【1000】 ○ 池田 亀鑑 『平安朝の生活と文学 (1964/04 角川文庫) 《(2012/01 ちくま学芸文庫)》 ★★★☆

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「平安朝後宮生活」のガイドブック。著者の清少納言に対する評価は高いように思えた。

平安朝の生活と文学 (ちくま学芸文庫).jpg平安朝の生活と文学.jpg  池田亀鑑.jpg  池田亀鑑(いけだ きかん、1896‐1956/享年60)
平安朝の生活と文学 (角川文庫 白 132-1)』 ['64年/角川文庫]
平安朝の生活と文学 (ちくま学芸文庫)['12年/ちくま学芸文庫]

 国文学者・池田亀鑑は平安朝文学の大家であったことで知られますが、東大の助教授から教授になるまでに21年かかり、58歳でやっと東大教授になったものの、その翌年亡くなっています。
 その間に立教大学の教授なども務めた時期もありましたが、文献学から入り、古典文学の脚注や現代語訳に携わる時間があまりに長かったためか(『源氏物語』『枕草子』などは個人で完訳している)、または考え方そのものが当初は傍系だったのか、母校の正教授になる時期が遅れた理由はよく判りません。

 本書は、平安朝文学の母体となった後宮生活の実態を、『源氏物語』『枕草子』などの当代作品を素材として概説したもので、「平安朝後宮生活」のガイドブックのようなものです。
 著者の没後に刊行された角川文庫版の定本となっているのは、'52(昭和27)年に河出書房の市民文庫の1冊として出されたもので、当時まだ、こうした後宮生活全般について書かれた本は世に無かったようです。

 平安京の様子、後宮の制度、女性の官位と殿舎、宮廷行事から公家たちの生活ぶりや、女性の一生がどのようなものであったか、服装美・容姿美・教養に対する考え方、生活と娯楽、医療・葬送・信仰まで、幅広く解説されていて、大家がこうした"概説書"を丁寧に書いているという点で、古典文学愛好家の間での評価は高いようです。
                                  
色好みの構造 ― 王朝文化の深層.jpg 最近、中村真一郎『色好みの構造』('85年/岩波新書)を面白く読みましたが、こうした本を読むにしても、平安朝の古典を読むにしても、一応、背景となる後宮生活の実態をある程度知っておいて損はないと思います。
 後宮生活に入る女性の動機が立身出世だったのに対し、清少納言のそれは「教養を高めるため」だったとか、興味深い記述がありましたが、全体としては、比較的地味な"概説書"で、結婚制度や妊娠・出産などについても書かれています。
 但し、「恋愛」とか「性愛」といったことには殆ど触れられておらず、意識的に"概説書"の域に留まることを旨として書かれているようです。

中村真一郎 『色好みの構造―王朝文化の深層 (岩波新書 黄版 319)

池田亀鑑 「枕草子」.jpg それでも専門家的立場からの私見が所々見られ、当時の後宮の女性は、やはり愛する人の正室となり添い遂げるごとが本望だったというのは、中村真一郎の『色好みの構造』の展開とは異なるものです。
 中村真一郎の池田亀鑑に対する評価がどうであるのかは判りませんが、作家によって書かれた『色好みの構造』も面白いけれども、むしろこちらの方が説得力あるようにも思えなくもないです。

 『色好みの構造』の中で、紫式部が、和泉式部は古典的教養にも理論的知識にも欠けるから、本物の歌人とは言えないだろうが「口から自然と歌が生まれてくる」タイプと評していることが紹介されていますが(部分的には"天然の才"を評価していることになる?)、本書では、紫式部は清少納言のことを「生学問」をふりかざす女と見ていたとあります(全面批判?)。
 しかし、紫式部から清少納言に贈られた歌への清少納言の返歌から、彼女が機知と教養を兼備していた女性であったことを、著者は推察しています(この辺り、著者は清少納言を高く評価しているように思える)。

      池田 亀鑑 『枕草子 (1955年) (アテネ文庫―古典解説シリーズ〈第14〉)』 弘文堂

【2012年文庫化[ちくま学芸文庫]】

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