【938】 ○ 結城 康博 『介護―現場からの検証』 (2008/05 岩波新書) ★★★★

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国の介護福祉政策と現場の実態の解離を考えさせられた。

介護―現場からの検証.jpg 『介護―現場からの検証 (岩波新書 新赤版 1132)』['08年] 結城康博.jpg 結城康博 氏 (ケアマネジャー・淑徳大学准教授)

 '00年の施行後7年を経た介護保険制度のもとで、介護の現場はどのようになっているかを解説しつつ、国の介護福祉政策の問題点を浮き彫りにしたもので、日本の社会保障(介護福祉)は一体どうなってしまっているのだという暗澹とした思いにさせられる本でした。

 ルポルタージュ形式で挿入されている厳しい「老老介護」の実情や入所が困難な「特別養護老人ホーム」の状況など、読んでいるだけで自らが不安を感じるぐらい...。
 一方、国の施策としては、「特養」においては相部屋を減らし個室を増やしたり(数が足りていればいいが、不足している状況では入所できない人が増えるだけ)、それなのに、通所介助には保険が効かないなど、在宅介護に対する施策に不充分な点が目立つように思いました。

コムスン問題.jpgコムスン折口1.jpgコムスン折口2.jpg こうした中、在宅のお年寄りを騙して高額商品を売りつける悪徳業者がいるというのは腹立たしいことですが、問題となった訪問介護のコムソンなどは、国に対して、家事などの「生活援助」しかしていないものを「身体介護」をしたと偽って不正請求していたわけで、利潤追求の財源は国民の納めた保険料であったことを考えると、国民はもっと怒っていいのではないかと。

コムスンの「光と影」日本経済新聞(2007.6.19朝刊)

 しかし、一方でコムソン問題の底には、ケアプランニングにおいて区別される「生活援助」と「身体介護」が実際にはそんな明確に区分できるものだろうかという問題もあり、事件の処分として「連座制」による罰則適用により1事業所ではなく会社全体の業務が継続できなくなった問題(これが他の事業者にも波及して、ある法人のある事業所でフィリピン人を使用しただけで、法人の全事業所が業務停止命令を受けるといった事態まで生むことになっている)、更には、介護業界全体の人材不足の問題などを浮き彫りにしたということがわかります(コムソンのような事業者が、この業界における低賃金・低昇給モデルを既定のビジネスモデルにしてしまったから、人材不足が生じ、外国人を使わざるを得なくなるのだが)。
 介護福祉士資格を一定期間内に取得するということを条件に、フィリピン人の介護従事者の受け入れが徐々に始まっていますが(日本語を学ぶだけでも大変だと思うが)、規制緩和の前に規制強化することはよくあることです。

 政府の対応は、社会の批判に過敏になり、それをかわすことが目的化している面もあるように思え、長期の慢性疾患の患者が入院する「療養病床」の削減(「医療型」は削減、「介護型」は漸減的に全廃へ)なども、「社会的入院」に対する批判に応えたものと言えるでしょうが、本当に介護の必要な人への病院を追い出された後のケアが薄く、本書を読むと、少数の問題意識のある自治体だけがフォローに回っている感じがします。

 著者は、大学を卒業し(修士で経済学、博士で政治学を専攻)、その後数年間、福祉施設の介護業務に従事、今年('08年)4月からは大学で教鞭をとる傍らケアマネジャーの仕事もしているという人。本書では行政担当や政治家にも取材していますが、本書自体の政策提言はやや掘り下げが浅い感じもしました。
 本書は、「現場からの告発」とも言える本。本書執筆を機に学究にウェイトを移行するようで、その部分は次の展開を期待したいです。

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