【1159】 ○ 東京管理職ユニオン 『偽装管理職 (2008/04 ポプラ社) ★★★☆

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ユニオンの監修だが、企業側担当者が意識面でのセルフチェック用に読める部分もあった。

偽装管理職 ポプラ社.jpg 『偽装管理職』 ['08年/ポプラ社]  マクドナルド訴訟:店長は非管理職 東京地裁が残業代認定.jpg マクドナルド訴訟:店長は非管理職。東京地裁が残業代認定―判決後に会見する高野広志さん('08年1月28日)[写真:毎日新聞社]

 「偽装管理職」の問題は、'08年1月28日の東京地裁の「マクドナルド判決」以降、一層、マスコミや社会の注目を集めるようになりましたが(NHKは「名ばかり管理職」問題という言葉を使っており、判決の3日後に予め特番を組んでいた)、本書の刊行もこの判決が1つの大きな契機となっているとのこと。

 第1章では、ユニオンなどに寄せられた相談事例が4件紹介されていますが、どれも企業側の社員に対する扱いや訴えられた後の問題への対応が呆れるほどひどいもので、無理矢理「管理職」に仕立て上げた社員に、仕事だけでなく責任まで押し付け、何かあれば退職を勧奨するなど、時間管理の問題だけでなく、品質管理、責任体制、更には事業戦略などの問題が絡んでいるように思えました。
マクドナルドのような大企業だから(また、訴訟を通して闘うことを決意した店長がいたから)世の話題になったのであって、これまでにも一部の中堅・中小零細企業では、こうしたことは日常茶飯に行われていたのではないかと思われます。

 労働者側から見れば、「労働審判制度」などにより係争などに持ち込み易くなったとは言え、ユニオンに相談を持ち込むことさえも相当の勇気がいることではないかと思われ、そうせずにはおれない感情を労働者に呼び起こすだけの仕打ちを、こうした企業はしているという見方も成り立つのでは。
本日より「時間外・退職金」なし.jpg マクドナルド問題もそうですが、「恒常的な100時間超の残業」というのは、「管理職」であるということが残業代不払いの名目として用いられているという点で法的な問題ではあるかも知れませんが、その分残業代を支払えば解決される問題でもなく、根本的な企業体質の問題でしょう(その点、マクドナルド問題については、田中幾太郎氏の『本日より「時間外・退職金」なし』('07年/光文社ペーパーバックス)の方が、本書よりずっと分析が深い)。

 法的問題ということで言えば、本書にも登場する日本労働弁護団の棗一郎弁護士が最近、残業時間の上限規制を法制化することを主張しているように、法制度そのものの問題かも(本書でも少し触れられているが、昭和30年代から、ファーストフード店店長など「名ばかり管理職」問題を巡る訴訟は約30件あって、9割方は企業側が敗訴している。訴訟になって初めて、法律が純粋適用されるという印象を受ける)。

 配置転換における不当な人事権の行使、パワハラ問題に端を発するメンタルヘルス疾患の問題など、本書で取り上げられているものは残業時間問題に限らないもので、極端な例が多いように思える一方で、企業側の対応には、どこの人事担当者も一瞬は考えそうな「臭いものには蓋をせよ」的な面もあり、企業側担当者が意識面でのセルフチェック用に読める部分もあったように思います。

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