【952】 ○ 岩瀬 彰 『「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活』 (2006/09 講談社現代新書) ★★★★

「●日本史」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2838】 谷口 克広 『検証 本能寺の変
「●講談社現代新書」の インデックッスへ

物価から昭和ヒトケタの時代の"サラリイマン"など庶民の生活を探った労作。

「月給百円」のサラリーマン.jpg 「月給百円」のサラリーマン 2.jpg
「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)』['06年]

 著者は共同通信社の中国総局に勤務する記者であるとのことですが、そういった人が個人で、昭和ヒトケタの時代の日本人の暮らしぶりを、モノの価格を中心にミクロ的な観点から調べ上げたもので、その精緻な調査ぶりには脱帽させられます。最近の講談社現代新書は、本によって密度の濃い薄いの差が激しいように思うのですが、これは濃い方で、庶民生活史としては第一級史料的なものに仕上がっているのではないでしょうか。

 大正から昭和になって不況があり、デフレ後は物価安定期が続いたとのことで、昭和ヒトケタの時代の物価は、目安として大体2千倍すれば今の物価に該当するとのこと。だから、「月給百円」というのは今の20万円で、その頃は今で言う年収240万円ぐらいで、まあまあ何とか生活できたらしい(本書を読み進む上では、この「2千倍」計算を頭の中で何度となく繰り返すことになる)。但し、モノの価格が2千倍なのに対し、ヒトの収入の方は5千倍に上がっているそうで(500万円が平均ということか)、やはり、日本人の暮らしは確実に豊かになったと捉えるべきなのでしょう。

 因みに、当時と今と比べて、"2千倍"比率を超えて相対的に大きく価格上昇しているのは、住宅(地価)と教育費(大学授業料など)であるとのことで、地価はともかく大学授業料は、大学出が超エリートだった当時と比べると(但し、やがて大学を出ても就職できないような状況も生まれるが)、今は大学進学がかなり普通のことになっているだけに、やはり、今の授業料高はおかしいのではと、個人的には思った次第。

 著者による調査は、日常の生活物価だけでなく、一流企業の初任給や軍人の俸給から花街の玉代まで多岐に及んでいて、どの会社も国立大(帝大)卒と私立大卒では同じ大卒でも初任給が違った、などといったことから、身売りしてきた娼妓の前借りが平均千百円(今の2百万円ぐらいか)だった、ということなどまで、様々なことを本書で初めて知りました。

 数字だけでなく、間に挿入されている庶民生活や風俗に関する記述も興味深く(「援助交際」や「サラ金」なども当時からあった)、但し、本書は"サラリイマン"など一般の都市生活者を中心に書かれていて、一方で、資本家と労働者、都市と農村の貧富の差が今以上にずっと大きいものであったことを指摘することも忘れてはいません(そうした点で、今の中国が1930年代の日本によく似ていると指摘しているのが興味深い)。

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1