【1069】 ○ コリン・デクスター (大庭忠男:訳) 『森を抜ける道 (1993/08 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★

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英国風ペダンティシズムや気の利いた会話が楽しめるシリーズ中でも佳作と言える作品。

The Way Through the Woods.jpg森を抜ける道 デクスター.jpg 森を抜ける道.jpg        『森を抜ける道』.jpg
森を抜ける道 (ハヤカワ ポケット ミステリ)』['93年] 『森を抜ける道 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['98年]
"The Way Through the Woods" (1992)

『森を抜ける道』2.jpg 1993 (平成5) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第2位作品(1994(平成6) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第5位)。

 スウェーデンの美しい娘がオックスフォード近郊で行方不明になったまま1年が経過し、捜査に行き詰った警察本部に、娘の死体が森に埋められていることを暗示するA・オースティンの謎めいた詩が送られてきて、それがタイムズ紙に掲載されたことから、事件に対する様々な見解や推理が新聞社に寄せられる―。

 1992年発表の、コリン・デクスターによる「主任警部モース」シリーズの10作目で(原題は"The Way Through the Woods")、第8作『オックスフォード運河の殺人』('89年)に続いて英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を受賞した作品であるとともに、『ウッドストック行最終バス』('75年)と『キドリントンから消えた娘』('76年)などの初期作品と並んで、本格推理としてファンの間でも評価が高い作品。

 事件は複雑ですが、モースはかなり早い時期からその真相に迫り、それまでの作品にしばしば見られるような、途中でそれまでの推理を根本的に組み立て直すことを迫られるような事態には陥っていないようで、但し読者としては、シャーロック・ホームズにおけるワトソン的役回りである彼の部下のルイス部長刑事と同じように、彼の推理を"推理"しながら読み進んでいくといったところでしょうか。

 コリン・デクスターは、クロスワードパズル作りのチャンピオンとしとしても鳴らしたそうですが、モースの趣味もクロスワードパズルで(そのことがこの作品では生かされている)、加えてワーグナーの音楽を愛し、読書家でもある―これだけだといかにも英国紳士っぽい雰囲気とペダンティックなムードを漂わせた人物ということになりますが、一方で酒と女性をこよなく愛し、仕事中にビールを飲んでばかりいて、署内ではアル中のように思われているし、美しい女性に出会うと淡い恋心を抱いて妄想を膨らまし、また老人っぽい頑固さや気短さを包み隠さず、時にはそれが子供っぽく見える場合もある、そうした人間臭い点に親近感を覚えます。

The Way Through the Woods Colin Dexter.jpg主任警部モース 森を抜ける道.jpg 本作は、プロットだけではなく、英国風のペダンティシズムや気の利いた会話表現が楽しめるもので、他の殆どの主要作品と同じくテレビドラマ化('95年)もされています。

テレビ版「主任警部モース」(森を抜ける道)

 むしろ英国では、このシリーズはテレビドラマ化されたことで人気が沸騰した模様で(モース役のジョン・ソウ(1942-2002)が役にハマっている)、初期作品5作が'87年から'88年にかけて全てドラマ化され、その時点で元ネタとなる小説が不足したせいか、デクスターはテレビ局の要請により'89年から'93年にかけてドラマ用の脚本としても約20話を書いていて、これは最終的な原作シリーズ本編の数(13作)を上回ることになります。その後、'95年から'99年にかけて、それまで映像化されていなかった「森を抜ける道」「カインの娘たち」「死はわが隣人」「オックスフォード運河の殺人」「悔恨の日」の5作が年1作のペースで順次ドラマ化されてます。

 '89年から'93年にかけてのドラマ用のオリジナルストーリーは、原作者が構成またはその内容を示唆して、実際には複数名のスクリプトライターが脚本化したと思われますが、そうであるにしても'92年発表の本作は、そうした忙しい最中に書かれたものであることを思うと、デクスターの売れっ子ぶりとその力量は推して知るべしといったところでしょうか。
        
 【1998年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】

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