【1003】 ○ 安部 公房 『箱男 (1973/03 新潮社) ★★★★

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オタク(引きこもり)に繋がる先駆的モチーフであるとともに、「愛」を巡る実験小説。

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箱男』['73年/新潮社] 『箱男 (新潮文庫)』 [旧版/新版] 「文學ト云フ事 第10回『箱男』」('94年/フジテレビ)緒川たまき
安部 公房 『箱男』8.jpg 1973(昭和48)年に刊行された本作品の単行本は、200ページ足らずのものですが、「箱入り」装填。内容は、頭からすっぽりとダンボール箱を被って世間から自分を遮断し「箱男」となった男の視点で綴られる奇妙な物語です。男が箱を作ろうと思ったのは、別の「箱男」を見たのがきっかけということでそれ以上の説明は無く、むしろ、だんだんと「箱男」化していく様や箱の作り方などが丹念に書かれているのが何だか変なムードです。

箱男 ハードカバー_.jpg その「箱男」が、自分に関心を寄せる(結果として自分が関心を寄せることになる)葉子という女性が看護婦を務める病院で医者をしている「贋箱男」と出くわした辺りから、物語の主体(語り手)が時折入れ替わり、実はこの医者は贋医者で、本当の医者は葉子の夫で、これも今は「箱男」として自分の病院に入院している―ということで、ややこしい。

箱男』['87年/新潮社ハードカバー]

 彼らが交互に語り手となり、誰が本当の「箱男」なのかという問いかけがありますが、「贋箱男」も含めれば実はみ〜んな「箱男」なのであり、一見ストーリー破綻しているように思えるけれども、冒頭で箱作りに勤しんでいたのは「贋箱男」だったわけで、プロット的には予め計算され尽くしたものと言えるかと思います(つまり、出だしから、物語の主体は何度か入れ替わっていたということになる)。

 作者はこの作品について、「箱の中の男には実態というものがありません。ただ箱の内側から世界を覗き見るだけです。外の人々は彼のことをただの箱だと考えて、人間だとは思っていません。だからこそ、この作品では見られることと見ることの関係が重要なモチーフとなるのです」(「ユリイカ」1998.4再掲)と語っています。
 オタク(または"引きこもり")の行動特性に繋がるような先駆的なモチーフであるとともに(ある意味「世に出るのが早すぎた作品とも言える)、箱男、贋箱男、葉子(ハコとも読める)の3者間の「愛」を巡る実験小説であるとも言えます。

 それはまた、箱男と贋箱男との間での「書く者」と「書かれる者」との支配権闘争ともとれるもので、争っているうちに(読んでいくうちに)最後は誰が本当の「箱男」(書く者)なのか、登場人物も読者もおぼつかなくなってくる―。

 発表当時に評価が割れたせいか、この作品は「砂の女」のように映画化はされていませんが、かつて、フジテレビの深夜枠であった「文學ト云フ事」という文芸作品の映画予告篇だけを作る番組で映像化されていて(1994年6月28日放映)、そこでは最後、元祖「箱男」が贋医者に看護婦・葉子(緒川たまき)を好きにしていいと言われて箱を抜け出し、その間に医者は箱にその身を隠し「箱男」となる―というストーリーになっていました。

 また、作中に作者自身が撮影した「箱男」目線の写真が何枚か挿入されていますが、作者はこれを「挿入詩」のようなものと捉えているらしく(前出「ユリイカ」)、文庫新装版のカバーデザインにその中の1枚が使われています。

 【1982年文庫化[新潮文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2008年9月23日 22:52.

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