【953】 ○ 多賀 敏行 『「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史』 (2004/09 新潮新書) ★★★☆

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「エコノミック・アニマル」の本来の意味には、素直に「へぇ〜」だったが...。

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった.jpg 『「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)』 ['04年]

 一般に日本人を否定的に捉えたものとされる「日本人は12歳の少年」(マッカーサー元帥)、「エコノミック・アニマル」(ブット外相)、「ウサギ小屋」(EC報告書)といった表現の真意はどこにあったかを探り、それが必ずしも日本人の意識やその暮らしぶりを否定的に捉えたものではなかったことを明かした前段(1・2章)部分が、裏づけ調査も綿密で、インパクトもありました。

 マッカーサーの言葉は、同じ敗戦国ドイツとの対比において、民主主義の歴史が長いドイツが国際ルールを破って戦争したのは、"大人"が意図的にやった選択(民主主義を手放したこと)に誤りがあったものであり、ドイツ人の性格自体は"大人"であるゆえに変えようがなく、それに対し、日本での民主主義の歴史は浅く、これまで世界のことも十分に知らなかった日本人は、これからの教化によって変わり得る(成長し得る)といった意味合いだったらしい(これって、褒めているのかどうかはやや微妙ではないか)。

パキスタン元外相アリー・ブット(後に首相)と娘のベナジル・ブット(後に首相)(AFP).jpg 表題にある、当時のパキスタンの外相アリー・ブット氏が日本人記者との話の中で使った"Economic Animal "の"Animal "は、例えば「政治」を得手とする人物を評して"Political Animal"というように(学生時代に勉学が振るわなかったのに大物政治家となったチャーチルがそう呼ばれた)、「日本人はこと経済活動にかけては大変な才能がある」という「褒め言葉」だったとのことで、これには素直に「へぇ〜」という感じ(これが日本人批判と誤解されたためか、彼が政争に破れた時に日本人からあまり同情されなかったというのは気の毒)。「ウサギ小屋」というのが、フランスでは、都市型の集合住宅の一形態を指すにすぎないもので、貶める意味を持たないということも初めて知りました。

 パキスタン元外相アリー・ブット(後に首相となり絞首刑に)と娘のベナジル・ブット(後に首相となり暗殺される)(AFP)

 ただ、中盤は、漱石の英国留学時代の話に自分の英国留学の思い出を重ねたりしてエッセイ風であり、終盤は、ダイアナ妃やブッシュ親子の英語の用い方など、ややトリビアルな話になり、テーマも、国同士のコミュニケーション・ギャップという観点から、単なる「英語表現」の問題に移った感じ。

 後者のテーマが1冊を貫いていると見れば、サブタイトルの「誤解と誤訳」には違わぬ内容ではあるかも知れないけれど、何となく本としての纏まりに欠くように思ったら、別々に雑誌などに発表したものを纏めて1冊にしていたのでした。
 「日本人は12歳」、「エコノミック・アニマル」、「ウサギ小屋」に関しては、'93年と'95年に雑誌「文藝春秋」に発表されたもので、著者(前バンクーバー総領事)は、随分前から言ってたんだなあ、このことを―(この部分だけでも、一応の読む価値はあると思うが)。

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