弁護士などが書いた本とは異なる点でしょうか。

 「家計補助的な理由で働いている」から「家計補助的な就労意欲だろう」、だから時給を安く設定していいかという問いに対し、同一労働同一賃金の原則を以ってきっちり回答していたりして、企業内の人事担当者だけでなくコンサルタント側にも経営者の考えに靡いてしまい、自分の中でこうした抵触する怖れのある法律との関連が弱くなってしまっているケースがままあることを思えば、読んでいて襟を正したくなるような思いも。

 「1日6時間勤務のパートが配偶者の被扶養者になることを望んでいるが社会保険は入れなくてよいか」とか、「昼間部の学生に毎晩勤務させている場合、雇用保険はどうなるか」とか、「配達されるお弁当代を給与から引いていいか」とか、それぞれ、健康保険法、雇用保険法、労働基準法に関わる問題ですが、そうしたことが大いにありそうだなあというリアルな事例で設問が構成されています。

 非正規雇用の全労働者数に占める割合は'08年で約35%、殆どの会社に非正規社員がいるわけで、まさに「総務部・店長必携」と言える本かも(逆に、コンサルタント側は、本書に書かれている事は社会保険関連も含め全て押さえておきたいところ)。

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改正法の緩さ・曖昧さが浮き彫りに? 今しばらくの間はお世話になりそうな本。

Q&A 65歳雇用延長の法律実務5.JPGQ&A65歳雇用延長の法律実務.jpgQ&A65歳雇用延長の法律実務 (スタッフアドバイザーライブラリ)』 ['05年/税務研究会出版局]

 65歳定年に向けた高年齢雇用安定法の改正('06年4月施行)に先駆けて、その前年末に刊行された本ですが、早期の刊行にも関わらず、法改正の内容解説だけでなく雇用確保措置の義務化に伴い起こりうる様々な問題についてQ&A方式で解説されていて(全80問)、また規定例なども備わっています。

 本書を読んでいると、この法改正にはかなり"緩い"部分があるように思えます(企業側から見れば"柔軟性がある"とも言えるが)。

 改正に沿った高齢者の雇用延長制度の導入に関しては、当初大企業が先行し中小企業はやや遅れ気味だったのが、'08年末時点では中小企業も大方が対応済みのようであるようですが、大企業・中小企業とも殆どが「定年延長」ではなく「継続雇用制度」(定年再雇用制度)という形での対応となっています。

 そこで、本書の「Q49」にあるような、「1年の有期雇用」はどんなことがあっても更新しなければならないのか」といった問いが出てくるわけで、年齢要件以外の理由があれば「どんなことがあっても更新しなければならない」とまでは言えないという、結局、「雇用確保」の趣旨よりも「有期雇用」の論理の方が優先されてしまう―そのことが、急激な雇用劣化不況の到来に際しては、改正法の形骸化をいやおう無く引き起こすということが目に見えるようです。

 更にこの法改正を巡っては曖昧さも多々あり、特例措置に沿って「労使協議が整わなかった」として労使協定の代わりに就業規則で継続雇用の定めをした企業も多いと思われますが、3年または5年の特例措置の期間が切れた場合、「Q55」にあるように、「就業規則にあるにもかかわらず、労使協定を締結する必要があるか」という疑問が生じざるを得ません。

 この問題について筆者は、労使協定を継続雇用制度の「存続要件」であるとすれば、今ある基準は期間満了とともに無効になり、速やかに労使協定を結ぶ必要が生じるが、労使協定はあくまでも継続雇用制度を「導入するための要件」存続要件に過ぎず、特例期間については就業規則で実施できるというのに過ぎなのであれば、3年または5年の特例措置の期間が切れても就業規則は有効であるとしていて、一体どっちなのかと言いたくなりますが、改正法施行の時点ではこう書くに留まらざるを得なかっただろうし、現時点でもこの曖昧さは残されているように思います。

 ということで、今しばらくの間はお世話になりそうな本です。

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人事担当者や一通り労働法を学習した人が復習用に読むにはいいか。

労働契約の実務1.JPG労働契約の実務. 浅井隆.jpg                労働契約法入門 山川隆一.jpg
浅井 隆 『労働契約の実務 (日経文庫)』 〔'08年〕/山川隆一『労働契約法入門 (日経文庫)』 〔'08年〕

 労働契約に関する入門書で、労働契約の開始から終了までの展開について実務に沿って解説されており、内容もきめ細かいです。但し、あくまでも新書レベルなので、1つ1つの項目の解説がややあっさりし過ぎていて、全体としてこの文庫にありがちな項目主義に陥っている感じもします。

 著者は法律事務所に所属する弁護士で、労務行政の『労働法実務相談シリーズ』で「労使協定・就業規則・労務管理Q&A」の巻を担当執筆していますが、人事専門誌のQ&Aコーナーにもよく書いている人で、さすがに纏め方そのものは解り易く、人事担当者や一通り労働法を学習した人が復習用に通勤・通学の電車の行き帰りで読むのにちょうどいいかなという感じですが、それでも初学者が入門書として読むとなると、この詰め込み過ぎはちょっとキツイかも。

 本書は'08年3月に施行された労働契約法にも対応しているとのことですが、対応しているというだけであって労働契約法について詳しく述べられているわけではなく、同時期に刊行された大学教授による『労働契約法入門』('08年/日経文庫)がどういうわけかこちらも(タイトルに反して)労働契約法自体の解説はあっさりしていて後は労働法全般の解説になっており本書と内容的に大いに重なっているため、これは「弁護士」と「大学の先生」という立場の違う著者に敢えて似たようなテーマで書いて貰って、読者に両方買わせようという魂胆なのかなと勘繰りたくなってしまいます(だとしたら、自分はその魂胆にハマってしまったのだが)。

 帯に「人事担当者必携!」とあるように、「実務」と謳っている分、内容的には『労働契約法入門』よりは実務向きと言えるかも知れません。

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労働法全般の入門書として読めるが、「労働契約法」にもっと的を絞って欲しかった。

労働契約法入門2.JPG労働契約法入門 山川隆一.jpg労働契約法入門 (日経文庫)』 〔'08年〕

 法科大学院の教授による労働契約法についての解説書ということで、パート労働法や男女雇用機会均等法など関連する法令や最新の判例なども取り上げているとのことですが、要するに労働条件の決め方や労働契約の終了等、労働契約全般の解説書となっており、また賃金や労働時間についても労働基準法の基本部分を1つ1つ押さえているため、中身としては労働基準法を中心とした労働法全般の解説書といった感じでしょうか。

 大学の先生らしく、労働契約法成立の背景から最近の人事の動向までも踏まえるなど視野的には広く、且つ解り易い言葉で書かれており、その上で実務にも沿った形にはなってはいますが、網羅的である分、労働基準法等の細部の解説においては物足りなさも感じられました。

 結果として、同時期に刊行された『労働契約の実務』('08年/日経文庫)とかなり内容が重なっているような感じで、'08年3月に施行された労働契約法について書かれたものの中では比較的早く刊行された解説書であるため期待したのですが、その部分では期待はずれでした。

