【1079】 ○ 湯本 香樹実(作)/酒井 駒子(絵) 『くまとやまねこ (2008/04 河出書房新社) ★★★★

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死、悲しみ、再生といったものが子供にわかりやすく伝わるとともに、「時間」というもう1つのテーマが。

くまとやまねこ.jpg 『くまとやまねこ』(2008/04 河出書房新社)湯本香樹実.jpg 湯本 香樹実 氏

くまとやまねこ2.jpg 仲良しの小鳥に死なれた熊は、悲しみにうちしおれ、小鳥の遺骸を木箱に入れて持ち歩くが、周囲からの慰めにもかかわらずその心は癒されること無く、やがて家に閉じこもるようになる。しかし、何日もそうしていた後のある日、外の風景を見るといつもと違って見え、ふと出かけた先で楽器を携えた山猫に出会って―。

 2008(平成20)年に刊行されたこの絵本の作者・湯本香樹実(ゆもと・かずみ)氏は、脚本家であり小説家でもある人で、小説『夏の庭 --The Friends--』('01年/徳間書店)で第26回日本児童文学者協会新人賞、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞を受賞し、翌年には『西日の町』('02年/文藝春秋)が芥川賞候補になっていて、一方の酒井駒子(さかい・こまこ)氏も絵本『金曜日の砂糖ちゃん』('03年/偕成社)でブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)金牌を受賞しており、内外で注目されている2人の初取り合わせということになります(本書もまた、2009(平成21)年・第40回「講談社出版文化賞」(絵本賞)を受賞した)。

 この作品で湯本氏は、親しい人が亡くなった時の、自分の一部が欠けたような喪失感と、葬送と悲しみを経てのそこからの再生を、短いストーリーの中に見事に凝縮してみせています。

 そして、酒井駒子氏のモノトーン主体で時折赤の彩色を部分的に使っただけの絵。小川未明原作の『赤い蝋燭と人魚』の絵本化('02年)で個人的には注目したのですが、「死」や「悲しみ」といったものが子供にわかりやすく伝わる画風のような気がします。

 同時にこの絵本には、熊が小鳥が亡くなる前日に小鳥と交わした「時間」についての会話があり、「時間」というものがもう1つのテーマとしてあることがわかります。
 毎朝が"きょうの朝"である、しかし《きのうの"きょうの朝"》はもう二度と来ない―親しい人が亡くなった時ほど、時間の遡及不可能性を強く感じることはないのだなあと、改めて思わせられるものがありました。

 そして、親しい人を失ったばかりの人には、この絵本の熊のように、そこで一旦時間の停止状態が生じる、しかし、それはその人にとって必要な"葬送"の時なのでしょう。その後には、熊が山猫と出会ったように、他者との新たな出会いが待っているのかも知れません。

 これ、結構、大人向きでもあるかも。

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