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読ませ所はあったが、こういう挟み方はちょっと...。
『こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701)』['08年] 『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)』['05年]
大阪大学の大竹教授の研究グループ(社会経済研究所)のメンバー約20名が執筆分担して、「週刊エコノミスト」に連載した経済エッセイを新書に纏めたもので、社会制度の設計はインセンティブを無視しては成り立たず、そのような仕組みを考えるうえで、経済学的思考法は"使える"―との考えのもとに、肥満や喫煙のメカニズムを解いたり、出世や談合、耐震偽装といった問題を経済学の視点から分析したりしています。
身近な話題が多く、「美男美女への賃金優遇は不合理か」とか「出世を決めるのは能力か学力か」といった話も、統計分析の考え方を主眼に話を進めているので、どうやって統計を取るのか? とりあえず結果は?という方へ関心が行き、すんなりは入れるのではないかと思われます。
個人的には、「談合と大相撲の共通点とは」という章の、千秋楽に7勝7敗の力士が8勝6敗の力士と対戦した場合の勝率は8割に近く、翌場所、同じ力士に当たった際の勝率は4割に半減する、といったデータなどは興味深かったです。
ただ、基本的には、大竹氏の『経済学的思考のセンス』('05年/中公新書)の前半部分の手法を、執筆分担制にしただけの"二番煎じ"であり、前著はまだ後半部分において、労働経済学の観点から公的年金やワークシェアリング、年功賃金や成果主義、或いは所得格差の問題を考える際に、こうした統計学的な考え方やインセンティブ理論を応用してみせていたのですが、本書は、単なる軽い読み物で終わってしまっている気も...。
連載の新書化だからしょうがないかな(前著も、連載と他の発表論文の組み合わせだったが)と思いきや、いきなり、「不況時に公共事業を増やすべきか」などというモロなテーマが出てきて、書いているのは、大竹氏の研究所の先輩にあたる小野善康氏(巻末の執筆者一覧で、1961年生まれになっていたが、これは1951年生まれの誤りでしょう)であり、しっかり小野流の「構造改革論」を展開しています。
読ませ所はあったわけですが、こういう挟み方はちょっと...と思うのは、偏狭過ぎるでしょうか。