「●分子生物学・細胞生物学・免疫学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【972】 田中 幹人 『iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?』
○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書(山中 伸弥)
楽しく読めたが、iPS細胞を理解するうえではやや物足りない。
『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』 (2008/05 集英社)
'07年11月にヒト細胞からのiPS細胞作製成功を発表した山中伸弥・京大教授に対して、畑中正一・京大名誉教授が聞き手になって、iPS細胞とはどのようなものか、iPS細胞が出来たときの模様やそこに至る道のり、克服しなければならない問題は何か、再生医療などにおいて今後どういった可能性を秘めているか、などを聞いた対談。
こうした研究開発"秘話"のような話が好きなので、楽しく一気に読めましたが、もともと正味150ページぐらいしかなく、活字もやけに大きくて、通勤電車で片道 or 1往復の間に読める?
「ヒトiPS細胞成功」のニュースが新聞に報道されたその日から、集英社の編集者がこのことを本にしたいと動いたようですが、やがて山中教授は「時の人」となり、以降ずっと多忙を極める日々が続いているようで、1回きりの"決め打ち"対談で無理矢理1冊の本にしたような感じも。
でも、当事者が登場して語っているので、シズル感は満点。神戸大学医学部卒、大阪市立大学助手、奈良先端技術大学院大学助教授(後に教授)というコースは、失礼だけれど、ノーベル賞コースらしくないのでは。それが、世界の天才たちを差し置いて、少なくとも日本人科学者の中ではノーベル賞候補の筆頭に一気に躍り出たというのは痛快でもあります。
ただ、米グラッドストーン研究所での研究員としての経験がやはり生きているみたい。それと、この人柄。学生時代は柔道とラグビーを、今はランニングが趣味のスポーツマンですが、いかにも、若い有意な研究者たちが慕ってついてきそうな感じがします。
ES細胞とiPS細胞の違いなどを、解説書と異なり、対談の中で本人に語らせているので、アウトラインの説明がラフなまま、いきなり専門的な話になったりする部分があり、iPS細胞の入門書としては、別のものも読んだ方がよいでしょう。他の学者たちとの研究の差別化のポイントなどは、本人の語りによって、より実感を持って伝わってはきますが。
それと、iPS細胞の再生医療における可能性に対して畑中氏の寄せる期待が、あまりに楽観的なのも気になりました。
技術的な問題だけでなく、諸外国に比べ厳しい国内の規制の問題、国の支援のあり方の問題などあるはず。それらに深く触れずに終わっているのは、いわば"ご祝儀対談"であるためでしょうか?
《読書MEMO》
山中 伸弥 氏 2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