【1091】 ○ フレディ・M・ムーラー 「山の焚火」 (85年/スイス) (1986/08 シネセゾン) ★★★★

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姉弟の近親相姦という特異なモチーフをとり上げて、なお透明感を保持している映像美。

山の焚火.jpg Alpine Fire ( Höhenfeuer ).jpg  Fredi M Muller.gif ÖHENFEUER 1985 山の焚火.jpg
山の焚火 [DVD]」/輸入版DVD/Fredi M Muller

hohenfeuer 02.jpg 人里離れた山中の農場で暮らす父、母、姉、そして聾唖の弟の4人家族の物語。家族は皆、弟のことを気遣いながら深い愛情で結ばれていて、その弟は、学校には通わず、山地で働く父の手助けをしながら姉から文字や算数を教わっている。弟には時々爆発的な衝動を抑制できなくなる性質(癲癇)があり、ある日、故障した芝刈り機に腹を立ててそれを壊してしまい、怒った父親から家を追い出されて山の一軒家に追いやられてしまうが、なかなか帰ってこない弟のことを心配した姉が迎えに行く―。

山の焚火2.jpg ロカルノ国際映画祭「金豹賞」(=グランプリ)受賞作。姉弟の近親相姦がモチーフとなって、しかも最後には、そのことを知って激昂し弟を殺そうとした父親と姉との間で不幸な事故が起き、両親とも亡くなってしまうという悲劇的な結末を迎えますが、不思議とドロドロした感じがなく、時代は現代ですが、孤立し閉塞した状況下でのこうした出来事が、美しい自然を背景に淡々と描かれていく様は、何か神話か寓話のようでもあります。

 個人的には、静謐な自然の中でそうした全ての出来事が「浄化」されていくような、そんな印象を抱いたわけですが、観る人によっては「神もそれを許しているような」という印象を受けるかも知れません。

山の焚火 パンフレット.png 一方、別の見方をすれば、これは姉にとってはカタストロフィ的結末ではなく、彼女自身が望んでいた理想のかたちになったともとれなくもないかも。両親の死体を雪の中へ埋葬する様には死者への畏怖と祈りが込められていますが、別峰に住む祖父母へその死を知らせるために黒く染めたシーツを雪原に拡げる姉の所為は実に淡々としており、過剰な感情の奔出は見られず、安寧の境地にあるようにも見えます。

山の焚火 チラシ.jpg スイスのフレディ・M・ムーラー監督の作品であり、ビデオが絶版となり、かなり経ってからDVDで復活するなどしているのは、同監督の「僕のピアノコンチェルト」('06年/スイス)が多くの国際的な映画賞を受賞して、この寡作の監督に久しぶりに注目が集まったこともありますが、姉弟の近親相姦というモチーフの特異性と、そうした特異なモチーフをとり上げてなお透明感を保持している映像美によるところが大きいのではないかと思います。

「山の焚火」チラシ

シネヴィヴァン六本木.jpgシネヴィヴァン六本木2.jpg「山の焚火」●原題:HOHENFEUER●制作年:1985年●制作国:スイス●監督・脚本:フレディ・M・ムーラー●製作:ベルナール・ラング●撮影:ピオ・コラーディ●音楽:マリオ・ベレッタ●時間:120分●出演:トーマス・ノック/ヨハンナ・リーア/ドロテア・モリッツ/ロルフ・イリッグ/ティック・ブライデンバッハ●日本公開:1986/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-09-20)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館

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