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なぜ、返せなくなるような人たちに貸したのかを、アメリカの社会構造から分析しているのが興味深い。
『サブプライム問題の正しい考え方 (中公新書 1941)』['08年]
'07年末から'08年にかけて世界経済を混乱に陥れたサブプライムローン問題については、すぐさま何冊かの関連書籍が刊行され、'07年11月には『サブプライム問題とは何か』(春山昇華 著/宝島社新書)といった新書も出ており、'08年4月での本書の刊行は、必ずしも早いものではないかもしれませんが、但し、さすが中公新書というか、経済学者(建設省OB)と実務家(住宅金融支援機構の研究員)という2人のプロが組んで、カッチリした解説を施したものとなっています。
とりわけ、サブプライムローンの破綻原因を、お金を返せない人(必ずしも低所得者のことを指すわけではない)に貸したのがそもそもの誤りだったと断定し、なぜそんなことになったのかを、アメリカの人種問題なども含めた社会構造の分析にまで踏み込んで解説しているのが、本書の特長と言えます。
サブプライムというのは、「プライム(優良)」に及ばないという意味で、過去に延滞履歴があるような信用度が低い人向けのローンであり、アメリカの通常の住宅ローンの大部分が、金利を長期固定したものであるのに対し、サブプライムは、殆どが最初の数年だけ固定金利で、あとは変動金利で返済額が急増するリスクがあるというもので、それを信販会社の延滞者ブラックリストに載ったことのあるような人に融資するわけですから、安易に選ばれて返済不能に陥る危険を回避するために、予め金利が高めに設定されていたとのこと。
それが、2000年代に入り、ITバブル崩壊や同時多発テロなどで米国内の景気後退懸念が高まり、FRBが金利引き下げ策をとったため、ローン金利も下がって借り易くなってしまい、金融リテラシーの低い黒人やヒスパニックなどの利用がどっと増えたとのことで、証券化され世界中の投資機関の投資対象先になっていたことも、影響がグローバルに及んだ(特に欧州)原因のようです。
サブプライムローンの主な借り手(返せなくなった人たち)は、住宅価格の高騰とその後のバブル崩壊の影響が大きかったフロリダのヒスパニック層、'05年にハリケーン被害を受けたルイジアナやミシシッピの黒人層、自動車産業の低迷で景気が沈滞しているミシガンやオハイオなど五大湖周辺都市の白人ブルーカラーなどで、ロケーション毎にアメリカの社会問題が反映されているような感じです。
個人的には、こうした前半部分が興味深く読め、中盤の国際金融問題との関連を論じた部分はかなり専門的(一般の読者はここまで知る必要もないのでは)、後半の日本の住宅金融システムへの示唆なども、この時期に刊行するならばここまで論じておかねばという意欲が感じられるものの、金融リテラシー問題や"サブプライムに似たもの探し"において日米同列で論じるのはやや強引な気もし、証券化の技術問題は、まあこれからといった感じでしょうか。
今後、日本がすべきこととして、内需拡大、給与水準引き上げ、高所得者の税負担の強化と一般の社会保障負担の抑制などを挙げているのには、ほぼ賛成です。