【1055】 ○ スチュアート・クーパー 「兵士トーマス」 (75年/英) (1978/07 日本ヘラルド映画) ★★★★

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ノルマンディ作戦の「第1号の犠牲者」となった青年を通して、戦争の非人間性を浮き彫りに。

兵士トーマス チラシ.jpg OVERLORD.jpg 兵士トーマス パンフレット.jpg 兵士トーマス  01.jpg
「兵士トーマス」チラシ/クライテリオン版DVD/シナリオ付パンフレット (「シネ・フロント」別冊)

Overlord, Dir Stuart Cooper, UK 1975 1.jpg 第二次世界大戦中、イギリスに住むごく普通の二十歳の青年の元に召集令状が届く―。彼が両親に別れを告げて戦地に赴き、ノルマンディ上陸作戦において戦死するまでを、ドキュメンタリーフィルムを交えて淡々と描いた、ベルリン国際映画祭「審査員特別賞」受賞の佳作。

兵士トーマス 02.jpg と言っても、通常の戦争映画とは異なり、兵営における非人間的な部隊生活の中で主人公の将来が少しずつ奪われていくような様や、そうした中、村のダンス・ホールで知り合った若い娘への想いを抱くも、前線に送られることが決まって、束の間の若者らしい夢も立ち切れられ、21歳にして遺言状を書くに至るまでの心理的経緯など、ノルマンディに向かうまでに主人公の身辺及び心の中での出来事が映画の大部分を占めています。

Overlord, Dir Stuart Cooper, UK 1975.jpg モノクロですが、膨大な量を誇る大英帝国戦争博物館の未公開フィルムがふんだんに使われていて、ラストのノルマンディの戦闘シーンは、実際の空爆の映像なども交え、兵士の視点からの臨場感にあふれたものとなっています。

SOLDIER'S STORY.jpg 主人公の青年は上陸艇から1歩踏み出したところで流れ弾に当たり、あまりにあっけなく死んでしまう―(普通の戦争映画ならここからがヤマなのだが、青年の視点から描かれたこの映画はここで終わる)。

映画スチール 「兵士トーマス」3.jpg 自らの死に脅えつつも(彼は自分の死ぬ場面の悪夢に悩まされ続ける)、遺言状をしたためたぐらいですから、主人公には死の覚悟がそれなりあったかと思われますが、それでもやはり、戦わずしてノルマンディ上陸作戦の「第1号の犠牲者」となった彼にとって("彼"自身は勿論架空の人物であると思われるが)戦争とは何だったのか、果たして「犠牲者」ということで片付けてよいものなのかと考えさせられます。

 国家と国家の争いの中で、主人公個人の死は、ある種の「数」(または、全体に対する「対数」)に過ぎないものとなってしまうのでしょう(だから、「犠牲」という言葉が使われる)。しかし、彼にとって自身の生は、かけがいのないものであったはずであり、但し、そうした生きたいという彼の人間的な気持ちに顧慮してはならないのが戦争であり、あくまでも人間を「駒」として捉えるという戦争の非人間性を見事に浮き彫りにした作品となっています。また、戦勝国であるイギリスので作られた映画であるだけに、ことさらに重いものがあります。
   
映画スチール 「兵士トーマス」1.jpg映画スチール 「兵士トーマス」2.jpg「兵士トーマス」●原題:OVERLORD●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:スチュアート・クーパー●製作:ジェームズ・クイン●脚本: クリストファー・ハドソン/スチュアート・クーパー●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ポール・グラス●時間:84分●出演:ブライアン・スターナー/デヴィッド・ハリーズ/ ニコラス・ボール●日本公開:1978/07●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理(77-12-21)(評自由が丘武蔵野推理2.jpg0自由が丘武蔵野推理.jpg自由ガ丘武蔵野推理2.jpg価:★★★★)●併映:「戦艦ポチョムキン」(セルゲイ・エイゼンシュタイン)
自由が丘武蔵野推理 (後の自由が丘武蔵野館)1951年オープン、1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称して再オープン。 2004(平成16)年2月29日閉館

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