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映像美、スケールの大きさ、ジグソーパズルのような構成の謎解きを堪能できる「旅芸人の記録」。
「岩波ホール」公開時ポスター(1979.08) O thiasos(1975)「テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX I」/映画パンフレット2種/Theo Angelopoulos(1935-2012)
テオ・アンゲロプロス監督には、「ギリシャ現代史3部作」、「国境3三部作」、「20世紀3部作」(第1作「エレニの旅」('04年)のみ公開済み)などのシリーズがあり、70年代に発表された「旅芸人の記録」は「ギリシャ現代史3部作」の1つ。カンヌ映画祭で寺山修司の「田園に死す」と競い、国際映画批評家連盟賞を受賞しました(当時の映画情報誌「シティロード」に両監督の対談が載った)。
新作「エレニの旅」では個人史的色合いが強くなっていますが、「旅芸人の記録」を観れば、この監督がもともとは、歴史とそれに巻き込まれる人民の関係をダイナミックに描く映像作家であることがわかります。劇中劇としての「エレクトラ」の神話(娘が父親を愛し母親を憎むという精神分析用語"エレクトラ・コンプレックス"の由縁となっている話)と登場人物たちの相関関係との相似構造、同じ場所で年代差のある複数の事件が継ぎ目なく現れるなどの複雑なカットバック(これスゴイ!)が今見ても斬新です。
アンゲロプロス監督の次の作品でヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(EMERGING CINEMA)を受賞した「アレキサンダー大王」('80年)にも期待しましたが、これは実在のアレキサンダー大を扱ったものではなく、義賊の頭領となった男をギリシャ歌劇「アレキサンダー大王」に重ねて描いたものです。
1900年の大晦日、手下の手引きで刑務所を脱獄した義賊の頭は、貴族と英国人を人質にとって故郷の北ギリシアに帰還し、彼は元々は本名も知られていない孤児だったが、このことにより「アレクサンダー大王」と呼ばれるようになる。アレクサンダーは人質を盾に、政府の密使と交渉し、仲間の釈放と身代金、更に村の解放を要求する―。
この作品の"アレクサンダー大王"は癇癪持ちで、自分の育ての母と結婚するも彼女を射殺し、交渉相手の密使も殺し、仕舞には英国人の人質らも殺してしまうという―。そこに至るまでに、複雑な政治背景が重層的に描かれていますが、その描かれ方が象徴的であったりして分かりにくかったです(併せて、カットバックで彼の子ども時代が描かれていて、現在と過去が同じフレームで併行する手法などは「旅芸人の記録」にもあった)。
「長回し」もこの人の特徴で、その分、映画自体も長くなるわけですが、「アレキサンー大王」では「長回し」が更に昂じたような気もして、「旅芸人の記録」の3時間52分に対して「アレキサンダー大王」の方が3時間28分とやや短いのに、観ていて「旅芸人の記録」より長く感じました(ロード館と大井武蔵野館の椅子のクッションの違いだけのためではないだろう)。
何よりも、この作品でアンゲロプロスが、エイゼンシュタインが「イワン雷帝」で、黒澤明が「乱」で陥ったような、あたかも歌舞伎でも見せられているような様式美へ傾斜し過ぎたのでないかという気がしました(映像的には「イワン雷帝」に迫る壮大さだけど、観客は置き去りにされているような...)。
個人的にはやはり「旅芸人の記録」が、映像美、スケールの大きさ、ストーリー構築などあらゆる点からみて一番。劇場で鑑賞したいところですが、ジグソーパズルのような構成に謎解きを挑むつもりで、自宅で冷静に鑑賞するというスタンスでも充分堪能できます。
「旅芸人の記録」
Tabi geinin no Kiroku (1975)
劇中で右翼の男達に暴行され捨てられた後、いきなり立ち上がって「血の日曜日」事件などのギリシャへの侵略戦争史について滔々と語り始めるエヴァ・コタマニドゥ
「旅芸人の記録」●原題:O THIASSOS(THE TRAVELLING PLAYERS)●制作年:1975年●制作国:ギリシャ●監督・脚本:テオ・アンゲロプロス●撮影:ヨルゴス・アルヴァニティス●音楽:ルキアノス・キライドニス●時間:232分●出演:エヴァ・コタマニドゥ/ペトロス・ザルカディス/ストラト・スパキス/アリキ・ヨルグリ/マリア・ヴァシリウ/ヨルゴス・クティリス/キリアトス・カトリヴァノス/グレゴリス・エヴァンゲラドス/アレコス・ブビス/ニナ・パパザフィロプル/ヤニス・フィリオス/ヴァンゲリス・カザン●日本公開:1979/08●配給:フランス映画社●最初に観た場所:新宿文化シネマ1(80‐02‐11) (評価★★★★★)
新宿文化シネマ1 文化シネマ1〜4・2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン
「アレクサンダー大王」●原題:O MEGALEXANDROS(ALEXANDER THE GREAT)●制作年:1975年●制作国:ギリシャ/イタリア/西ドイツ●監督:テオ・アンゲロプロス●製作:ニコス・アンゲロプロス●脚本:テオ・アンゲロプロス/ペトロス・マルカリス●撮影:ジョルゴス・アルヴァニティス●音楽:クリストドゥス・ハラリス●時間:208分●出演:オメロ・アントヌッティ/エヴァ・コタマニドゥ/グリゴリス・エバンゲラトス●日本公開:1982/03●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-11-13) (評価★★★)
テオ・アンゲロプロス(1935年アテネ生まれ) 2012年1月24日 撮影中のギリシャ・アテネでオートバイの交通事故に遭い、搬送先の病院で死亡。享年76。