 第3章の「労働契約の基本理念と労働条件の決定・変更」が最も労働契約法に直接的に関わる部分かと思われますが、全8章のうちの1つに収められていて、「合意原則」と「合理性」の関係においてやや複雑な就業規則の不利益変更問題や、就業規則で定める基準に達しない労働契約の扱いなどについては、本当にさらっと触れているだけという感じ。

 ただ、労働法の基本部分を押さえるための入門書として見れば、コンパクトにきっちり纏まっている本で、『労働契約の実務』の方が本書以上に詰め込み過ぎのような感じもあるので、実務面での入門書として併読し、法の前提となる部分に関する知識や理解の至らないところを補完し合えばいいのかなと。
 そうであるにしても、このタイトルであるならば「労働契約法」にもっと的を絞って欲しかった気がします。

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楽しく読めて、商法や会社法の考え方を大筋で知る上では、今でも役立つ。

I商法入門.jpg商法入門/佐賀潜.jpg 『商法入門』 改版版 民法入門.jpg民法入門―金と女で失敗しないために (1967年) (カッパ・ビジネス)
商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために (1967年)

 佐賀潜の法律入門書シリーズの1冊であり、学生時代に法律を勉強したことが無かった自分には、例えば、商法における「商人」とは何かについて、「売春婦は商人ではないが、売春宿の主人は商人である」といった説明の仕方で入る点などは興味を引かれるとともに、条文解釈が懇切丁寧で、全体を通して非常にわかり易かったです。

 今は別立ての法律となっている会社法の部分が含まれており、株式会社とは何か、取締役とは何かといったことのアウトラインも掴め、細部は法改正などで変わっている部分もありますが、商法や会社法の考え方を大筋で知るための入門書としては、今でも役立つのではないでしょうか。

 社長は取締役を解任できないが、「取締役の過半数が結託すれば、社長をクビにできる」などといったことは、本書で初めて知りましたが、その後、三越の岡田社長解任劇など、そうしたことが本当に起きるような時代になっていきました。取締役は原則として労働基準法ではなく商法(会社法)の適用を受けるので、企業法務に携わる仕事をする人にとっては、商法(会社法)の知識は必須のものと言えるでしょう。

佐賀潜.jpg 佐賀潜(1914‐1970/享年56)は、中央大学法学部在学中に司法試験に合格し、検事として活躍した後、弁護士に転じた、所謂"ヤメ検"でした(最近では 大澤孝征弁護士・元東京地検検事などがそう)。護士時代もやり手だったようで、それでいて、推理作家としても華々しいデビューをし、多くの娯楽作品を手掛けた人で、佐賀県出身ですが、ペンネームは、その"佐賀"に「犯人をなかなか"捜せん"」を懸けたものです。

民法入門02.jpg この作家の、小説ではないところの「法律シリーズ」は、『民法入門-金と女で失敗しないために』(これもかなり面白い。お薦め!)、『刑法入門-臭い飯を食わないために』が'68(昭和43)年にベストセラー2位と3位になったほか、『商法入門』、『道路交通法』も同年の7位と9位にランクインしていて、これはかなりスゴイことではないでしょうか。

商法入門1.jpg 表紙カバーの推薦の辞を、『商法入門』が作家の梶山李之、『民法入門』が経済評論家の三鬼陽之助が担当しているのも、時代を感じさせます(佐賀潜自身は、三島由紀夫の『葉隠入門』('67年/光文社カッパブックス)に推薦の辞を寄せている)。

 【1974年・1986改版/1990年新版[カッパビジネス『新版 商法入門―安全・確実に儲けるために』]】

《読書MEMO》
●1968年(昭和43年)ベストセラー
1.『人間革命(4)』池田大作(聖教新聞社)
2.『民法入門―金と女で失敗しないために』佐賀 潜(光文社)
3.『刑法入門―臭い飯を食わないために』佐賀 潜(光文社)
4・『竜馬がゆく(1~5)』司馬遼太郎(文藝春秋)
5.『頭の体操(4)』多湖輝(光文社)
6.『どくとるマンボウ青春記』北杜夫(中央公論社)
7.『商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』佐賀 潜(光文社)
8.『愛(愛する愛と愛される愛) 』御木徳近(ベストセラーズ)
9・『道路交通法入門―お巡りさんにドヤされないために』佐賀 潜(光文社)
10.『Dの複合』松本清張(光文社)

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社員同士の協力関係を、役割構造、評価情報、インセンティブの3つで捉える。

不機嫌な職場―なぜ社員同士で協力できないのか.jpg不機嫌な職場―2044.jpg不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)』 ['08年]

 なかなか惹きつけるタイトルで、こういう場合、読んでみたら通り一遍のことしか書いてない紋切り型の"啓蒙書"だったりしてガッカリさせられることがままありますが、この本は悪くなかったです。但し、やはり基本的には(いい意味での)"啓蒙書"であり、読んで終わってしまってはダメで、書かれていることで自分が納得したことを、常に意識し、実践しなければならないのでしょう。

 社員同士での協力関係が生まれないために、職場がギスギスして、生産性も向上せず、ヤル気のある人から辞めていく―こうした協力関係阻害の要因を、役割構造、評価情報、インセンティブという3つのフレームで捉えた第2章(ワトソンワイアット・永田稔氏執筆)が、特にわかり易く、また、頷ける点が多かったです。

 特に、「役割構造」の変化について、従来の日本企業の特徴であった、会社で仕事をする際に決められる「仕事の範囲」の「緩さ・曖昧さ」が協力行動を促すことにも繋がっていたことを指摘しているのには頷けて(但し、フリーライド、つまり、仕事してないのに仕事しているように見せる"ただ乗り"を許すことにも繋がっていた)、それが、成果主義が導入されると、今度は、個々は自分の仕事のことしか考えず、外からは、誰が何をしているのかよくわからなくなって、仕事が「タコツボ化」していると―。

 それが、組織力の弱体化に繋がるとしているわけですが、これは、成果主義の弊害としてよく言われることであるものの、併せて、個々の仕事が高度化していることも、仕事が「タコツボ化」する要因として挙げているのには、確かにその通りかもしれないと思いました。

 このことは、続く、インフォーマル・コミユニケーションを通じての社員同士の「評価情報」の共有化がもたらす効果や、金銭的報酬以外の、社内や仕事仲間の間での承認願望の充足がもたらす「インセンティブ」効果という話に、スムーズに繋がっているように思えました。

 「仕事の高度化」ということで言えば、IT企業などは正にそうでしょうが、第4章で、組織活性化に成功している企業の事例が3社あり、その内2社は、グーグルとサイバーエージェントです。
 両社の組織活性化施策は、人事専門誌などでは、もうお馴染みの事例となっていますが、本書におけるそれまでの繋がりの中で読んでみると、改めて新鮮でした。

 ワトソンワイアットは、外資系の中では日本企業の人事制度構築に定評のあるファームですが、日本での強さのベースには、組織心理学に重きを置いている点にあるのかも。

《読書MEMO》
●八重洲ブックセンター八重洲本店 公式Twitterより(2018年5月21日)
【1階】講談社現代新書『不機嫌な職場』あなたの職場がギスギスしている本当の理由。社内の人間関係を改善する具体的な方法をグーグルなどの事例もあげて解説。
不機嫌な職場』se.jpg

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オーソドックスだが、やや印象度が弱い。「技術書」と言うより「啓蒙書」?

