【1160】 △ 五十嵐 仁 『労働再規制―反転の構図を読みとく』 (2008/10 ちくま新書) ★★☆

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労働規制緩和の流れと'06年以降の規制の強化傾向を解説するも、ブログ本の域を出ず。

労働再規制.jpg 『労働再規制―反転の構図を読みとく (ちくま新書)』 ['08年]

 '95年以降進められてきた労働規制の緩和政策が、'06年以降、労働規制の強化傾向に転じているその流れを、'08年9月の福田康夫首相の辞任表明など最近の政局を絡めて、或いはまた、その前の、経済財政諮問会議、総合規制改革会議などを軸とした小泉純一郎首相の「構造改革」路線、更にはずっと前、'95年の日経連「新時代の『日本的経営』」の成り立ち等も含めて解説しています。

 歴史的な変遷はわかり、また読んでいるうちに著者の"立ち位置"もわかってくるのですが、記述に先入観を持たれまいとするためか、敢えて自ら立場のことは前面に出していない―、このやり方が今ひとつ肌に合わなかったです(本書は、自らのブログ記事からの転用も多いが、ブログの中では、自分は「リベラル」以上の「左翼」であるとはっきり言っている)。

 経済界による「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入の動きが国民的反発を招いたのは、「残業代ゼロ法案」というふうに表現されたことが「躓き石」だったとする経済界自身の"敗因分析"に対し、それが「労働実態を無視したまま」の議論だったことを真の原因として指摘していますが、そうした著者の論拠さえ、学者の言説を引いて思い入れのある側に軍配を上げているようにもとれなくもなく、すっきりとした解説になっているようには思えませんでした。

 個人的には、'95年の日経連の"その後の市場原理主義的な規制緩和を導いたとして悪名高い"「新時代の『日本的経営』」について、それを書いた日経連の小柳勝二郎賃金部長が、「雇用の柔軟化、流動化は人中心の経営を守る手段として出てきた。これが派遣社員などを増やす低コスト経営の口実としてつまみ食いされた気がする」(2007.5.19 朝日新聞)というコメントが興味深く、この「つまみ食い」論には同感です(「新時代の『日本的経営』」をちゃんと読んだ人がどれだけいるのか)。

 但し、これは「朝日新聞」の記事を引用したにすぎないもので、著者もこの内容自体は否定しておらず、「つまみ食いしたのは誰か」という話へと移っていっています。
 読んでいくと、「宮内」さんとか「牛尾」さんとかの名前が出てきてそこそこに面白いのですが、この人、政・財界ウォッチャーなの?(ブログでは、池田信夫氏と論争して優勢みたいだけれど、まあ2人の論争は"内ゲバ"みたいなものだなあ)

 こんな役割の人がいても別に構わないと思うけれど、こういう本は、読んでいる時の面白さほどには読後感が深まらないような気がしました(池田信夫氏がわざわざ「読んではいけない本」という言ほどの影響力のある本だとは思えないのだが)。

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