【937】 △ 大澤 真幸 『不可能性の時代 (2008/04 岩波新書) ★★★

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師匠(見田宗介)の本より面白い。但し、後半は、共感するしない以前に、よくワカラナイ...。

不可能性の時代.jpg 『不可能性の時代 (岩波新書 新赤版 (1122))』 ['08年]  社会学入門−人間と社会の未来.jpg 見田宗介 『社会学入門―人間と社会の未来 (岩波新書)』 ['06年]

 著者は東大の見田宗介ゼミ出身の社会学者ですが、見田氏が'90年代に、戦後の時代を「現実」の反対語により「理想の時代」('45〜'60年)、「夢の時代」('60〜'75年)、「虚構の時代」('75〜'90年)と区分したのを受け、本書ではこれを補強解説していて、この部分は比較的わかり易いし、師匠の近著『社会学入門』('06年/岩波新書)よりもむしろ興味深く読めました。

 学者で言えば柳田國男・折口信夫から東浩紀・吉見俊哉まで触れ、創作で言えば、浦沢直樹の『20世紀少年』の読み解きから、松本清張『砂の器』と水上勉の『飢餓海峡』の類似点指摘まで、事件で言えば、三島由紀夫事件からオウム事件まで、或いは少年N(永山則夫)から少年A(酒鬼薔薇聖斗)まで幅広く触れていて、見田氏の言う「社会学」という学問が「なんでもあり」の学問であることをよく表しているという点では、こっちの方がむしろ「社会学入門」と言えるかも知れません。

 但し、部分部分でナルホドと思わせられる点はあったものの(例えば、柳田國男が戦後に復活を求めた「家」は、結果的に「マイホーム」に置き換わってしまった(内田隆三)とか)、他者からの引用の部分にむしろ感応させられたかも。
宮崎勤死刑囚.jpg 著者はそれらにまたひとひねり加えていて、オタク論においては、東浩紀や大塚英志を参照しながらも、M(宮崎勤)の事件をもとに独自の身体論や疎外論を展開していますが、この辺りから(共感する部分もあったことは確かだが)牽強付会気味なものを感じ始めて個人的にはついていけなくなり、酒鬼薔薇事件('97年2月)後まもなく永山則夫の処刑(同年8月)が行われたということが、秋葉原通り魔事件('08年6月)から10日もしないうちに宮崎勤死刑囚の処刑が行われたことにダブったのが、一番のインパクトだったりして...(本旨ではない細部に目が行きがちになってしまう)。

 本書において見田宗介の忠実な後継者であるようにも見える著者は、「虚構の時代」の次に来たものを「不可能性の時代」とし、現代社会の特徴として「現実から逃避」するのではなく、「現実へと逃避」する者たちがいること、大衆文化の中で、破壊的な「現実」への嗜好や期待が広く共有されていること(218p)を捉え、それはむしろ、真の〈現実〉、真の〈破局〉に向き合うことを回避する社会傾向だとしていて、こうした"逃避"の行き先である「現実嗜好」、或はその裏返しとしての「破局嗜好」は、真の破局を直視することを避けようとするものであると―(そう述べているように思った)。
 破局への嗜好を、真の〈破局〉を直視することで断ち切ることに、普遍的な連帯への手掛かり(可能性)があるといった論旨でしょうか。

文明の内なる衝突.jpg 著者の本を読むのは、『文明の内なる衝突』('02年/NHKブックス)に次いで2冊目ですが、9.11テロとそれに対するアメリカの反攻に内在する思想的な問題を、「文明の衝突」というハンチントンの概念を援用して読み説いたこの本においても、テロリズムとナショナリズムの同位性などの着眼点は面白かったが、解決の手掛かりが抽象的であるように思えました。
 今回もテーマの一部としてこの問題は扱われていますが、対象とする問題の範囲が広い分、結論の抽象度は更に高まったように思います。
 後半部分は、共感するしない以前に、ワカラナイ部分が多すぎたというのが正直なところです。

《読書MEMO》
●現代社会は、二つのベクトル―現実への逃避と極端な虚構化―へと引き裂かれているように見える。(中略)究極の「現実」、現実の中の現実ということこそが、最大の虚構であって、そのような「現実」がどこにあるのかという想定が、何かに対する、つまり〈現実〉に対する最後の隠蔽ではないか。(中略)一方には、危険性や暴力性を除去し、現実を、コーティングされた虚構のようなものに転換しようとする執拗な挑戦がある。他方には、激しく暴力的で、地獄のような「現実」への欲望が、いたるところに噴出している(165-166p)

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This page contains a single entry by wada published on 2008年6月28日 23:10.

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