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「蘊蓄本」と言えばそれまでだが、構成は工夫されている『漢字の常識・非常識』。
加納 喜光『漢字の常識・非常識 (講談社現代新書)』['89年] 山本昌弘『漢字遊び (講談社現代新書 (783))』['85年] 長谷川 滋成『難字と難訓 (講談社現代新書)』['88年]
講談社現代新書には、漢字読み書き大会(写研主催)で"漢字博士"になった山本昌弘氏の『漢字遊び』('85年)という本がありましたが、テスト問題形式で、漢字のパズル本といった感じ(読めるけれど書けない字が多かった)。「海」という字が「あ・い・う・え・お」と読めるということ(海女のア、海豚のイ、海胆のウ、海老のエ、海髪(おご)のオ)など、新たに知った薀蓄多かったけれども、どこまでも薀蓄だけで構成されている本という印象も。
また、漢文学者・長谷川滋成氏の『難字と難訓』('88年)は、難字の字源解説にウェイトを置き、こちらは白川静の本などに通じるものがありました。
これらに対し、中国の医学・博物学史が専門である加納喜光氏による本書 『漢字の常識・非常識』('89年)は、漢字の用法にまつわる古代から現代までのエピソード(文化大革命で中国の漢字がどのように変化したかなども紹介されている)をパターン別に紹介していて、その応用としてのクイズなども含まれていますが、蘊蓄が楽しめるとともに、読み物としてもそこそこに味わえるものでした。
こうして見ると、日本に入ってからかなり柔軟に用法が変わったものも多い(代用や誤用で)ということがわかり、例えば「気迫」などは意味を成しておらず(気が迫る?)、元々「気魄」の代理として用いられたものだとのこと(「緒戦」→「初戦」、「波瀾」→「波乱」などもそう)。
「旗色鮮明」が「旗幟鮮明」の誤用であることは判るとして、「弱冠29歳」などというのも、「弱冠」は二十歳の異名だそうだから、ちょっと離れすぎで、今までさほど意識しなかったけれど、誤用と言えるかも。
「忸怩」「齷齪」「髣髴」「齟齬」など著者は"双生字"と洒落て呼んでいますが、共通部位のある字をカップルにして用いて初めて意味を成すものなのだそうです(「檸檬」「葡萄」「蝙蝠」など、意外と多い。「婀娜」「揶揄」「坩堝」などもそう)。
これらに対し、"雌雄"の組み合わせを"陰陽字"と呼んでいて、「翡翠(ひすい=カワセミ)」「鴛鴦(えんおう=オシドリ)」などがそうですが、「鳳凰」「麒麟」というのも"陰陽字"であるとのこと(同時に"双生字"でもあるものが多い)。「虹」はオスのにじで、メスのにじを表す字が別にあるそうです。
また、「卓袱(しっぽく)料理」の「卓袱」に「台」をつけると「卓袱(ちゃぶ)台」になるけれども、こういうのは、"二重人格"の字と言えるようです。
「虫」が病気のシンボルであるというのは興味深いですが、「蟲惑」の「蟲」が、虫を使った呪術を表わすということは、白川静も言っていました。
知らなかったのは、「美人」が宮廷の女官名であったということ(項羽の「虞美人」などもそう)、「夫人」も同じく女官名でしたが、美人より遥かに位は上だったそうな。
この手の本は「蘊蓄本」と言えばそれまでで、(本書は構成が工夫されている方だが、それでも)読んでもさほど残らないのだけれども、その分、何回でも読み返せる?
《読書MEMO》
●山本昌弘 『漢字遊び』
①画数最大は「龍×4」の64画 →「雲×3+龍×3」の「たいと」84画説も
②読み方の多い漢字は「生」 200通り近くあるという説も
③「子子子子子子子子子子子子」→「猫の子の子猫、獅子の子の子獅子」
④「海海海海海」→「あいうえお」
⑤「髯」はほお、「髭」は口、「鬚」はあごのひげ
⑥漢字の2番目の音は「イウキクチツン」の7つのみ(苦痛いんちき)
⑦「春夏冬ニ升五合」→「商いますます繁盛」