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「問題社員」がリアルに描かれていて、グッと引き込まれたが...。
『名もなき毒 (カッパ・ノベルス)』『名もなき毒』(2006/08 幻冬舎)
2006(平成18) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2007(平成19)年・第41回「吉川英治文学賞」受賞作。
私こと杉村三郎は、義父が総帥である今多コンツェルンの広報室で社内報づくりに携わる編集者だが、トラブルメーカーのアルバイト・原田(げんだ)いずみの身上調査のため私立探偵の北見一郎を訪ね、偶然そこにいた、連続無差別毒殺事件で祖父を殺された女子高生・古屋美知香、さらにその母親・暁子と関わりを持つことになる―。
『誰か』('03年/ 実業之日本社)の続編で著者3年ぶりの現代ミステリ。社会派ミステリの傑作が多い著者にしては『誰か』というのはこじんまりしていて、2時間ドラマみたいだと感じたのですが、本書を読んで、シックハウス症候群や土壌汚染、毒物ネット販売といった社会問題は出てきますが、そうした「名前のつけられた毒」との対比において、人間の心の中に潜む「名もなき毒」を描こうとしていることがより浮き彫りになっていて、一般に言う「社会派」とはちょっと異なると思いました(むしろ、著者が時代物でよく描いていた女性の怨念のようなものを現代物に持ってきたという感じか)。
前半、問題を起こすアルバイトの原田いずみと、それに振り回される社員たちの様子がリアルに描かれていて、身近に実際にあるような話であり、グッと引き込まれました(著者がそういうものを参照したかどうかは分からないが、労働裁判や個別労使紛争などでの類似した事例とその記録は山ほどあるはず)。
個人的には、原田いずみは、他人を傷つけずにはおれない、ある種「人格障害」だという印象ですが、こうした、世の中に復讐することが生き甲斐みたいになっているタイプというのは、松本清張の作品などにもよく出てきたのではないかと思い、やはり、この人、清張作品の影響が強い?(但し、原田いずみは、精神面で最初から相当に壊れているが)
現代物は、素材が身近であれば、かなりハマる確率は高いように思え、個人的には"まあまあ"程度にハマりました。但し、(489ページは、著者の作品にしては長くないのかも知れないが)自分としては中盤はもっと圧縮できるような気もしました。
所謂"キャラが立っている"とでも言うか、最もよく描かれているキャラクターの(この描き方だけで、この作品は充分評価に値するし、テーマの一環を担っている)原田いずみが、ミステリとしてのメインプロットには乗っかってきておらず、騒ぎを起こしているだけの存在みたいで、それとは別に、"事件"を描き、更には家庭内の問題をも描き...といった感じで、これが冗長感に繋がっているのかも。
【2009年ノベルズ版[カッパ・ノベルズ]/2011年文庫化[文春文庫]】
《読書MEMO》
・TBS系列「月曜ミステリーシアター」
2013年TVドラマ化「名もなき毒」
小泉孝太郎主演
第1話~第5話「誰か Somebody」共演:深田恭子
第6話~第11「名もなき毒」共演:真矢みき