【1156】 ○ 佐藤 博樹/武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 (2004/03 中公新書) ★★★★

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取得率向上には、やはり法的強制力を持たせないとダメか?

男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)』 ['04年] 佐藤 博樹.jpg 佐藤 博樹 氏 (略歴下記)

子ども.jpg 本書のデータによると、日本における女性労働者が出産した場合の育児休業の取得率は64.0%、それに対し男性は0.33%、取得者の男女比は女性98.1%、男性1.9%とのことで('02年調査)、ほぼ同時期の調査における欧米諸国の育児休業取得率は、アメリカが女性16.0%、男性13.9%、スウェーデンが女性はほぼ完全取得で、取得者の男女比は64:36、ドイツが有資格者の95%が取得しているが父親は2.4%、イギリスでは男女とも12%が取得しているということで、国によってバラツキはありますが、男性の育児休業取得率が日本は特に低いことがわかります。

 本書は、前半やや硬いデータ分析や法令の解説が続くものの、それらの現状を踏まえたうえで、男性が育児休業を取得することの企業にとってのメリットや可能性を指摘し、例えば、休業中の職場の対応方法を講じることは、企業にとって単なるコストではなく、活性化や風土改革にもつながる可能性があることを説き、また近年言われる「個人の尊重」「ワークライフバランス」に先駆けて、働く者の自由な選択を尊重する考え方を提唱していて、ビジネスマンが「子供と触れ合える機会」を一定期間持つことの公私にわたる効用を説いている点などは、とりわけ個人的には説得力を感じました。
 男性が取る育児休業って、自分の生き方やキャリアを振り返るいい機会だと思うのですが、本書での報告例が、読売や毎日の記者のものだったりして―結局、"記事ネタ"としての育児休業取得になっている?)。

 それと、日本における男性の育児休業の取得率の低さの原因の1つに、育児休業法自体に少し問題があるのではないかという気がしました。
 育休法に従うと、1年間の育休を男女で分担して取得することは可能ですが、産後休業のときに男性が育休を取ると、通常、女性は「産休」明けから「育休」に入るので、その後男性は「育休」を取れない、つまり分割取得が出来ないようになっていて、これでは法自体が、男に「育休」を取るなと言っているみたいなものではないかと(その後、法改正でこの部分は見直された)。

 先のデータにあるように、北欧諸国は男性の育児休業取得率が高いですが、これは本書によると、ノルウェースやウェーデンでは「パパ・クォータ」とか「パパの月」などと言って、法律で、育児休業中の一定期間は父親が「育休」を取らないと、日本で言う育児休業手当がその間は支給されなくなるようになっているとのこと、つまり法に一定の強制力を持たせていることがわかります。
 その割り当て期間分の「育休」を終えると、北欧のお父さん達も殆どが仕事に復帰しているわけで、彼らが日本人の男性よりもフェミニストであるとか、子育てに熱心であるとか、少なくともデータをみる限りは、特にそういうことではないみたいです。
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【佐藤博樹氏 プロフィール】
東京大学 社会科学研究所 教授
◆兼職
内閣府・男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員
厚生労働省 労働政策審議会分科会委員、仕事と生活の調和推進委員会委員長
経済産業省 ジョブカフェ評価委員 他
人を活かす企業が伸びる.jpg◆主な著書(編著・共著を含む)
『人事管理入門』(共著、日本経済新聞社)
『男性の育児休業:社員のニーズ、会社のメリット』(共著、中公新書)
『ワーク・ライフ・バランス:仕事と子育ての両立支援』(編著、ぎょうせい)
『人を活かす企業が伸びる:人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(編著,勁草書房) 他
(2009年3月現在)

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