威厳の技術 [上司編]ド.jpg威厳の技術.jpg威厳の技術 上司編 (幻冬舎新書)』 ['09年]  「人望」とはスキルである.jpg 伊東 明 『「人望」とはスキルである』 カッパ・ブックス 〔'03年〕

 以前に『「人望」とはスキルである』('03年/カッパブックス)という本を読み、結局「人望」は「スキル」で磨くことができるということを言っており、部下マネジメント、コーチングについて述べた本であったことが読んでから分かったのですが、「人望」という言葉の使い方に違和感というか、いやらしさのようのものを感じてしまいました。

 本書では冒頭で、マネジメントはセンスや才能ではなく、技術(スキル)であると言っており、本書での「威厳」というのは、前掲書と同じように部下マネジメント力、コーチング力を指していると思われますが、端的に言えば「部下になめられないこと」といった感じでしょうか。
 「威厳」という言葉にもやや違和感を覚えなくもないですが、こちらの言葉の使い方の方が、「人望」というより言葉的にはまだしっくりくるような...(最初にタイトルの言葉の使い方がわかる書き方をしているということもあるが...。それに、「人望」というと、コーチングよりメンタリング的なニュアンスに近いのではないか)。

 本文は「怖れを身に付ける」「部下を丸ごと知る」「本音でぶつかる」「リスクを背負う」「期待し、任せる」「叱り、ほめる」「守り、育てる」の8章からなり、例えば第1章の「怖れを身に付ける」ためにどうしたらよいかとして、①朝一番で出社する、②部下の名前をフルネームで書く、③自分の時間はすべて部下のための時間と考える、④ブレない判断の4つを挙げていますが、頷ける面はある一方、これって「技術」なの?という気も。
 序章の最後では、「最後の最後に、上司を上司たらしめるのは、腹のくくり方である」とも言っており、啓蒙書的要素を多分に含んだ本という印象を受けました(啓蒙書的な本でも読んでそれなり得るところはあると思うが)。

 著者は、大学卒業後リクルートに入社して人事課長を経験後、「週刊ビーイング」などの編集長を歴任、その後キネマ旬報社代表取締役を経て、現在プラネットファイブという会社の代表取締役をしている人。
 リクルートという会社でそれなりの経験もあり(年齢も50歳)、組織やチームを活性化させるための条件やモチベーション向上についての記述は極めてオーソドックスであり、また、ケースを挙げての部下の叱り方、ほめ方などについては、実際の自分の経験の裏打ちも感じ取れ、そうした意味では好感が持て、それなりの説得力もありました。

 ただ、あまりにオーソドックスで、やや印象度が弱いかなあ、目新しさに乏しいと言うか...。
 最近のコーチング理論では、従来の「上司-部下」という脇組みそのものを排除しようという傾向がありますが、本書は、完全に旧来の「上司-部下」関係というものを前提にし、その延長線上で、雇用の流動化によって弱くなっている「上司の威厳」をいかにして"回復"させるかということがテーゼとなっているようです。

 △評価はあくまで個人的なもので、部下マネジメントの基本を押さえる(整理する)、或いは、上司たる人が自分を振り返るという意味では、そんなに悪い本ではなかったかも知れません。

《読書MEMO》
●活性化したチームに必要な6つの条件(90p)
 ① メンバーの存在
 ② 目指すべき目標
 ③ コミュニケーション
 ④ リーダーシップ
 ⑤ マネジメント
 ⑥ モチベーション
●部下のモチベーションを上げる3原則 (204p)
 ① 目標の共有
 ② 情報の共有
 ③ 権限委譲

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個人の問題より組織(風土)の問題であることも少なからずあるのではないか。

デキる上司は休暇が長い.jpgデキる上司は休暇が長い』 (2008/08 あさ出版) デキる上司は定時に帰る.jpg ['06年]

 著者の前著『デキる上司は定時に帰る』('06年/あさ出版)は、「デキる上司」とはどういう人かということが一般論的に書かれていて、タイトルの「定時に帰る」はその現象面の1つに過ぎず、そのことについて深く突っ込んで書かれているわけではありませんでしたが、それに比べると本書は、上司が長期の休暇を取ることの効用が全般に渡って述べられていて、その点では、タイトルからハズレた内容ではありませんでした。

 要するに「エンパワーメント(権限委譲)」が部下を育てるという論旨で、それを、ヘッドハンターとして多くの会社とその中で働く人を見てきた自らの経験から、「定時に帰るのがデキる上司である」としているわけですが、その意図はよくわかるものの、個人的には、世の中の全ての会社の実態として果たしてそう言い切れるかなあとも思いました。

 確かに、個人的に仕事を自ら抱え込んで、それが部下の育成を疎外しているケースは枚挙に暇が無いかと思いますが、業務の広がりやスピード、専門性の変化が激しい昨今、ましてや年長者や非正社員など、部下および働き方の多様化が進む中で、後輩が少なく、人をマネジメントしたり育成したりする経験が少ないまま管理職になってしまったような人に負担がかかるのは、これは、リーダーシップというよりメンバーシップ、「個人」より「組織」の問題であることが少なからずあるような気がします。

 「エンパワーメント(権限委譲)」の重要性に異議を唱えるわけではないですが、ジャン=フランソワ・マンゾーニが『よい上司ほど部下をダメにする』 ('05年/講談社)の中で権限委譲ができない上司のことを言っていた「失敗おぜん立て症候群」という言葉の方が、まだ本質を指摘してインパクトがあったような気がします。

 ただ「休め」と言われても、成果主義のもとで結果を出さないと評価されないという立場に追い込まれている中間管理職が本書を読んで、現実と乖離の大きさのため、あまりピンとこないのではないかなあ。
 むしろ、「休む」ことを義務化して評価要素の1つとしない限りは変わらないような、そうした組織風土の会社も多くあるということを、著者はどのぐらい認識しているのでしょうか。

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部下のモチベーションをどうやって維持するかがテーマ。管理職初級レベルの啓蒙書?

