【1017】 ○ ウィリアム・シェイクスピア (安西徹雄:訳) 『マクベス』 (2008/09 光文社古典新訳文庫) ★★★☆ 《(福田恒存:訳) 『マクベス』 (1969/09 新潮文庫)》 (△ ロマン・ポランスキー 「マクベス」 (71年/米) (1973/07 コロムビア映画) ★★★)

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敢えて曇天の下でロケをした、ポランスキーの映画化作品を思い出した。

マクベス.jpg 安西徹雄.jpg マクベス (新潮文庫).jpg    「マクベス」チラシ.jpg マクベス ポランスキー2.jpg
マクベス (光文社古典新訳文庫)』〔'08年〕安西徹雄(1933‐2008.5.29) 『マクベス (新潮文庫)』 映画「マクベス」チラシ/「マクベス[ビデオ]」 (下左)ロマン・ポランスキー監督「マクベス」ポスター

マクベス ポランスキー.jpgマクベス ポスター.jpg 1606年に成ったとされるシェイクスピア4大悲劇の1つであり、以前に、ロマン・ポランスキー監督の映画化作品('71年/米)を名画座で観ましたが、ローレンス・オリビエ監督の「ハムレット」('48年/英)とフランコ・ゼッフィレッリ監督の「ロミオとジュリエット」('68年/米)との3本立てでの上映で、この3本の中では一番時代劇風でありながらも、一番エキセントリックでした。

MACBETH 1971 3.jpg ホラー映画のような雰囲気もあり、ポランスキーだからと納得したいところですが、心理サスペンスが身上の彼にしては、マクベスの首から血がびゅうびゅう飛び出るようなシーンもあるスプラッター調。「マクベス」の映画化は、オーソン・ウェルズ他に続いて3度目でしたが、ポランスキー監督は、妻シャロン・テートを惨殺された事件の後の最初の作品で、血なまぐさいのはそのためなのか?(まさか)

リア王.jpg 安西徹雄の新訳も、『リア王』('06年/光文社古典新訳文庫)などよりはちょっと"重い"感じで、元来『マクベス』というのはそうしたトーンの作品だということでしょうか。『リア王』みたいに道化も出てこないし...。

MACBETH 1971 4.jpg ポランスキーの映画は屋内シーンがやけに暗く、セットの貧しさを隠すためにそうしたのだと言われていますが、野外シーンも同じように暗かったため、これは、敢えてどんよりとした曇天の下でロケをすることで、そうした中世スコットランドの政情不安からくる陰鬱なムードを象徴させていたということかも知れないと改めて思いました。

マクベス (岩波文庫)』(木下順二:訳)['97年]『マクベス―シェイクスピアコレクション (角川文庫クラシックス)』(三神 勲:訳)['96年](カバーイラスト:金子國義) 
マクベス (岩波文庫).jpgマクベス改版 角川文庫クラシックス.jpg マクベスが自らが殺したスコットランド王の幻影を見るシーンはちょっと滑稽さも感じるに対し、マクベス夫人が自分の手が血に塗られている幻覚を見る場面はストレートに怖いです(映画よりも原作の方が怖いかも)。

 「バーナムの森が動かない限り」はマクベスの王座は安泰で、「女から生まれた者には敗れることはない」という魔女の予言が、どういった形でそれぞれ破られるのかというのも、読者の興味を引くところです。「女(訳本によっては「女の股」)から生まれた者には殺されない」と魔女に告げられ慢心していたマクベスですが、マクダフは「母の腹を破って出てきた」男だったのだなあ。要するに「帝王切開」ということですが、19世紀後半くらいまで、帝王切開で母子ともに助かるケースは稀だったようです(王政ローマ時代のカエサルが帝王切開によって誕生したというのは、カエサルの生後に母親が生きていたという記録があり、伝説にすぎないようだ)。因みに、魔女たちは予言の中ですでに「マクダフに気をつけろ」とも言っています。

