【1146】 ○ 稲田 和子(再話)/太田 大八(絵) 『天人女房 (2007/07 童話館出版) ★★★★ (○ 『あおい玉 あかい玉 しろい玉 (2006/04 童話館出版) ★★★★)

「●日本の絵本」 インデックッスへ Prev|NEXT ⇒  【1014】 大塚 勇三(再話)/赤羽 末吉(画) 『スーホの白い馬
「○現代日本の児童文学・日本の絵本 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

稲田和子の洗練されたリズミカルな文章と太田大八のダイナミックな画調が冴える。

天人女房.jpg天人女房』 あおい玉 あかい玉 しろい玉.jpgあおい玉 あかい玉 しろい玉

 天女の水浴びを見かけた牛飼いが一目惚れをしてその羽衣を隠してしまったため、困った天女はそのまま牛飼いの妻となり、夫婦は子にも恵まれが、ある日偶然に羽衣のありかを知った天女は、子達を連れて天へ―。

 「天人女房」というは昔話には、羽衣を取り戻した天女が去ってお終いという「離別型」と、天女が去った後、男が竹などを植えて、それを伝い天上に行って天女の両親である父母神に会い、父神の出す難題を妻である天女の助けを得て解決するが、最後に瓜を割ると洪水になり、天女と男は離別するという「天上訪問型」、その離別した男と天女は七月七日だけは会うことが出来るという、中国の七夕伝説と結合した「七夕型」の3パターンあるそうで、奄美大島に伝わる伝承をベースにしているという本書は前2パターンを包含した最後の「七夕型」です。

 2007(平成19)年刊行された本書の作者である稲田和子(1932‐)氏は半世紀以上にもわたり昔話の採集・研究にあたってきた専門家で、この絵本の最後のページの氏の解説によれば、「たなばた」は『古事記』や『日本書紀』では「たなばたつめ(棚機津女)」と呼ばれる神聖な機織の乙女で、祭祀に先立って水上にせり出した棚で来臨する神々の衣を織るのが役割だったとのこと(要するに"天人"ではなく"人間"だった)。それが、中国から彦星と織姫星の話が伝わって、『万葉集』の頃には既にそれらが融合した今あるような形のロマンスになっていたらしいです(中国から暦が伝わってきた際に一緒に「節句」というのも伝わってきたわけで、そう考えれば「七月七日」を祝うというのは本来は"中国"風)。

 稲田氏は学究者ですが、絵本におけるその文章は非常に洗練されていてリズミカル、また、同じく半世紀以上にもわたり絵本画を手掛けてきた太田大八(1918‐2016氏の絵も、スケールの大きな話に相応しいダイナミックなものです。

 この両者の組み合わせでは、前年の2006(平成18)年刊行された『あおい玉 あかい玉 しろい玉』('06年/童話館出版)も良かったですが、これも異界との接触がモチーフになっている伝承と言え、山姥とお和尚が術比べをし「小さいもんになれるか」と和尚が山姥を挑発する話と言えば、ああ、あれかと思い当たる人も多いのでは。

 この絵本でも、稲田氏の詩韻のような文調は絶妙で、太田氏の画も生き生きしていて、時に重厚、また時に軽妙(途中、山姥に捕えられた小僧を救う「便所の神様」というのが、何だか若いサラリーマンみたいな感じなのには笑ったが)、裏表紙に描いてある和尚と小僧がニコニコしながら餅を食べている画が、話全体のオチになっているというのも楽しいです。

1 Comment

太田大八(おおた・だいはち=絵本作家)2016年8月2日、肺炎で死去、97歳。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1