上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?.jpg 上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか.jpg
上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか? (Nanaブックス)』['08年/ナナ・コーポレート・コミュニケーション]

 「上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか」って、それはそういうものでしょう。社員が上司に辞める話をする時は、既に大方辞める決断をしているわけで、その時には辞表も既に書き終えているというのが往々にしてありがちな事ではないでしょうか。
上司にすれば青天の霹靂でも、周囲の方がむしろ傍目八目なのか、やっぱりという感じだったりすることもあります。

 本書は、リテンション(人材引き止め)について述べたものと言うより、部下のモチベーションをどうやって維持するか(勿論それが部下の人材の引き止めに繋がるのだが)ということに主眼を置いたもの言え、趣旨としては、大田肇氏の「承認欲求」論(部下の承認欲求を満たすことがモチベーション向上に繋がるという考え)を大体において踏襲しているように思えました。

 やさしく噛み砕いて書かれていて、「(部下のモチベーションを下げないために)部下をよくほめる」「つるし上げ会議から脱却する」「部下がしてほしいことを本当に把握できているのかを把握する」「取り組むべきテーマを決める」などといったことは1つ1つが尤もですが、当たり前と言えば当たり前のことで、あまり新味はありませんでした。

 「上司と部下の"評価の不一致"を正すことから始めよう」というのには大いに共感しましたが、このことも含めて、実際に本書に書かれていることをやるかやらないかということが問題であり、そうした意味では、管理職初級レベルの啓蒙書という感じでしょうか。

 問題上司というのは人格レベルの問題でもあったりし、そうした人はこのような本を読んでも本人自身は変わらなかったりして...(大体、そういう人はこうした本は読まないか?)。

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問題上司、問題部下をパーソナリティ障害という観点から分類。読み物としては面白いが...。

困った上司、はた迷惑な部下2.jpg困った上司、はた迷惑な部下.jpg困った上司、はた迷惑な部下 組織にはびこるパーソナリティ障害 (PHP新書)』['07年]

『困った上司、はた迷惑な部下』.jpg 職場にはびこる問題上司、問題部下を、パーソナリティ障害という観点から分類し、それぞれが上司である場合の対処法、部下である場合の扱い方を、それぞれ指南していて、分類は、各章ごとに次のようになっています。
 第1章 もっか増殖中の困った人びと(自己愛性、演技性、依存性)
 第2章 はた迷惑な攻撃系の人びと(反社会性、サディスト、拒絶性)
 第3章 パッとしない弱気な人びと(抑鬱性、自虐性、強迫性)
 第4章 意外な力を発揮する人びと(シゾイド性、回避性、中心性)
 第5章 やっぱり困った人びと(境界性、妄想性、失調型)

 現在の人格障害の国際基準は、DSMⅣの10分類ですが、本書では、DSMを監修したセオドア・ミロンが当初提唱した4カテゴリー(サディスト、自虐性、拒絶性、抑鬱性)を加え、更に「中心性」気質を加えており、これは大体この著者が用いる分類方法です。

 各性格の特徴は簡潔に述べるにとどめ、「俺に任せとけ」と調子のいいことを言い、その場限りに終わる演技性上司に対する対処法や、上司の言うことなら何でも聞いてしまう依存性部下の扱い方など、読み物として、まあまあ面白し、読む側にカタルシス効果もあるかも知れません(著者自身、自らの過去の職場での鬱憤を晴らすような感じで書いてる)。
 ただ、例えば、大物ぶって敬遠される自己愛性上司には、遠巻きにして勝手に歌わせておくか、おべっか言ってとりまきになるか、おだてて神輿に乗ってもらうかなどすればいいといった感じで、対応が何通りも示されている分、結局、どれを選べばいいのか?と思わせる箇所も。

 著者は最初、良心をかなぐり捨て、「読んだ人だけ得をしてください」というスタンスで本書を書いていたところ(サディスト的部下は、派閥争いの戦闘要員として使え、などは、確かにマキャベリズム的ではある)、初稿を見た編集者から「どういうタイプの性格にも長所がある、というメッセージが伝わってくる」と言われたとのこと。

 個人的にはむしろ、書かれているようにうまく事が運ぶかなあという気もしました。実際、うまく事が運ぶならば、「人格障害」と呼ぶほどのものでも無かったのでは...とか思ったりして。
 著者もあとがきでも述べているように、「人格障害未満」の人も含まれていて、先にビジネスパーソンの行動パターンありきで、そこに「人格障害」の類型を"類推"適用したような感じもあります("拡大"適用とも言える)。

 その結果でもあるのでしょうが、やはり15分類というのは多過ぎるような気もし、自分が人格障害に関する本を読んでいた流れで本書を手にしたこともあり、「人格障害」とはどういうものかをもう少しキッチリ知りたければ、同じPHP新書の『パーソナリティ障害-いかに接し、どう克服するか』(岡田尊司著/'04年)などの方が、内容的にはしっかりしているように思います。

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網羅的なマニュアル、精神論主体の啓蒙書の域に止まり、読後に残らない。

あなたの会社の評判を守る法.gifあなたの会社の評判を守る法 (講談社現代新書)』 ['07年]

 「コーポレート・レピュテーション」という概念を紹介していますが、レピュテーション(reputation)とは「評判」であり、「コーポレート・レピュテーション」とは、「企業人の判断・行動、発言に対して、消費者や投資家、取引先、ジャーナリズム、地域社会といった全てのステークホルダーが下す正または負の評価のこと」であると、本書では定義しています。

 冒頭に、「ブランド価値というのは、基本的にはその企業が提供する商品もしくはサービスに対する評価である」といった、いかにもマーケッターっぽい「ブランド・エクイティー戦略」の話などが出てきて、経歴を読まずとも、著者の出自が推し測れてしまいました(企業のマーティング部門から品質管理・市場対応部門に転属、その後、独立してコンサルタントに)。

 自らの体験に近いところで書かれているようで、「製品不良問題に対する市場対応」問題に話は集中していています(レピュテーションの対象とするものは、これに止まらないと思うが)。
 確かにこれだけでも、石油ファンヒーター、湯沸かし器から食品・菓子類まで、近年の製品事故の事例は枚挙に暇が無いわけで、そうした例を挙げながら、事故対応の問題点を指摘し、あるべき対応策を整理しています。
 但し、素材に新しさはあるけれども、内容的にはマニュアルを圧縮しただけの感じもして、特にハッとさせられるようなものなく、消費者関連法など法律面についても、限定的な紹介しかされていないように思えました。

 「会社の評判」は決して「金で買えるもの」ではないという趣旨は尤もですが、「全てがトップ次第」であると言いつつ、不祥事が起こった際、それに対して真摯に取り組んでいるかいないかは相手に伝わるものであり、「社員ひとり一人がステークホルダーに向き合え」とも言っており、結局、基本は網羅的なマニュアル書で、論説部分は精神論主体の啓蒙書の域に止まっています(読んで目から鱗が落ちたという人がいれば、そちらの方が問題)。

 レスリー・ゲインズ=ロス『「社長の評判」で会社を伸ばす』('06年/日本経済新聞社)ではないですが、受身的なマニュアル本や精神論主体の啓蒙書よりも、何か「決め打ち」的な戦略が示されているものの方が、読んだ後に残るものがあるように思いました。

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"目から鱗が..."というほどもものでもない。

会社の電気はいちいち消すな_1.jpg会社の電気はいちいち消すな.jpg
会社の電気はいちいち消すな (光文社新書)』 ['09年]

 「コスト削減」をテーマにした本で、肝は、サブタイトルの「コスト激減100の秘策」に呼応する、中盤・第3章の「節約術100連発」でしょうか。よくこれだけ網羅したものだなあと。
 但し、目を通し終えてみれば、それほど斬新なものは無かったような...。全くの素人ならともかく、例えば中堅企業の総務部長や庶務部長がこれを読んで、(チェックリストとして使えなくも無いが) "目から鱗が..."的な感想はまず抱かないのではないでしょうか。

 タイトルの「会社の電気はいちいち消すな」というのも、会議室などで「5分以上人がいないときは自然の消灯するセンサーをつける」ようにしなさいというテクニカルなことを言っているに過ぎず(これは「節約術100連発」には含まれていない)、「節約術100連発」の中では、パソコン、プリンターの電源は、「こまめにコンセントから抜くことが大切」と言っています。

