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数学関係者の働きかけにより復刊された児童文学の名著。物語としても面白い。
『算法少女 (ちくま学芸文庫)』['06年] 『算法少女 (1973年)』
1973(昭和48)年10月刊行、1974(昭和49)年度・第21回「産経児童出版文化賞」受賞作。
父・千葉桃三から算法の手ほどきを受けていた町娘のあきは、寺に算額を奉納しようとしていた旗本子弟・水野三之助一団に出遭うが、掲額された算額の誤りに気づいてついそれを指摘してしまい、関流宗統・藤田貞資の直弟子であることを日頃から鼻にかけていた三之助の怒りを買う。その場は穏便に引き下がろうとしたあきだったが、執拗な三之助の追及に対し逆に三之助を論破してしまい、そのことが評判となって算法家としても知られる久留米藩主・有馬頼徸から姫君の教育係として召抱えたいとの申し入れがあり、それを阻止しようとする藤田貞資の画策により、関流を学ぶもう1人の"算法少女"と算術対決をさせられることになる―。
児童文学者である著者は、子供の頃に父親から江戸時代に女性が書いた和算書があるという話を聞いて、国会図書館でその『算法少女』(1775年刊行)という古書と出会ってこの物語の想を得たということですが、単に和算に優れた少女の話というだけでなく、史実を織り交ぜながらも、藩政に絡む色々な謎めいた人物が登場して、物語としても面白かったです(小学校高学年以上向けと思われるが、大人でも充分楽しめる)。
あきと彼女に和算を教わる子供達を通して、江戸時代の庶民の生活の中での算術の需要というのもよく伝わってきたし、あきの父で学者肌の貧乏医者・千葉桃三と、世事に長けた俳人であきの才能を世に知らしめようと尽力する谷素外の取り合わせも面白く、最後に谷素外の意外な正体(?)も明かされる...。
もともと、古書『算法少女』の著者「壺中隠者」と「平氏(章子の印)」とは誰なのか長らく不明だったようですが(あとがきは谷素外)、研究者により、「壺中隠者」とは医師・千葉桃三だということが判明したとのこと(その娘が章子)。
「ちくま学芸文庫版あとがき」によれば、本書の出版から十数年を経て増刷が打ち切られた時、「本も商品ですから」と著者は増刷を諦めてかけていたのが「復刊ドットコム」に登録され、その後も多くの数学関係者の働きかけがあって30年ぶりの復刊に至ったとのこと。
本書の中には代数問題だけでなく幾何問題も出てきて、「学芸文庫」に入っているのは、「児童文学」と言うより「数学(科学)」という分類になっているためのようですが、箕田源二郎の数多い挿画までも余さず復刻されていて、実際にどういう道具を使ってそうした問題を解くのかなどが分かるのが良かったです。
【2006年文庫化[ちくま学芸文庫]】