【964】 ○ 朝日新聞大阪本社編集局 『ルポ 児童虐待 (2008/07 朝日新書) ★★★★

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読者に虐待問題をケーススタディ的に考えさせるものとなっている。

ルポ 児童虐待.jpg 『ルポ 児童虐待 (朝日新書 122)』 ['08年]

 朝日新聞大阪本社編集局の虐待問題取材班による新聞連載を新書に纏めたもので、幼児、児童に対する身体的虐待、精神的虐待、ネグレクト(性的虐待はまた異なる問題を孕んでいるとして、本書では扱っていない)を、虐待事件の事例及び周辺関係者について取材していますが、事件の背景にある家庭環境や児童相談所の現況(人手不足!)だけでなく、虐待児童を預かる「児童養護施設」や虐待児童を育てる里親、そうした子を生徒に持った教師、虐待の連鎖を断ち切ろうとする人たちの支援組織や、この問題に力を入れている医療機関にまで取り上げていて、その取材範囲は広く及んでいます。
 こうした連載を新書に取り纏めると、通常はどうしても"ぶつ切り"感を伴うものになりがちですが、本書では、冒頭1つの虐待事例に50ページもの紙数を割くなどして、読者に虐待問題をケーススタディ的にじっくり考えさせるものとなっているように思えました。

 それにしても、冒頭の事例は深刻。
 読み進むうちに、虐待をした母親が子ども時代に虐待を受けていたことが明らかになり、「ああ、またアダルト・チルドレンか」と、最初はややゲンナリもさせられました。
 個人的には、母親の幼児期の被虐体験に重きを置き過ぎることにはあまり同調しかねるのですが、それは、被虐体験のある人は親にはなれないというような理屈になりかねない気もするからであり、一方で、幼児期の被虐体験を乗り越えて社会に一歩を踏み出した若者などのことも本書後半で紹介されていることなどから見ても、結局、本人次第であって、子どもを死なせたりすれば、一般の過失致死や殺人と同等に扱うべきではないかと...。

 しかし、本書のこの事例の母親の場合、子どもを虐待している時の記憶自体が飛んでしまっているようで、ある種、解離性障害を呈していると言えますが(本書後半にも、虐待を受け、「四重人格」状態となった子どもの例が出てくる)、こうなると、責任能力をどこまで問えるか。
殺さないで 児童虐待という犯罪.jpg 子どもが泣き叫ぶなどのストレス刺激で瞬時に別人格になって子どもに暴行をふるい、その後は何事もなかったかのように穏健な態度に戻る...ちょっと何か取ろうとして手を伸ばしたら、子どもが思わず防御姿勢をとるのを見て、初めて、子どもが自分の暴力を恐れていることに気づくといった例も。
 
 以前に読んだ毎日新聞の児童虐待取材班の『殺さないで-児童虐待という犯罪』('02年)では、児童虐待は犯罪であるという立場で貫かれているルポであり、個人的には取材班のその姿勢に共感しましたが、本書は事実のルポルタージュに徹し、判断や問題点については読者に考えさせるかたちをとっているように思えました。

児童虐待 現場からの提言.gif 児童相談所の抱える問題などは、本の最後の座談会で、弁護士の岩城正光氏や元児童相談所相談員の津崎哲郎氏が、警察や司法の関わりを強化することを訴えていますが、正論だと思います。
 既に川崎二三彦氏が、『児童虐待―現場からの提言』('06年/岩波新書)の中で、司法(家裁)や警察が問題に立ち入りたがらない傾向にあるため、児童相談所が、「福祉警察」的な役割と「カウンセリング・支援」的な役割という、相反する役割を一手に担わなければならなくなっていることを明確に指摘しており、人手不足の問題もさることながら、こっちの方が本質的な問題ではないかと思われます。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年8月 2日 23:41.

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