【1046】 ○ ロベール・ブレッソン (原作:レフ・トルストイ) 「ラルジャン」 (83年/仏・スイス) (1986/11 フランス映画社) ★★★★

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映画の通念をはるかに超えた"断絶"的ラスト。

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L'argent(1983)ラルジャン [DVD]」 Robert Bresson (1901‐1999/享年98)

ラルジャン2.jpg 1枚の500フラン札を偽札と知らずに使ったイヴォン(クリスチャン・パティ)は、逮捕され有罪となる。出所後に更に強盗の手伝いをして逮捕・投獄され、妻(カロリーヌ・ラング)に離婚され家族とも別れ、自殺をも考える。しかし彼は脱獄し、今度は自分を匿ってくれた一家との間にも事件を引き起こす―。

L'ARGENT 1983 01.jpgラルジャン.jpg ロベール・ブレッソン監督作で、原作はトルストイの短編小説ですが、主人公や周辺の人物が些細なことから犯罪に染まっていく過程はドストエフスキー的で(原作の複数の人物が映画では主人公1人に集約的に投影されている)、但し、後半で主人公の改心の過程が描かれるので、ヴィクトル・ユーゴーっぽい感じもします。ところがこの映画化作品では、トルストイの原作小説の後半の主人公が信仰に目覚め改心する話を完全にカットしているため、主人公が凶行に及んだところで映画はいきなり終わってしまいます。映画館で上映が終わった後、観客が少しどよめいていたような記憶があり、1983年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞していますが、その時にも上映終了時にはブーイングも巻き起こったとのことです。

L'ARGENT 19832.jpg それはそうでしょう。逃亡者となった主人公と偶然出会い、彼を匿った心優しい老婆に対して、自然に溢れた環境で老婆からの慈しみを受け改心に向かうかと思われた主人公が、老婆に突然に見舞った返礼は、斧で彼女を惨殺することだったのですから。

ラルジャン _.jpg それまで物語の流れに身を委ねる「観客」として観ていたのが、このような終わり方によって、起きてしまった出来事の中に実際にとり残されたような落ち着かない気持ちになりました。観客が無意識的に期待する"予定調和"の裏をかくというレベルを超えて、映画芸術そのものに対するアンチテーゼを示しているように思えます。

 80歳を超えてこの作品を作ったブレッソン監督は、映画の通念をはるかに超えたところにいたのだともとれるし、映画のラストシーンの、人々が誰もいなくなったレストランを眺めている場面について、「彼らは空虚を見つめているのだ。そこにはもはや何も無い。善は去ってしまったのだ」とカンヌの記者会見で述べたブレッソンの言葉からは、キリスト者としての彼の深い絶望も窺えます。
L'argent (1983)

waveオープン 1983-11-18.gifシネヴィヴァン六本木.jpgシネヴィヴァン六本木2.jpg「ラルジャン」●原題:L'ARGENT●制作年:1983年●制作国:フランス・スイス●監督:ロベール・ブレッソン●原作:レフ・トルストイ 「にせ利札」●時間:85分●出演:クリスチャン・パティ/カロリーヌ・ラング/ヴァンサン・リステルッチ/マリアンヌ・キュオー●日本公開:1986/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-12-01) (評価★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン(「WAVEビル」オープン11月18日告知[朝日新聞])/1999(平成11)年12月25日閉館

《読書MEMO》
是枝裕和監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●ラルジャン(ロベール・ブレッソン)
 ●恋恋風塵(ホウ・シャオシェン)
 ●浮雲(成瀬巳喜男)
 ●フランケンシュタイン(ジェームズ・ホエール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●旅芸人の記録(テオ・アンゲロプロス)
 ●カビリアの夜(フェデリコ・フェリーニ)
 ●シークレット・サンシャイン(イ・チャンドン)
 ●シェルブールの雨傘(ジャック・ドゥミ)
 ●こわれゆく女(ジョン・カサヴェテス)

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