【1109】 ○ 平岩 弓枝 『酸漿(ほおずき)は殺しの口笛―御宿かわせみ』 (1986/04 文藝春秋) ★★★☆

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捕物帳らしさを堪能できる (やけにワケありの客が泊まる宿だなあという感じはするが)。

酸漿は殺しの口笛 単行本.gif 『酸漿(ほおずき)は殺しの口笛 (御宿かわせみ)』 酸漿は殺しの口笛 文庫旧版.jpg 文庫旧版 酸漿は殺しの口笛 文庫新版.jpg酸漿は殺しの口笛―御宿かわせみ〈7〉 (文春文庫)』 ['04年]

 単行本の刊行は'86(昭和61)年4月で、文庫本シリーズで言うと第7弾。「春色大川端」「酸漿は殺しの口笛」「玉菊灯籠の女」「能役者、清太夫」「冬の月」「雪の朝」の6編が収められています。

 表題作の「酸漿は殺しの口笛」は、小川のほとりでいつも酸漿を鳴らしている娘がいて、「かわせみ」の老番頭・嘉助によると、彼女はかわせみに葛西から舟で野菜を売りに来ている娘ではないかということだったが、かわせみの女主人るいが女中頭のお吉と確認したところ、まさに同一人物。るいが事情を問うてみると、実は子供の時に別れた母親に捜して来ているという―。

 何かほんわかした人情話の始まりのようですが、やがて話は凄惨な殺人事件に発展し、直接の下手人は捕らえるものの、裏で糸を引く江嶋屋忠三郎という悪党は結局捕まらず、この後のシリーズで東吾らを苦しめる存在となります。

 かわせみに客として泊まっていた大山の御師(寺社付きの参詣者向け旅行代理店業者みたいなものか)が失踪したところから始まる「能役者、清太夫」なども、複数人の殺人被害者が出て、大川紋之助という能役者になりすましたやり手の悪党が絡み、この人物も一旦は捕まるが...。

 この頃の「かわせみ」シリーズは、事件がしっかり物語の中核にあり、しかも混み入った事件や連続殺人事件などが目立ち(「春色大川端」もタイトルに似ず凄惨な連続殺人事件)、犯人も相当な"プロ"だったりして、捕物帳らしさを堪能できます。
 一方で、息子が嫁を迎えたのを機に、誰にも遠慮せずに暮らしたいと江戸に来てかわせみに滞在する母親と、偶然彼女と知り合った癇癪持ちの老人との関係を描いた「冬の月」みたいな、人情話主体のものもあったりします。

 東吾とるいの恋もほどよく描かれていて、2人が何故すぐに正式の夫婦になれないのかなどについても改めて解説されています。
 東吾とるいがこの先どうなるのだろうという興味と言うか緊張感みたいなものがベースにあって、その上で、「かわせみ」を媒介に、いろいろな事件と人情話が適度なバランスで展開していくというこの頃の構図が、今思えば良かったなあ(やけにワケありの客が泊まる宿だなあという感じはするけれども)。 

 【1988年文庫化・2004年文庫新装版[文春文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2009年2月28日 01:23.

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