【974】 ○ 北村 雄一 『深海生物の謎―彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか』 (2007/08 サイエンス・アイ新書) ★★★★

「●動物学・古生物学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1802】 ダグラス・パーマー 『EVOLUTION 生命の進化史
「●き 北村 雄一」の インデックッスへ

自分が今まさに「海底潜望鏡」を覗いているような"シズル感"。

深海生物の謎2.jpg深海生物の謎 彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか (サイエンス・アイ新書 32) (サイエンス・アイ新書 32).jpg   深海生物ファイル.jpg
深海生物の謎 彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか(サイエンス・アイ新書32)』['07年/サイエンス・アイ新書]『深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち』['05年/ネコ・パブリッシング]

 ソフトバンククリエイティブの"サイエンス・アイ新書"の1冊。著者の『深海生物ファイル』('05年/ネコ・パブリッシング)が好評だったもののやや値が張るため(内容から見れば高くはないのだが)、同じような構成でこれを新書化したのかなと思っていましたが、いい意味でちょっと違っていたかも。

 冒頭、三浦半島で見られる深海生物の痕跡、というやや身近な話に続いて、1993年に海洋研究開発機構が初島沖海底(水深1175m)に設置した観測ステーションのことが紹介されていて、以来14年間、この"初島沖ステーション"は継続的に深海の模様を映像で伝えてきているとのこと(このようなものがあるとは知らなかった。まるで惑星探査みたい)、本書では、このステーションによって観察された深海生物の映像を中心に、「しんかい」などの海底探査船の観測写真なども多く掲載されています。

 写真そのものの多くは、『深海生物ファイル』に掲載されていたものに比べると"派手さ"はないけれども、解説文章と併せて見ていると、深海魚やクラゲが装置に迫って来て(ぶつかってしまうのもいる)自分が今まさに「海底潜望鏡」を覗いているような"シズル感"があります。

 サカナのくせにまともに泳がず、のたうちながら海流に流されていってしまうものや、逆に、飛び立つように、或いは踊るように泳ぐナマコなど、見ていると結構、海の生き物に対する既成概念が変わる―。
 ヒラノマクラなど鯨骨に群がる生物群も興味深く、今まで、クジラの死んだ後の死体のことなんか考えてもみなかったけれど、何年、何十年にも渡って深海生物の栄養資源になっているのだなあと、ちょっと自然の摂理に感心させられました。

 『深海生物ファイル』と違ってイラストのためのページはとっていませんが、写真で深海生物の形態が見にくいものには、同じ場所にイラストが添えてあるのが親切。
 写真が、単なる形態写真ではなく、"生態"写真の観点から撮られている点、解説文が非常にわかり易い点は、『深海生物ファイル』同様、この著者ならではないかと思いました。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1