 訳者の安西徹雄氏は、本書翻訳後、訳稿の校正段階で病のため入院し、'08年5月に逝去しています。光文社古典新訳文庫でのこれからの新訳が楽しみだっただけに残念です。

 そう言えば、この作の「3人の魔女」のモチーフは、アガサ・クリスティの『蒼ざめた馬』の中で使われていました。
蒼ざめた馬 1997 3老婆.jpgThe Pale Horse 1997 e22.gif
「アガサ・クリスティ/青ざめた馬 (魔女の館殺人事件)」 (97年/英) ★★★☆

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第17話)/蒼ざめた馬」 (10年/英・米) ★★★☆

蜘蛛巣城 dvd.jpg蜘蛛巣城 10.jpg さらによく知られているところでは、黒澤明監督の「蜘蛛巣城」('57年/東宝)は「マクベス」を翻案したもので、クレジットにはありませんが、一般にも「マクベス」が原作であるとされています。3人の魔女ではなく一人の妖婆が出てきて、三船敏郎演じるマクベスに相当する鷲津武時という武将に、やがて蜘蛛巣城の城主になると予言し、さらに「女から生まれた者には殺されない」とは言いませんが、「森が動かなければ滅びない」とは言います。
「蜘蛛巣城」 (1957/01 東宝) ★★★★☆

IMG_20201107_035652.jpg また、手塚治虫の『バンパイヤ』は、その骨バンパイヤ 秋田書店 初版1966.jpg組みが「マクベス」であることを作者自身が明かしています。そもそも、バンパイヤの敵役となる(時に味方にも見えたりする)ロック少年の本名は間久部(まくべ)緑郎、世界制覇を目論む冷酷な少年ですが、知的な判断力を持ちながら、一方で、「マクベス」の"3人の魔女"に相当する"3人の占い師"に自分の行く末を占わせたりしています。こちらは、「蜘蛛巣城」と逆で、ロックは魔女から、「森が動かなければ滅びない」とは言わバンパイヤ tv 魔女.pngれませんが、「あんたは、人間にゃやられないよ」と言われ、これは「女から生まれた者には殺されない」と言われたマクベスと同じで、さらにロックは、「人間でないものにもやられない」と言われます(裏を返せば、「人間」でも「人間でないもの」でもない、「変身中のバンパイヤ」がロックの天敵となることになる)。「バンパイヤ」は'68年にフジテレビでドラマ化されましたが(実写とアニメの複合。主役のトッペイ役は水谷豊)、こちらにもちゃんと、ロックが頼る"3人の占い師"が出てきます。
     

MACBETH 1971 1.jpgMACBETH 1971 2.jpg「マクベス」●原題:MACBETH●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ロマン・ポランスキー●音楽:ザ・サード・イアー・バンド●原作:ウィリアム・シェイクスピア●時間:146分●出演:ジョン・フィンチ/フランセスカ・アニス/マーティン・ショウ/ニコラス・ セルビー/ジョン・ストライド/ステファン・チェイス/ポール・シェリー/テレンス・ ベイラー/アンドリュー・ローレンス/フランク・ワイリー●日本公開:1973/07●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-15) (評価★★★)●併映:「ハムレット」(ローレンス・オリビエ)/「ロミオとジュリエット」(フランコ・ゼッフィレッリ)

文庫マクベス 角川.jpg 【1958年文庫化[岩波文庫(野上 豊一郎:訳)]/1968年・1996年再文庫化[角川文庫/角川文庫クラシックス(『マクベス―シェイクスピアコレクション』(三神 勲:訳))]/1969年再文庫化[新潮文庫(福田恒存:訳)]/1980年再文庫化[旺文社文庫(大山俊一:訳)]/1996年再文庫化[ちくま文庫(『シェイクスピア全集 (3) マクベス』(松岡和子:訳)]/1997年再文庫化[岩波文庫(木下順二:訳)]/2008年再文庫化[光文社古典新訳文庫((安シェイクスピア全集 (3) マクベス.jpg西徹雄:訳))]/2009年再文庫化[角川文庫(『新訳 マクベス―シェイクスピアコレクション』(河合祥一郎:訳))]】
シェイクスピア全集 (3) マクベス (ちくま文庫)』(松岡和子:訳)['96年]カバー画:安野光雅

新訳 マクベス (角川文庫)』(河合祥一郎:訳)['09年](カバーイラスト:金子國義)

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