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書簡文の殆どが、金の工面に関わるものであったドストエフスキー。
『ドストエフスキーのおもしろさ―ことば・作品・生涯 (岩波ジュニア新書)』 ['88年]/ドストエフスキーの肖像画(ヴァシリー・グリゴリエヴィチ・ペロフ画/モスクワ・トレチャコフ美術館)
ドストエフスキーの作品や書簡から言葉を拾って、その部分を軸に、ドストエフスキーの作品やその登場人物の面白さ、更には、ドストエフスキーがどんな人物であったかを浮き彫りにしています。
ジュニア向けということで、見開き1テーマの読みやすい体裁をとっていますが、語られている作品や人物の分析は奥深く、高校生以上向け、むしろ、一般向けと言っていいかも。
やや、ブツ切り感はあるものの、こういう本からドストエフスキーに入っていくのも、或いは、ドストエフスキーを復習的になぞるのも一法だと思いました(本書はどうして絶版になったのだろうか?)。
著者は、ドストエフスキーの書簡集なども翻訳しているため、手紙からの引用も多く、更には、評論や創作ノートなど、引用の幅は多岐に及んでいます。
また、5大長編だけでなく、「分身」「死の家の記録」「虐げられた人たち」「賭博者」などのドストエフスキーを語る上で鍵となる作品や、「白夜」「ネートチカ・ネズワーノア」といった初期の小品からの引用もあります(短篇や初期作品にヒューマンなもの、叙情的なものが多いということもあるだろう)。
全体を通して作品入門書としても読めますが、ドストエフスキーという人物を知る上では、とりわけその手紙が興味深く、彼の手紙は「文学者の手紙らしくない」と言われているそうですが、全て実用の通信文で、殆どが金の工面に関わるものであるということ、従って、一般読者を意識しないで書かれており、生活の苦しさや楽しさ、嘆きや憤りがストレートに表されています。
他の文豪の書簡などと異なり、"芸術的香気"は無いけれども、生半可な自伝を読むよりは印象に残ると著者も言っていますが、まったくその通りだと思いました。
個人的には、妻アンナ宛の手紙から、"賭博病"だったドストエフスキーが賭博をやめたきっかけが、亡父が恐ろしい姿で夢枕に立ったためであるとしているのが興味深かったです(一般的な説では、賭博禁止令により、ロシアにルーレットを用いる賭場が無くなったためとされていたのでは)。