【1031】 △ ジェフリー・アーチャー (永井 淳:訳) 『ゴッホは欺く (上・下)』 (2007/01 新潮文庫) ★★★

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相変わらず手馴れている。薀蓄も含め、懐かしさみたいなものは感じたが、"裏焼き"は遊びすぎ。

ゴッホは欺く 上.jpg ゴッホは欺く下.jpg    Archer back with Van Gogh novel.jpg Archer back with Van Gogh (本書より)
ゴッホは欺く 上巻 (新潮文庫)』 『ゴッホは欺く 下巻』['07年]

FalseImpression.jpg ある英国貴族秘蔵のファン・ゴッホの自画像を巡って、貴族に無理な貸付をして担保として名画も財産も巻き上げてしまおうと謀る悪辣銀行家、自画像の所有者である姉を殺された貴族の妹、彼女の財産を守るために、銀行家に挑んでいく女性美術史家(美術コンサルタント)、その彼女が悪徳銀行の手先なのか味方なのか判断がつかないまま追跡するFBI捜査官、更にこれらに、銀行家の手先のルーマニア出身の女暗殺者が絡んでのニューヨーク→ロンドン→ブカレスト→東京→ニューヨーク→ロンドンと繰り広げられる追走劇―。

"False Impression"

 2005年に刊行されたジェフリー・アーチャーの長編で(原題:False Impression)、作者お得意のハラハラドキドキもの、しかも、これまた造詣の深い絵画を題材にしたものでしたが、前段はややだるかったと言うか、主人公が9.11テロに巻き込まれるというのなどは、何かとってつけたような感じがし、但し、中盤、主人公が「ホテル西洋銀座」に泊まるあたりから、主人公、FBI、暗殺者のチェイスが面白くなり、この作家独特のテンポが復活してきたように思えました。  

 結局、これ、女性ばかりが活躍するサスペンス・ドラマだなあと(創作意図してのそれを如実に感じる)。
 聡明な貴族女性と、大胆な機知と行動力を兼備した主人公の女性美術史家、彼女を助ける親友の秘書、さらには執拗かつ冷徹な暗殺者までが女性。一方、男性側は、銀行家、FBI捜査官からして、すべてに後追い気味で、日本人実業家のナカムラが英国紳士風に振舞っていうのが、ちょっと洒落ている程度というか(これさえも、キザで芝居っぽいと言えなくもないけれど)。

 "絵画モノ"という点で『ダ・ヴィンチ・コード』を想起させ、あそこまで絵に込めた様々な意味というものは無く、その分仰々しさもありませんが、『ダ・ヴィンチ・コード』のように話が横滑りしていくだけといった感じも無く、ちゃんとクライマックスでまとめている―、でも、やはり、読んでいるときは楽しいけれど、読み終わったらそれでお終いで、それほど残らないと言う点では同じかも(『ダ・ヴィンチ・コード』のようないかがわしさが無いだけ、こっちの方がマトモであるとも言えるかも知れないが)。

 普通の作家だったら傑作かもしれないけれども、ジェフリー・アーチャーだと思って読むから、多少評価が厳しくなってしまうのかも知れません(ゴッホの絵の"裏焼き"はちょっと遊びすぎ。普通に"贋作"でいいのに)。
 相変わらず手馴れているなあ、息長く頑張っているなあと、英国人作家らしい薀蓄描写も含め、懐かしさみたいなものは感じましたが。                                    

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