「●国際(海外)問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1771】 富坂 聰 『中国の地下経済』
タイトル通りなのは最初だけ。広く問題をとりあげた分、新聞の纏め読みのような印象。
『老いはじめた中国 (アスキー新書 049)』 ['08年] 青樹明子 『「小皇帝」世代の中国 (新潮新書)』 ['05年]
第1章ではタイトル通りで、中国という国の人口が日本以上に急ピッチで高齢化していて、それは「一人っ子政策」によるものですが(中国は人口増加が横ばいとなり、少子化問題が国の大きな問題となった現在も、この政策を廃してはいない)、そのことが労働経済や教育にもたらす影響を分析しており、人口の減少が始まるのは日本より少し先ですが、そのスケールが大きいだけに、こっちまで心配になってくるような内容。
本書にある、一人っ子は「小皇帝」などと呼ばれて大事に育てられたために、甘やかされすぎて「超わがまま」な傾向にあるといった話は、広東衛星ラジオ放送キャスターの青樹明子氏による『「小皇帝」世代の中国』('05年/新潮新書)といった本もあり、既知の人も多いのでは。
第2章では環境問題を扱っていて、三峡ダム建設で120万人の住民が立ち退き移転させられたのはよく知られていることですが、治水上、更にそれを上回る230万人以上もの人を移転させる必要が出てきているとのこと(ダムの水位を下げればこの数字は違ってくるが)、石炭採掘による地盤沈下なども各地に起きていて、ずっと経済最優先でやってきて、二酸化炭素排出量もアメリカを抜いて世界一になり、本当にこの国の環境政策は大丈夫なのかなという気になってきます。
三峡ダムの建設地周辺で発生した山崩れ (写真:㈱大紀元)
第3章以降は、主に経済問題を扱っていて、こうして見ると、タイトルに沿った内容は、第1章だけではなかったかと...。結果的には、中国が今抱えている問題を俯瞰するうえでは悪くはないのですが、「サーチナ」に連載されたものがベースになっているということもあって、やや新聞やネット記事を纏め読みしているような感じ(範囲が広い分、1つ1つが浅い)。
先日、スポーツジャーナリストの松瀬学氏の『こわ〜い中国スポーツ』('08年/ベースボール・マガジン社新書)という本を読みましたが、かつて『汚れた金メダル-中国ドーピング疑惑を追う』('96年/文藝春秋)という本を書いたりしていた割には、今回は、タイトルから想像されるような当局批判は見られず、最近気になるのは、中国当局のお墨付きをもらった人が中国に関する本を書いているのでは、と思える点です(松瀬氏は北京五輪の取材を予定する一方、最近は、『五輪ボイコット-幻のモスクワ、28年目の証言』('08年/新潮社)という本を上梓していて、矛先をロシアに変えた?)。
本書の著者についても、元日本経済新聞・北京支局長(現在は拓大教授)で、今も、中国経済学会理事、日中関係学会理事という人らしいですが、そう言えば、随所で当局の政策に懸念を示しながらも(それさえも、中国政府高官などが自らも了解している範囲内に見える)、将来については意外と楽観的に書かれているような。
後半は、'07年の温家宝首相来日に合わせて中国の国営テレビが作った「岩松看日本」 という番組での白岩松というTVキャスターの日本取材記の話が唯一面白かったけれど、この人、渡辺淳一、浜崎あゆみ、村上龍、栗原小巻など中国で人気のある日本人にインタビューをしたのは本書にある通りですが、日本の一般の家庭を訪問してゴミの分別方法を見て、日本人の環境問題意識の高さに仰天している、そうしたことを別の本か何かで読んだのですが、こうした話は本書では省かれているのが物足りない。
白岩松(中央電視台・主持人)