【1064】 ◎ アンドレイ・タルコフスキー 「」 (75年/ソ連) (1980/08 日本海映画) ★★★★★ (△ アンドレイ・タルコフスキー 「ストーカー」 (79年/ソ連) (1981/10 ロシア映画社) ★★★)

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一度観たら脳裏に焼き付き消えることのない神秘的かつ抒情的な映像美。

鏡 岩波ホール.jpgアンドレイ・タルコフスキー/鏡.jpg 鏡.jpg  鏡 dvd.jpg
日本公開時チラシ(1980)「鏡 [DVD]」 「鏡【デジタル完全復元版】 [DVD]

 私の夢に現われる母。それは、40数年前に私が生まれた祖父の家。うっそうと茂る立木に囲まれた家の中で、母は、盥に水を入れ、髪を洗っている。鏡に映った、水に滴る母の長い髪が揺れている。あれは1935年田舎の干し草置場で火事があった日のこと。その年から父は家からいなくなった―。(「タルコフスキー映画祭」チラシより)

鏡2.jpg '75年に作られたこの作品は、アンドレイ・タルコフスキー監督(1932‐1986)の自伝的映像詩と言えるもので、映画は作者である"私"自身の語りと共に進行し、作者が胸に秘めた母への思いや、別れた妻や息子との間に織りなされる感情の綾を意織下の過去と現実を交錯させながら浮かびあがらせています(ナレーションは名優インノケンティ・スモクトゥノフスキーが担当)。 

鏡5.jpg鏡4.jpg 夢のシーンが多くあるため映像が神秘的であり、それでいて、現実にあった出来事も含まれ、それらが自然に溶け合い、母親や別れた家族への想いが作者の悔恨の情と共に切々と伝わってきます。
 鏡に映る濡れた髪の母親の映像は圧巻で、風にそよぐ木立や草叢の映像も心象に呼応していて印象深いものでしたが、一度観たら脳裏に焼き付き消えることのないあれらのシーンを、カメラマンはどうやって撮ったのか不思議。

鏡3.jpg鏡1.jpg 少年(子供の頃の作者)が見る夢などの超常的なシーンは惑星ソラリス」('72年)を想起させ、水を映したが映像が多い点では「ストーカー」('79年)を、火事のシーンは「サクリファイス」('86年)を想起させますが、それらの作品が、そのテーマが大きさのため観る者に相当の想像力を要求しているようにも思えるのに対し(特に「ストーカー」と「サクリファイス」は状況設定と実際の映像にギャップがあり、個人的には観ていて疲れた)、この「鏡」は、作者の母親や妻をモチーフにしていることもあって、しっくりと、また、しみじみと心に響きました。
 タルコフスキーは黒澤明と溝口健二に傾倒していたということですが、この作品には日本映画っぽいウェットな面もあるような気がします。

 監督の父親で有名な詩人であるというアルセニー・タルコフスキーの詩がナレーションに含まれていますが、内容的には圧倒的に母親に対するオマージュに満ちていると思え、男は往々にして、亡き母親に対して悔恨の情を抱いて生きるのかも知れないとも思いました。
 この作品にも、過去の戦争の記録映像など"ソ連"の歴史を物語るものが断片的に挿入されてはいますが、やはり、作品的には、叙事詩と言うより鮮烈な叙情(抒情)詩と言えるものではないかと思います。それも、超一級の。


ストーカー タルコフスキーdvd.jpgストーカー タルコフスキー.jpg  因みに「ストーカー」は、ある小国にあるゾーンと呼ばれる不思議な地域―隕石の落下か何かで特異現象が生じたらしく、そこへ派遣された軍隊などで生還した者はいない―を探索する3人の男(作家、科学者とゾーンへの案内人(ストーカー(密猟者))の話であり、こうした筋立てからも分かる通り原作はSF小説で、「惑星空ソラリス」のスタニスワフ・レムと共に旧共産圏SFの代表的作家であるアルカージー&ボリス・ストルガツキー兄弟の『路傍のピクニック』(脚本も原作者自らの書き下ろし)。

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ストーカー タルコフスキー02.jpg  ゾーンを探索する3人のうちの一人を「惑星ソラリス」「鏡」などタルコフスキーのほぼ全作品に出演しているアナトリー・ソロニーツィンが演じており、音楽も、「惑星ソラリス」「鏡」に引き続いてエドゥアルド・アルテミエフが担当、更に前作「鏡」と同様、監督の父アルセニー・タルコフスキーや19世紀ロシア象徴派詩人フョードル・チュッチェフの詩が度々挿入されているという、まさにタルコフスキー色が前面に出された作品でしたが...。

ストーカー タルコフスキー01.jpg 雨、水、火など、タルコフスキー独特の映像言語を駆使してはいるものの、自分にその言語を読みとる概念化能力が不足しているためか、結局、ゾーンというのが何の象徴なのかよく分からず、おどろおどろしい雰囲気の中、何も起こらずにただ終わってしまった映画―というのが正直な印象でした。敢えて言えば、ゾーンはかっての文明の根幹、発電所の跡のようでもあり、今では緑がうっそう と茂る廃嘘となっていることから、チェルノブイリ原発跡地を想起させますが(「サクリファイス」も核による人類滅亡がモチーフとなっている)、調べてみたら、チェルノブイリ原発事故はこの作品が作られた7年後の出来事だった...。
Kagami(1975)     「鏡 Blu-ray」['13年]
Kagami(1975).jpg鏡 Blu-ray.jpg鏡 ZERKALO.jpg「鏡」●原題:ZERKALO(英:THE MIRROR)●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アレクサンドル・ミシャーリン/アンドレイ・タルコフスキー●撮影:ゲオルギー・レルベルグ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●挿入詩:アルセニー・タルコフスキー●時間:108分●出演:マルガリータ・テレホワ/オレーグ・ヤンコフスキ岩波ホール.jpg岩波ホール 入口.jpgー/イグナト・ダニルツェフ/フィリップ・ヤンコフスキー/アナトーリー・ソロニーツィン●ナレーション:インノケンティ・スモクトゥノフスキー●挿入詩朗読:アンドレイ・タルコフスキー●日本公開:1980/06●配給:日本海映画●最初に観た場所:岩波ホール (80-07-03) ●2回目:大井ロマン (83-03-12)(評価:★★★★★)●併映:「ストーカー」(83-03-12)
岩波ホール 1968年2月9日オープン、1972年2月12日、エキプ・ド・シネマスタート(以後、主に映画館として利用される)2022年7月29日閉館

「岩波ホール」閉館(2022.7.29)
「岩波ホール」閉館.jpg

Stalker (1979)
Stalker (1979).jpg
『ストーカー』.jpg「ストーカー」●原題:Сталкер(STAKER)●制作年:1979年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アルカージー・ストルガツキー/ボリス・ストルガツキー●撮影:アレクサンドル・クニャジンスキー●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ大井ロマン.jpg●美術:アンドレイ・タルコフスキー●挿入詩:アルセニー・タルコフスキー/フョードル・チュッチェフ●時間:163分●出演:アレクサンドル・カイダノフスキー/アリーサ・フレインドリフ/アナトリー・ソロニーツィン/:ニコライ・グリニコ●日本公開:1981/10●配給:ロシア映画社●最初に観た場所:大井ロマン (83-03-12)(評価:★★★)●併映:「鏡」(83-03-12)

大井武蔵野館・大井ロマン.jpg大井ロマン(大井武蔵野館) 1999(平成11)年1月31日閉館
大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)

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