 ホテルを舞台にした小説を素材にして、アウトソーシングや作業のカイゼン・効率化では利益はあがらず、決算書知識は役に立たないとして、薄利多売の意義を説いた第1章が最も興味深く読め、企業会計の勉強にもなりますが、事例の前提条件がやや粗っぽいか、或いは前提条件に対する説明が希薄だったりもし、そのことは「節約術100連発」にも言えるかと思います。
 さすがに、リース契約と買い取りではどちらがいいかを考察した3章の後半では、「前提なしでこれに答えることは難しい」と予め断っていますが。

 結局、財務的な観点から見れば、業務の実態等の状況に関わらずこれが絶対に良いと断言できるような施策は無い訳で、本全体としてはオーソドックスと言えばオーソドックスな内容、但し、個々についてそれが自社適合であるかどうかは自分で考えてください―といった感じでしょうか。

 コンサルタントとして現場で場数を踏んでいるのであれば、従業員をそうした節約キャンペーンにコミットさせていく動機付けのための手法などにもっとページを割いてもよかったのではないかと思いますが、著者の専門はどうやら「購買」であるようで、そうした仕事はあまりやっていないのかな。

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年齢基準の「定年制」の方が能力基準よりマシという見解自体に異論は無いが...。

いつでもクビ切り社会2.jpgいつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠 (文春新書)』['09年]森戸 英幸.jpg 森戸 英幸 氏

 「年齢差別から能力本位へ」という掛け声の下、「エイジフリー」の美名において「定年制廃止」を理想の雇用形態とするような議論が進んでいる事に対して、気鋭の労働法学者が疑問を呈した本、と言っても、肩肘張らず楽しみながら読める内容です。

企業年金の法と政策.jpg 著者の『企業年金の法と政策』('03年/有斐閣)は良書だったと思いますが、その中にもアメリカと日本の年金制度の違いが詳しく述べられていたように、本書においてもアメリカを始めとする欧米と日本の雇用及びその枠組みとなる社会の違いについて、時折ユーモアを交えて考察しています。

 途中まで「エイジフリー」社会の素晴らしさを讃えていますが、これが逆説的「前振り」であることは本のタイトルから容易に窺え、「いつ落とすか、いつ落とすか」という感じで読んでいました。
 その落としどころも、タイトルから解ってしまう訳で、推理小説ではないので、むしろ最初から著者の考えが解ってこの方がいいかも。

 玄田有史氏も『仕事のなかの曖昧な不安』('01年/中央公論新社)の中で「定年制廃止」に批判的でしたが(本書も参考文献を見る限りでは、慶応義塾大学の新塾長になった清家篤氏の「定年破壊」論がターゲットになっているようだ)、玄田氏はその理由として、定年制廃止が「既に雇われている人々の雇用機会を確保することにはなっても、新しく採用されようとする人から就業機会を奪うこと」になる怖れがあることを挙げており、一方、著者は本書において、定年が無くなれば解雇によってしか従業員を「退職させる」手段が無くなるため、人選の納得性などをどう担保するかが困難である点を指摘しています。

 この考え自体は、著者と同門である労働法学者の大内伸哉氏が『雇用社会の25の疑問』('07年/弘文館)でも言っていたような気がしますが、定年制という「制度」があるから人は納得して会社を去るのであり、「60歳になったらウチの会社ではまあ大体使い物にならないよね」という割り切りが対象者個々人に通じるかどうかという著者の投げかけは、大変解り易いものです。

 その上で、「エイジフリー」社会を目指すにはどうしなければならないか、「エイジフリー」社会が到来した際には働く側はどうしたらよいかといったことまで述べていますが、前半の欧米と日本の比較社会論のところでかなり「遊んだ」という感じ。

 その分楽しく読めたし、「エイジフリー」ということを考え直すという点では良かったのですが、肝心な結論の部分ではやはり、「年齢基準の方が能力基準よりマシである」という消極的選択の域を出ていないため、さほど新味は感じられませんでした(個人的にはその考えというか見通しそのものには異論は無いのだが)。

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面白かった。労働側弁護士の本だが、企業側が読んでもユニオン対策の参考書として使える?

人が壊れてゆく職場.jpg人が壊れてゆく職場 (光文社新書)』 ['08年] 笹山 尚人.jpg 笹山 尚人 氏 (弁護士/略歴下記)

人が壊れてゆく職場  .jpg 著者は1970年生まれの弁護士で、首都圏青年ユニオンの顧問でもあり、その著者が扱った案件の内から、名ばかり管理職の問題、給与の一方的減額、パワハラ、解雇、派遣社員の雇止めなどのテーマごとの典型的な事案を紹介し、相談者からどのような形で相談を受け、会社側とどのように交渉し、和解なり未払い賃金の回収なりに至ったかを書き記しています。

 要するに労働側弁護士が、ユニオンに寄せられた労働者の訴えを聞いて、ユニオンと協働してどのように企業側の横暴を暴いていったかというデモンストレーションの書ともとれなくもないですが、労働者はもっと労働組合を活用しようというのが本書の主たるメッセージの1つでもあり、こうした流れになるのは当然かも。

 労働者から相談を持ち込まれて、弁護士やユニオンがどのような対策をとるのか、その経緯や戦略がリアルに描かれているためかなり面白く読め、事実だから"リアル"なのは当然ですが、「よし、これはいける」とか「参ったな、これはまずいかも」などといった顧問弁護士として係争の見通しに対する感触が随所に吐露されているため、まるで小説を読んでいるみたいでした(顧問としての立場だから書ける部分もあり、ユニオンの人が書くとこうはならないのでは)。

 そうした点で、企業側が読んでも、ユニオン対策の参考書として使える部分もあるように思えたし(勿論、こうした事態に陥らないようにすることがそれ以前の話としては当然あるが)、労働法の趣旨や労働契約、就業規則の性質、労働審判の仕組み等についても、それぞれ係争の場面と照らしつつ具体的に解説されているので、実感を持って理解できるものとなっています。

 最初の方にある給与の一方的減額や上司が部下を殴り「顎に穴を空けた」(!)といったような事例は、会社側に非があることが自明の、且つ、かなり極端なケースにも思えましたが、係争案件として最も数の多いという「解雇」については、会社側の権利濫用を疎明するのが弁護士にとっても結構難しいケースもあることが窺え、労働者側が勤務期間を通じて完璧に清廉潔白であればともかく、中盤にある解雇の事例などもそうですが、訴える労働者側にも忠実義務に反する行為があったりすると、会社側はそこを突いてくる-そうした中で、いかに依頼人に有利な結果を導くかと言うのは弁護士の腕にかかっているのだなあと(何だかディベートの世界みたいだし、海外の法廷ドラマのようでもある)。

 ジョン・グリシャム原作の映画「依頼人」さながらに、1万円の着手金で派遣元から解雇された依頼人の仕事を受けた話などには著者の熱意を感じますが、これなども「感動物語」というより、和解に至る経緯とその事後譚が興味深かったです。

