【1074】 ○ アガサ・クリスティ (加藤恭平:訳) 『検察側の証人 (1980/05 ハヤカワ・ミステリ文庫) ★★★★ (◎ ビリー・ワイルダー (原作:アガサ・クリスティ) 「情婦」 (57年/米) (1958/03 松竹=ユナイト) ★★★★☆)

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最後まで楽しめる法廷劇。個人的評価は、短編小説:70点、戯曲:80点、映画:90点。

検察側の証人1.bmp  検察側の証人2.bmp Witness for the Prosecution(1957).jpg Agatha Christie.jpg Agatha Christie
検察側の証人(ハヤカワ・ミステリ文庫(クリスティー戯曲集 2)』 ['80年]『検察側の証人(クリスティ文庫)』['04年(戯曲)] Witness for the Prosecution(1957)
「情婦」.jpg 金持ちの老婦人がある晩撲殺され、彼女と親しくし金銭的事務を任されていたことから嫌疑をかけられた青年レナードを腕利きの老弁護士ウィルフリッドロバーツ卿は弁護することになるが、金目当てだとすれば動機も充分な上に状況証拠は青年に不利なものばかり。しかも、彼を救えるはずの外国人妻ローマインが、あろうことか"検察側の証人"として出廷し、夫の犯行を裏付ける証言を―。

情婦.jpg 1953年に初めて上演された戯曲『検察側の証人 (Witness for the Prosecution)』は、1933年に刊行された短編集『死の猟犬』の中にある同名の短編小説を、アガサ・クリスティ(1890‐1976/享年85)自身が戯曲化したもので、1957年にビリー・ワイルダー監督によって映画化もされています(邦題「情婦」)。

Marlene Dietrich.jpg 自分自身が接した順番は、映画→戯曲→短編という逆時系列であり、戯曲と短編ではトリックそのものは同じなのですが、戯曲の方が法廷劇としてのテンポの良さや愛憎劇としての深みに勝っていて面白く、何よりも短編の最後のドンデン返しに加えて、戯曲の方は更にもう1回どんでん返しがあります(短編を訳している茅野美ど里氏は、「クリスティ作品で原作以上に映画の方が面白いと思ったのはこれひとつ」と述べている)。

Marlene Dietrich (1901‐1992)

「情婦」1.jpg「情婦」2.jpg 映画は戯曲にほぼ忠実に作られており、初めて観たときにはすっかりトリックに騙されましたが、短編→映画と進んだ人の中には、2回目のドンデン返しは、ストリーテラーであるビリー・ワイルダー監督の創意であると思った人もいたようです(実はクリスティ自身のアイデア)。

「情婦」3.jpg 映画では、弁護士役の舞台出身俳優チャルールズ・ロートンの演技が高く評価されたようですが、外国人妻ローマイン役のマレーネ・デートリッヒも良かったと思います(演技もさることながら、当時56歳ですから、あの美貌と脚線美には脱帽)。
 
WITNESS FOR THE PROSECUTION.jpg 短編と戯曲と映画をそれぞれ比べると、短編では外国人妻はオーストリア人になっているのに、戯曲と映画ではドイツ人になっている(デートリッヒを想定した?)といった細かい違いもさることながら、戯曲では老弁護士はあまり事の急進展に疑問を感じておらず、裁判に勝つことしか眼中に無いのに対し、映画でのチャルールズ・ロートンは、「何だかおかしい」感を抱き続けているように見え、短編では具体的に、外国人妻の仕草の癖から老弁護士がある時出会った女性を想起するまでに至っています。

マレーネ・ディートリッヒ(1901-1992).jpg 映画の圧巻の1つは、デートリッヒが老弁護士チャルールズ・ロートンに(かなり高飛車に)謎解きをする場面で、あの太っちょのチャルールズ・ロートンが冷や汗を流して縮み上がる―にも関わらず、第2のドンデン返しの後で、彼女のためにこの老弁護士はある決心をするのですが、この"決意表明"は短編にも戯曲にも無いため、ビリー・ワイルダーの創意なのではないかと思います。

マレーネ・ディートリッヒ2.jpgマレーネ・ディートリッヒ(1901-1992)
 
 




情婦 (1957)[IMDbスコア8.4]/「情婦」ポスター(和田 誠
情婦 (1957).jpg情婦 和田誠ポスター.jpg1情婦.jpg「情婦」●原題:WITNESS FOR THE PROSECUTION●制作年:1957年●制情婦 パンフ.jpg作国:アメリカ●監督:ビリー・ワイルダー●製作:アーサー・ホーンブロウ・ジュニア●脚本:ビリー・ワイルダー/ハリー・カーニッツ●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:マティ・マルネック/ラルフ・アーサー・ロバーツ●原作戯曲:アガサ・クリスティ●シアタあぷる1.JPG時間:116分●出演:タイロン・パワー/マルレーネ・ディートリッヒ/チャールズ・ロートン/エルザ・ランチェスター/ジョン・ウィリアムス/ヘンリー・ダニエル/ノーマ・新宿シアターアプル2.jpgヴァーデン●日本公開:1958/03●配給:松竹=ユナイト●最初に観た場所:新宿シアターアプル(85-10-20)(評価:★★★★☆)
歌舞伎町・新宿シアターアプル・コマ東宝 2008(平成20)年12月31日閉館     

情婦2.JPG戯曲...1969年文庫化[角川文庫(『情婦』)]/1980年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(『検察側の証人(クリスティー戯曲集2)』)〕/2004年再文庫化[ハヤカワ文庫〕/短編...1960年文庫化[新潮文庫(『クリスティ短編集1』)〕/1966年再文庫化・1992年改版[創元推理文庫(『検察側の証人(クリスティ短編全集1)』)]/1971年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ(『死のクリスティ短編集1.jpg猟犬』)〕/1979年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ(『死の猟犬(クリスティ短編集7』)〕/1997年再文庫化[偕成社文庫(『検察側の証人(アガサ・クリスティ推理コレクション5)』)〕/2004年再文庫化[早川書房・クリスティー文庫(『死の猟犬』)]】
情婦 (1969年) (角川文庫)』 『クリスティ短編集 (1) (新潮文庫)
   
       

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