【1111】 ○ 宮部 みゆき 『おそろし―三島屋変調百物語事始』 (2008/07 角川グループパブリッシング) ★★★★

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色々な形でこれまでの「宮部流」がミックスされている感じ。その分、既知感も。

宮部 みゆき 『おそろし』.jpg おそろし.jpg  おそろし 文庫.bmp 
おそろし 三島屋変調百物語事始』『おそろし 三島屋変調百物語事始 (角川文庫)【2012年文庫化[角川文庫]】

 江戸・神田三島町に店を構える袋物屋の三島屋。17歳のおちかは、その店の主人である叔父夫婦に理由があって預けられ、店で働いていたが、ある日、叔父・伊兵衛から、店の「黒白の間」でそこを訪れる客から「変わり百物語」を聞くよう言いつけられ、人々の不思議で怪しい話を聞いてゆく―。

ぼんくら.jpg 『ぼんくら』('00年/講談社)以来、現代物より時代物の方が面白いような気がする宮部氏ですが、相変わらず読みやすいなあ、この人の時代物。
 それでいて、人間の持つ心の闇や悔いても悔い切れない想い、更にはそこからの解き放ちを、時代風俗や市井の人々の人情を絡めて情感たっぷりに描いていて、依然、魅せる作家、飽きさせない作家の1人であることには違いないと、今回また思いました。

あかんべえ.jpg 個人的には第1話の「曼珠沙華」から結構惹きつけられましたが(これが最も新味があっ天狗風.jpgて完成度も高い)、「凶宅」「邪恋」「魔鏡」と読み進めていくうちに、この作品は、系譜的には『あかんべえ』('02年/PHP研究所)に近いかもと思うようになりました。
 但し、おちかの年齢が17歳というのは、その前の『震える岩』('93年/新人物往来社)と同じだなあと思ったりして、そして、最後の「家鳴り」に至って、同じく「霊験お初シリーズ」の『天狗風』('97年/新人物往来社)を想わせる面がありました。

 この最後の「家鳴り」で、それまでの話をインテグレイトしていて、但し、その持って行き方には、「なるほど」とか「やや荒唐無稽ではないか」などの賛否両論あるかも知れませんが、個人的には、もう「宮部流」ということで納得してしまっている部分もあるせいか、すんなり受け容れられました。

 ただただ話を並べていくだけという方法もあったかと思われますが、それらを束ねることで、重層的効果と言うか、物語に立体感が出たように思います(結果的に5話で一旦完結したかのようになったが、続編はあるのかな。「事始」とあるから、あるのかも)。

 いくつかの物語を1つの大きなストーリーに組み込んでいくというのは、その点においては『ぼんくら』の系譜であり、この1冊に色々な形でこれまでの「宮部流」がミックスされている感じ。
 安定感がある一方で、強いて難を言えば、状況設定こそ風変わりであるものの、「凶宅」以下の話は、何となく既知感のある展開のようにも思えたことでしょうか。

 【2010年ノベルズ版[新人物ノベルズ]/2012年文庫化[角川文庫]】

おそろし~三島屋変調百物語png.jpgNHK BSプレミアム「おそろし〜三島屋変調百物語」(2014年8月30日から9月27日まで全5回放送)。出演:波瑠/佐野史郎/かとうかず子/宮崎美子/麿赤兒

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