【988】 ○ 春山 昇華 『サブプライム後に何が起きているのか (2008/04 宝島社新書) ★★★☆

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解説が不親切な部分もあったが、「モノライン」「再証券化」のカラクリ部分だけでも読む価値はあった。

サブプライム後に何が起きているのか.jpg 『サブプライム後に何が起きているのか (宝島社新書 270)』 ['08年] サブプライム問題とは何か.jpg 『サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 (宝島社新書 254)』 ['07年]

 前著『サブプライム問題とは何か』('07年11月/宝島社新書)は、サブプライム問題表面化後、一般向け新書としては比較的早期に刊行されたこともあり、また、大学生や社会人になって間もない人を読者として想定し、複雑なこの問題を「わかり易く解説」したということもあって、好評を博したようです。

 但し、金融のプロが書いたものとしての"シズル感"は伝わってくるけれど、1冊に多く詰め込みすぎて細部においての説明に粗さも見られ、全くの素人相手ではなく、著者のブログを読んでいるような人向けの再整理用といった感じでした(実際、ブログ同様に時系列で書かれていて、そのことが、取り敢えず"シズル感"としての面白さを醸しているのかも)。

 続編となる本書では、サブプライム問題のおさらいをするとともに、前回薄くカバーした問題の中で重要と思われる部分を掘り下げ、また、新たに噴出した問題等をとりあげていますが、やはり、ちょっと難しく感じられる部分もありました(皆さん、全部わかるのかな、これ読んで)。

 ただ、ピンポイントで掘り下げて解説されている箇所に該当する「国富ファンド」とは何かといったことなどについては確かにわかり易く書かれていて("ソブリン"と名のつく投資信託などは国家機関が運用しているわけだ)、資源エネルギーの輸出代金を溜め込んだUAE(原油)やオーストラリア(多分、"鉄鉱石"だと思う)のような国のものと、貿易黒字を溜め込んだ中国やシンガポールのような国のものの2タイプがあり、最終的にはこうした"金余り国"の資本がアメリカの金融機関の危機を救うことになるのかと(アメリカの今の状況が「日本の失われた13年間」に酷似しているという指摘は興味深い)。

 結局アメリカは再生するのか、次なる世界経済の覇者は中国か、はたまた中東かといったことについて、著者の問い掛けは多いものの、近況分析から先の将来的な断定的予測は避けているように思え、基本的にこの人はウォッチャーなのだなあと。

asahi.com より
モノライン.jpg サブプライム破綻の影響が最も大きかったのが、シティなど大手銀行に加えてメリルリンチなどの大手証券だったように、住宅ローンの証券化が背景にあったわけですが、問題が深刻化した原因は、それらに「モノライン保険会社」というもの(更には「格付け機関」)が噛んだ住宅ローンの「再証券化」によるものであった―。
 モノライン保険会社とは、金融保証業務を専門とする会社のうち複数の保険を扱う一般の保険会社をマルチラインと呼ぶのに対し、金融債務のみを対象にする企業のことで、約2兆ドルもの債権を保証していますが、今回は、このモノライン保険会社の格付け引き下げが、サブプライム破綻の引き金になったことがわかります。

 このモノライン保険会社は、もともと地方債の保証が中心だったのが、近年は保証対象を住宅ローン債権のような証券化された商品にまで広げ、最上級格付けトリプルAの信用力をバックに業容を拡大してきたとのことで、財政難の自治体や、業績に問題のある企業などが公社債を発行する場合、資金調達も思うようにいかないので、本来は低格付けされ利率を高くする必要があるのに、格付けがトリプルAのモノライン保険会社がその債権を保証するとトリプルAに格上げされて資金調達が円滑になるということで、そこに「再証券化」という金融工学的なカラクリが仕組まれている(売れ残ったローン証券をかき集めて、相対的にトリプルAの部分を"創出"し続ける)とのことで、まるで破綻が"予告"されているような仕組みではないか、これでは。

 この辺りの、前著であまり触れられていない"カラクリ"部分が本書ではわかり易く解説されており、本全体に素人に対する親切さを欠いている(自分が普段勉強していないだけと言われればそれまでだが)不満はあるものの、この部分だけでも読む価値がありました。

 強引にトリプルA評価の商品を作る「再証券化」という仕組みは、実態と解離した"金融ゲーム"の世界であると同時に、クローズドの世界であり、こうした事態になって初めて実態を知り、ビックリさせられた人も世界中に大勢いたのでは。
 著者自身、証券化商品に関して素人であり、この部分は専門家のアドバイスを得て書いたと後書きにあり、"金融のプロ"でも全てを知りえないほど、この分野は高度化・複雑化しているということでしょうか(金融機関 vs.個人として見れば、こうした金融工学商品の危うさが意図的に"隠蔽化"されてきたとも言える)。

《読書MEMO》
●リーマンショック
2008年9月15日アメリカの証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発し、株価が大暴落した。
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