 一方、著者の言う労働組合活動の復興は、従来型の企業内組合ではなかなか難しいのではないかという気もし、結局はコミュニティ・ユニオンということになるのでしょうが、ユニオンの場合、労働者1人1人は、自らの案件が決着すると組合員であることを辞めるのが殆どのようで、その辺りはユニオンにとっても難しい問題ではないでしょうか(係争の間しか組合費が入らない)。
 結局、その結果ユニオンは、動いたなりの報酬を得なければというかなりタイトな経済原理のもとで活動している面があるように思われるのですが(その事は、労働者側の責に帰すべき部分が大きいと思われる場合には軽々しく介入しないということにも繋がっているのだが)。
 それは弁護士も同じかも。本書にある「着手金1万円」のケースも、解決金から報酬を得ればいいという見通しのもとで動いているわけで、こうした弁護士の本音に近い部分が書かれているという点でも、興味深い本でした。
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笹山 尚人 (ささやま なおと)
1970年北海道札幌市生まれ。1994年中央大学法学部卒業。2000年弁護士登録。第二東京弁護士会会員。東京法律事務所所属。弁護士登録以来、「ヨドバシカメラ事件」など、青年労働者、非正規雇用労働者の権利問題を中心に事件を担当している。共著に、『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)などがある。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第一章  管理職と残業代 ---- マクドナルド判決に続け
第二章  給与の一方的減額は可能か? ---- 契約法の大原則
第三章  いじめとパワハラ ---- 現代日本社会の病巣
第四章  解雇とは? ---- 実は難しい判断
第五章  日本版「依頼人」 ---- ワーキング・プアの「雇い止め」
第六章  女性一人の訴え ---- 増える企業の「ユーザー感覚」
第七章  労働組合って何? ---- 団結の力を知る
第八章  アルバイトでも、パートでも ---- 一人一人の働く権利
終 章  貧困から抜け出すために ---- 法の定める権利の実現
おわりに

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キャリアの入り口に立ったばかりの人向け、と言うよりジュニア向け?

職業とは何か.jpg職業とは何か (講談社現代新書)』 ['08年]

 本書の趣旨は、職業とは「〜をやりたい」という主観だけではなく「〜を通じて社会の一員となる」という社会性がより重要であり、「自分に合った仕事探し」という考え方をやめて、社会が要請している仕事を探すべきであるということで、この内容からも察せされるように、キャリアの入り口に立ったばかりの人向けの本とでも言うべきものなのでしょう。

 キャリア教育の専門家が書いた真面目な本であり、書かれている内容も正論だと思いますが、「自分探し」なんてやめろということは養老孟司氏なども以前から言っていることであってあまりインパクトが感じられず、「職業とは何か」と言うことを「仕事とは何か」ということから考察している部分は、むしろ「仕事とは」の方にウェイトがいってしまっている感じもしました。

 「キャリアの入り口に立ったばかりの人向け」と最初に書きましたが、就職を間近に控えた人が読んでも、即“応用”という風にはならないかも。
 むしろ、イチロー、三浦和良、マザー・テレサから大前研一、三木谷浩史、小椋佳まで(誰彼と無くと言っていいほど多くの)有名人の歩んだキャリアや仕事観がその発言や著作などから引用されていて、こういうのってジュニア向けの書籍によくあるパターンではないかと。

 それでいて、冒頭にフランク・パーソンズの「職業選択」理論が出てきて、終わりの方では「ライフサイクル」論のダニエル・レビンソンの著作を紹介していたりもしていますが、但しそれらの解説も浅いもので、キャリア論を深く展開するというところまでは行っておらず、本全体として総花的一般論という感じは拭いきれませんでした。

 大学に入学したばかりぐらいの人向けか、あるいは高校生向けといったところかも知れません。

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"体験小説"風「就活記録」。「読み物」を書くことが目的化している本?
若者はなぜ正社員になれないのか.jpg 若者はなぜ正社員になれないのか2.jpg     高学歴ワーキングプア.jpg
若者はなぜ正社員になれないのか (ちくま新書)』['08年] 水月 昭道 『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

 本書は、「大学を出た後、2年近くふらふらしていた人間が心を入れ替えて開始した一連の就職活動」の顛末の記録ということで、著者は大学院卒であることから、水月昭道氏の『高学歴ワーキングプア』('07年/光文社新書)の実体験版と言えなくも無く、但し、「若者はなぜ正社員になれないのか」という労働問題上の一般論的なタイトルを謳いながら、「いかにも新書的に社会を俯瞰する形で解答を提示することを僕はしない」として、結果として"体験小説"風の本に仕上がっている(それに終始している)のはいかがなものでしょうか。

 企業の採用活動の現場やそこに集まる学生達の様子が結構生々しく綴られていて、読み物としてはまあまあ面白かったりもするのですが、そうした「読み物」を書く事が目的化しているみたいで、ああ、結局この著者は文筆業で身を立てていくつもりでいて、本書はその足掛かりなのだなあと勘繰りたくなってしまいます(その分、書かれている就職活動の内容に、今ひとつ著者自身の真剣さが感じられない)。

 どういう本にするのか編集者ともう少し詰めて欲しかった気がし、編集者側から提示されたタイトルをそのまま受け入れ、但し、内容は自分の書きたいことを書いているという感じ。
 本来ならばタイトルそのものを拒否すべきだろうけれども、こうした"妥協"ぶりも、著者の就職活動いい加減ぶりと重なるような...(著者自身も、内容との整合性を重視するより、"売れそうな"タイトルを選択した?)。

 本書に対する個人的評価を星1つにせず星2つとしたのは、採用面接で落ちまくる自分のダメさ加減や、企業の担当者や一緒に受けた周囲の学生に対する印象などが素直に描き表わされていて、気持ち的には大いに共感(同情?)をそそられる面があったため(やっぱり小説なんだなあ、これ)。

 但し、最後の方にある就職活動者に対するアドバイスなどになると、やけに保守的な部分とフザケ気味な部分が混在していて、著者自身がやや分裂している感じもし(就職試験で落ちまくる学生も、就活の終盤に来ると分裂状態を呈することがあるが)、「不安定の意義」なんて考え始めるとドツボに嵌るのであんまりそんなことは考察しないで、是非、自分の身の丈に合った「安定」を追求していただきたいと思います。

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ノラ猫ならぬ"ノラ博士"量産の背景。研究員や非常勤講師は大変なのだということはよく分かった。

高学歴ワーキングプア6.jpg高学歴ワーキングプア.jpg  水月昭道.jpg 水月昭道(みずき・しょうどう)氏
高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

 大学院卒という肩書きを持ちながら就職に苦労している人を過去に何人か見てきましたが、その背景として、大学がとった「大学院重点化」という施策による博士養成数の急激な拡大と、一方で、大学という彼らにとっての就職先そのものにポストがないという現実があることが、本書によりよく分かりました。

 著者によれば、「大学院重点化」と言うのは「文科省と東大法学部が知恵を出し合って練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす"既得権維持"のための秘策」だったとのこと、それが90年代半ばからの若年労働市場の縮小(つまり就職難)と相俟って、学生を「院」へ釣り上げる分には何の苦も無くそれを成し得たが、ほぼ終身雇用に近い大学教授のポストにそんなに空きが出るわけでもなく、結果としてノラ猫ならぬ"ノラ博士"を大量に生み出しているとのこと。

