「●な行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1568】 野上 弥生子 『海神丸』
「サブカルの人」だが、小説一本に注力したら結構な数の読者を獲得するかも。
『真理先生』 (2009/01 青林工藝舎)『Let's go 幸福菩薩』 ['85年/JICC出版(絶版漫画)]
本書の著者・根本敬氏は、80年代に「ガロ」でデビューした漫画家で(自称「特殊漫画家」(?))、蛭子能収氏のプロダクションに籍を置く傍ら、漫画だけでなくエッセイから映像プロデュース、音楽評論まで幅広く手掛け、「サブカル(チャー)の人」と言った方が分かりが早い感じの人。
'08年にそれに相応しい「みうらじゅん賞」を受賞し、この賞は、イラストレーターのみうらじゅん氏が勝手に定めた賞ですが、これまでの受賞者では、いとうせいこう、泉麻人、安斎肇、山田五郎などの各氏がいて、本書の帯に推薦文を書いているリリー・フランキー氏もその1人と言えば、何となくこの人の系譜がわかりそうな感じもします(但し同賞は、最近では叶姉妹、ギャル曽根、サミュエル・L・ジャクソンなども受賞対象となっていて、何だかよく分からない賞になりつつあるが)。
本書は著者のもう何冊目かになるエッセイ集ですが(随分とすっきりした表紙になったなあ)、真ん中に中篇小説が収められていて、これがやたらに面白かったです。
エッセイも、日常の出来事や時事批評的なものから哲学的な思索まで話題の対象は広く、かなり話があちこち飛躍して、それらが錯綜している感じ。それにサブ・カルチャー的な話題が絡んでややマニアックな面もあり、この"書きなぐり"風は計算づくなのか、それとも本当に"書きなぐって"いるのか、よく分かりません(水木しげると赤塚不二夫を、それぞれ違った意味で尊敬していることは分かった)。
それに比べると、ある男の一代記(性遍歴が主)である「小説」は、「河村さんだけど、アレは奥さんの方の姓でね、元々は加藤さん。フルネームは河村清定」なんて調子でいきなり入っていくところから、後で思えば巧妙に計算されていたように思え、最後はやや漫画チックでしたが、途中意外な展開もあり、とにかく登場人物が生き生きと描かれていて、更に文章のリズムが良く、野坂昭如のデビュー当時の小説を読むように楽しませてもらいました。
敢えて「小説」とし、特にタイトルをつけていないのは、本人は"素人の習作"のつもりだからなのでしょうか。小説としては"玄人はだし"だと思うのですが。
小説を読み終えて、またエッセイを読むと、エッセイも小説っぽいリズムであることに気づき、道理でエッセイから小説に移った時に、変に作ったという印象が無かったわけだ...(実際には、先に述べたように巧みに計算されているのだが)。
この人、暫くの間は小説一本に注力したら結構な数の読者を獲得するかも。メジャーになり過ぎることを嫌う固定ファンがいるかも知れないけれど。