 文科省の「大学院重点化」施策に多くの大学が追従した背景には少子化問題があり、学生数の減少を大学院生の増大で補っているわけで(平成3年に約10万人だった院生が、平成16年には24万人余りに増えているとのこと)、大学にも経営をしていかなければならないという事情はあるとは言え、結果として博士号取得済みの無職者(教員へのエントリー待ち者)が1万2千人以上、博士号未取得の博士候補者(博論未提出、審査落ちなどの理由で博士号を授与されていない者)はその数倍いるという現状を生じせしめた、その責任は重いと思いました。

 本書ではそうした"ノラ博士"のフリーターと変わらない生活ぶりなどもリポートしていて(研究員や非常勤講師って、コンビニでバイトして生活費を稼ぎながら学会発表のための論文も書かなければならなかったりして大変なのだなあ)、一方で、"誤って"大学院に進学してしまい、現在就職において苦労しているような人達に対しても、専門にこだわらず発想の転換を促すようアドバイスをしていますが、この"やさしさ"は、著者自身が、そうした道を歩んできたことに由来するものなのでしょう。

 その分、既にベテランの教授職として象牙の塔にいる側に対する憤怒の念も感じられ、そのことが諸事の分析にバイアスがかかり気味になるキライを生んでいるようにも感じられます。
 実際、本書に対する評価はまちまちのようですが、個人的には、研究員や非常勤講師と呼ばれている人達が置かれている現状を知る上では大いに参考になりました(今までその方面の知識が殆ど無かったため)。

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一般サラリーマン向けの解説書として見るならば、オーソドックス。

イザというときの労働基準法.jpg 『イザというときの労働基準法 (PHPビジネス新書)』 ['08年]

 著者は元(長野・沖縄)労働基準局長。同じ著者の『わかる!使える!労働基準法―「知らない」ではすまされない仕事のルール』('07年/PHPビジネス新書)の続編とも言えるもので、この新書のメインターゲットである、企業で働く一般サラリーマン向けに、Q&A方式で、賃金や労働時間に関する問題をわかり易く解説しています。

 新書にしては項目数も多く、その点では充実しているかと思われ、用語索引もついて親切です。
 経営者・管理職向けにも書かれている部分があり、その点で一般サラリーマンが読んでどう思うかというのもありますが、経営者・管理職に求められる労働法の知識というのは、一般サラリーマンが知っておいても結局のところ無駄にはならないと思うので、いいのではないでしょうか。

 ただ、人事担当者や実務担当者が読むとなると、少し浅いかも(初任者レベルか)。
 大学教授である大内伸哉氏の『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門』('08年/新潮新書〉もそうでしたが、判例などを挙げても具体的な判例名がない、と言うより、本書の場合、項目数が多い分、判例解説にまでは言及しきれず、「...という場合もあります」的な解説にとどまっている部分が多いように思えました。

 でも、パート、契約社員、高齢者等を巡る問題も含め、現時点では最新の内容となっており、あくまでも一般サラリーマン向けの解説書として見るならば、手に取りやすいというメリットがあり、内容的にもオーソドックスな線をいっているのではないでしょうか。

《読書MEMO》
●章立て
序章 まずは知っておきたいトラブル解決の基本ルール
第1章 賃金に関するトラブル
第2章 労働時間、割増賃金、休日・休暇のトラブル
第3章 企業内のさまざまなトラブル―配転、出向、男女差別、企業合併、労災保険など
第4章 退職、解雇、雇用保険に関するトラブル
第5章 パート、契約社員、高齢者を巡るトラブル
第6章 「あっ、労働基準法違反!」そのときどうする?―イザというときの労働者の解決手段
第7章 経営者、管理職なら知っておきたい!労基署、労基監督官への対応法

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読みやすい入門書だが、結局「程度問題」ということになるテーマも多い。

どこまでやったらクビになるか2.jpgどこまでやったらクビになるか.jpg                  大内伸哉.jpg 大内 伸哉 氏
どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門 (新潮新書)』['08年]

 副業、社内不倫、経費流用、ブログによる自社の中傷、転勤拒否、内部告発、セクハラといったことが、実際どこまでが許されるのか、事例を挙げながら主にサラリーマンの立場に立って解説されていますが、同時に、会社の労務管理サイドの人が、企業防衛の立場から労務トラブルに対処する方法、及び、その前提となる法の考え方を学べるものにもなっています。

 各テーマの設問は、新潮社の担当編集者が、一会社員としての日頃の疑問をもとに案出ししたとのことで、いかにも「新潮新書」らしい本作りとなっている印象を受けました(全てが担当者のオリジナルならば、この担当者はかなり優れた人ではないか)。

 大内先生のことでもあり、きっちり法律の基本を抑えながらも、一部に個人的見解を挟んでいて、勉強になるだけでなく考えさせられる点もありました。
 但し、もともとのテーマが、法律で簡単に○×で結論づけられるようなものではないものが多いため、結局は「程度問題」としか言いようのないものもあります。

 実際、かなりの判例を引きながらの解説になっていて、その点はその点で、この人の判例の読み解きはわかり易く定評があるのですが、具体的な判例名がほとんど省かれているのが少し不満。
 一般向けの新書だからやむを得ない気もしますが、こういうのは企業名が出てきた方が、個人的には頭に入り易く、途中で挟まないまでも、最後に判例索引でもつけてくれたらもっとよかったのにと、ちょっとばかり思いました(そこまでやると、一般読者は引いてしまうのかも知れないが)。

《読書MEMO》
●章立て(一部)
ブログ―ブログで社内事情を書いている社員がいてヒヤヒヤしています。あの社員はクビにならないのでしょうか?
副業―会社に秘密で風俗産業でアルバイトをしている女性社員がいます。法的に問題はないのでしょうか?
社内不倫―社内不倫しています。これを理由にクビになる可能性はありますか?
経費流用―私用の飲食代を経費として精算したのがバレてしまいました。どれくらいの額だとクビになりますか?
転勤―会社から転勤を命じられました。どういう事情があれば拒否できますか?
給料泥棒―まったく働かない給料ドロボーがいます。会社はこういう人を辞めさせることはできないのでしょうか?
内部告発―会社がひどい法令違反をしています。内部告発をした時に自分の身を守る方法はありますか?
合併―会社が他の会社と合併することになりました。合併後は給料が下がりそうなのですが、そんなことは認められるのでしょうか?
残業手当―上司に言われていた仕事が勤務時間内に終わらずに残業しました。こういうときでも残業手当をもらえますか?
新人採用―半年の試用期間で「採用失敗」が明らかになった新入社員がいます。会社は彼を本採用することを拒否してよいのでしょうか?

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解説・図解が「条文」も含めて見開き単位で収められているため使い易い。

労働法のしくみ12.JPG図解による労働法のしくみ.jpg図解による労働法のしくみ』 (2009/01 自由国民社)

 弁護士による労働基準法の解説書(入門書)で、各項目見開きで、左ページが横書きの解説、右ページが図解となっていますが、特徴的だと思ったのは、労働基準法の章・条単位で解説されていて、更に解説部分に該当する条文を、右ページの下に書き出していること(罰則規定がある場合はそれも併せて)。

 解説・図解が「条文」も含めて見開き単位で収められているため、解説を読みながらいちいち条文を手繰らなくて済み、ほぼ条文の順番で解説がなされているためリファレンスとして使用する際にも便利、しかも、あまりこうしたパターンの解説書は見かけないため、書店で見かけて迷わず購入し、大学の法学部の学生向けの講義資料を作るのに参考にさせてもらいました。

 労働法の体系、各法令の制定趣旨にまで踏み込んで解説されており、労働組合法、労働関係調整法、個別労働関係紛争解決法、労働審判法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、雇用保険法などの関連法規にも触れられています。

 アラを探せば、'07年刊行の初版の今回は〈増補版〉である('09年1月刊行)ということであるにも関わらず、労働基準法「第6章の2」が依然「女性」のままになっていたり(以前から「妊産婦等」に改められている)、解雇権濫用法理を明文化したものとして'03年に労働基準法に盛り込まれ(第18条の2)、その後、'08年3月施行の労働契約法第16条に条文移行された「解雇」(合理的理由を欠く解雇の無効)が、未だに第18条の2にあったりはしますが...。

 <増補>の意味は、「激増する最近の労働トラブルと解決法」という記述が巻末に6ページ追加されているためのようですが、全体を通して内容はプロ向けに近いレベルなので、バージョンアップするならば、この辺りの章名改変や条文移行もチェックして欲しかった気がします。

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「第○条第○項」といった記述は無く、一般向けにわかり易い言葉で書かれた入門書。

イラストでわかる知らないと損する労働基準法.jpg 『イラストでわかる知らないと損する労働基準法〈Ver.2〉 (イラストでわかる-Illustrated Guide Book Series-)』 (2008/03 東洋経済新報社)

 社会保険労務士による労働基準法の解説書(入門書)で、縦書きで1項目につき見開き2ページ、全77項目。
各項目の左ページをイラストに充てており、解説文の用語も、前書きで予めそのことを断った上で、労働者を「社員」、使用者を「会社」、賃金を「給料」というように言い表すなどしており、初学者にとっては普通の書物を読むような感じで入り込み易く、また、わかり易い内容となっています。

 初版は'01年刊行で、'08年4月刊行(書店売り3月)の本書は"Ⅴer.2"ということですが、パート労働法の法改正('08年4月施行)なども一応は押さえていて、但し、全体としては、労働基準法そのものの基本部分、とりわけ一般の会社員に関わる労働時間や休日・休暇、「給料」などに重点が置かれているようです。

 イラストは所謂「図解」的なものからコマ漫画までバラエティに富んでいて("Ⅴer.2"の表紙のイラストより、実際の中身のイラストは漫画チック、図解部分も「板書」的と言った方がいいか)、これはこれでわかり易いですが、個人的にはむしろ解説文がわかりよいと感じました。

 「労働基準法第○条第○項において」などといった書き方は(意図的に)一切されていないので、「法律」としての労働基準法を学びたいと思っている人には物足りないかもしれませんが、一般の企業に勤める社会人にはこれで充分かも。
 必要に応じて、施行規則や通達レベルのことも書かれているのですが、あくまでも、普通の会社員に対し、普通の言葉で書かれているという感じ。

 専門業務型裁量労働制の適用職種が「18」であるとか(「19」ではないか)、細かい点で突っ込み所はありますが、よくあるテカテカの紙質に横書きでゴチック文字を多用してびっちり文字や図説が盛り込まれた入門書のパターンとは一線を画していて、その点でのオリジナルな工夫は買いたい本です。

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労務行政の「労働法相談シリーズ」。全体としては労務行政らしいカッチリとした内容だが...。

解雇・雇止め・懲戒Q&A.JPG労働法実務相談シリーズ 解雇・雇止め・懲戒Q&A.jpg   労働法実務相談シリーズ 労働時間・休日・休暇.jpg
解雇・雇止め・懲戒Q&A (労働法実務相談シリーズ)』〈'08年4月補訂版〉『解雇・雇止め・懲戒Q&A (労働法実務相談シリーズ)』(旧版)『労働時間・休日・休暇Q&A (労働法実務相談シリーズ)(旧版)

 先ず先に刊行された『労働時間・休日・休暇』の方ですが、シリーズの中で少しだけページが少なめ。こうしたテーマ分けの仕方をするのならば、このテーマの巻はもっとページ数が多くなってもいいような気がするのですが、読んでみてやはり、かなりポイントを絞った(基礎的な)Q&Aになっているように思いました。
 実務において実際に充分に起こり得る問題とその対処法がコンパクトにまとめられているという点では良いのですが、約200ページで3,000円は少し価格が高いのでは。

 『解雇・雇止め・懲戒』の方は、Q&Aまでの部分で約240ページ(3,200円)。普通解雇、雇止めのほかに、雇用調整の一環としての希望退職や整理解雇についても一定数のQ&Aを配していて、懲戒についても懲戒全般と懲戒解雇を併せて網羅しています。
 判断が微妙な問題が多いジャンルですが、「労政時報」の「相談室Q&A」の回答でも定評のある弁護士が、判例等を的確に引いて要領よく解説しているように思いました。

 但し、このジャンルはどうしても程度問題、ケースバイケースということが多くなりがちで、これは仕方がないことなのかも知れません。
 逆に、冒頭から、「職能資格等級制度の下で、能力不足を理由として解雇することができるか」「成果主義の下で、能力不足を理由として解雇することができるか」という問いに対して「原則」としながらも共に「できない」としていて、そうはっきり言えるのかなあと(普通の会社であれば事案としては稀な事かも知れないが、検討の俎上に上がるとすれば、かなり顕著なケースが想定されるのではないか)。
 「役割等級制度」だったら能力不足を理由として解雇していいのか、或いは「成果主義」でなければいいのか、というふうにとる人はまずいないとは思うけれども、等級制度や賃金制度の違いが普通解雇の要件の強弱に関係してくるような誤解を招く設問設定では?(著者の言わんとするのはその逆なのだが)。

労働法実務相談シリーズ 解雇.jpg 『解雇・雇止め・懲戒』の手元にあるものは'07年5月初版のものですが、引用されている「有期労働契約の締結、更新及び止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示)などは、'08(平成20)年3月1日に一部改正されており、本書に間に合っていません。
 '08年4月に〈補訂版〉が出されていて、今買うならば当然そちらですが、そちらの方では平成20年3月改定まで網羅されて、個人的には結局そちらも購入することになりました(法改正がめまぐるしいと出費がかさむ)。('09年7月には『労働時間・休日・休暇Q&A』の方も第2版が刊行された。)
解雇・雇止め・懲戒Q&A (労働法実務相談シリーズ)』〈'08年4月補訂版〉

 このシリーズが、シリーズのナンバー順の刊行になっていないのも、ジャンルによってはめまぐるしい法改正があることがその一因としてあるのではないかと推察します。

 ただ両書とも、各章の冒頭の「論点整理」は非常によく纏まっていて、とりわけ『解雇・雇止め・懲戒』のそれは大変わかりよいものでした。

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